110話『トリプル・ゴブリン』
目の前のゴブリンたちが言った聞き覚えのある言葉を思い出そうとする。
「5人衆……どっかで聞いたことあるな。」
俺は槍を構えながらゴブリンたちに話しかける。
確か聞いたのは、ディモンド王国にいた時だ。
「お前ら、あのコッザとかいう奴らの仲間か?」
「懐かしいな、1ヶ月くらい前に殺された同期の名前だ。」
カヒトと名乗った棍棒を持ったゴブリンが若干イラついたような表情で俺に話しかけてくる。
俺の師匠が倒した強そうだったゴブリン、コッザの同期とのことだ。
「それで、幹部直属の部隊であるお前らがなんでここの看守をしているんだ?」
「頭の任務がリズラス王国と仲良くするってもんで、俺たちはその一端としてボランティアしているってわけだ。」
カヒトが簡単に説明をしながら後ろに下がる。
「逃げるのか?」
「お前らより先に脱獄した奴らを殺さないといけないんでな。」
「逃すか!」
俺は槍を構えてカヒト目掛けて突き出す。
横から大きな鉄の板が弾いてきた。
大盾を持ったパッジと名乗ったゴブリンが大笑いする。
「邪魔だ!放たれろ!」
詠唱と共に雷竜の槍の穂先が打ち出された。
穂先は大盾に直撃して爆発した。
周囲の通路に衝撃波が伝わったのかヒビが入り崩れる。
土煙が晴れると共に、目の前に直撃したところが凹んだだけの鉄の板が聳え立っていた。
「凹むだけ?」
「頭の上司が作った魔法耐性のついたこの大盾、頭の神器以外で貫けると思うなよ!」
目の前の大盾の裏から聞こえる笑い声に苛立っていると、サイアが横から突き飛ばしてきた。
大盾の後ろから飛んでくる弓矢が俺の脚があった場所を通って地面に転がっていた。
「ショウ様、矢じりの色からして毒が塗ってある可能性があります。気をつけてください。」
サイアに言われて地面に転がった矢を見る。
矢じりから黒色の液体が垂れて、床から煙が出ていた。
「おい、毒つきなのバレてるぞ。」
「あの狼、勘がいいぞ。ランサーより気をつけろ。」
大盾の後ろからゴブリンたちの話し声が聞こえてくる。
「サイア、あの大盾持ち、どうにか出来るか?」
「背後に回れればなんとか出来そうですが、まず背後に回させてもらえなさそうです。」
サイアの返答を聞いて、軽くため息を吐く。
「俺が回り込む。サイアは盾持ちが後ろを向いたら攻撃してくれ。」
俺はサイアに言い放って、目の前に聳え立つ大盾に向かって走る。
「おいきたぞ!」
「まじか!?」
最後の1体、ゲラと名乗った弓使いが慌てた声をあげながら弓を引き絞って縦の左側から飛び出す。
当たるだけでまずいのだけは理解しているから杉に右側に寄る。
更にゲラが左から出て当てようとすると、サイアが氷のナイフを投げつける。
「うおっ!」
急いでゲラは大盾の裏に隠れてナイフを避けられたが、ここまで近づけば狙う余裕はないだろう。
右側から大盾の裏に入り込む。
大盾の裏では、すでに矢をつがえ直したゲラと、軽く悲鳴をあげながら大盾を支えるパッジの姿があった。
ゲラの放った矢を、腰を捻って避けながら雷竜の槍を振り上げる。
穂先はさっき放出したばかりだからすぐに復活しないが、ダメージを与えるには十分なはずだ。
顔に冷や汗をうかばせているパッジに槍を叩き込もうとした瞬間、脇腹に鈍い痛みが走る。
脇腹を見ると、遠くから伸びてきた楕円形の物体が叩き込まれていた。
楕円形の物体には鎖がつけられていてそれを伝ってみていくと、少し離れたところからカヒトが丸い打撃部の無くなった棍棒を持っていた。
「頭の上司、試作という割には結構性能いい武器をよこすじゃねえか。」
カヒトが笑いながら棍棒の丸い方を接続部に戻した。
だが、少なくとも大盾持ちが俺を無視できずこっちを向くはずだ。
後ろの2匹のゴブリンの方を振り向く。
パッジは大盾の裏にあるパーツを起動させる。
大盾の側面が少し広がり、その隙間から無数のワイヤーがついた針が飛び出した。
針は壁に突き刺さると、外れないための返しみたいなものが飛び出した。
「大盾の固定、完了だ。」
パッジが笑いながら大盾の裏の別の取手を握る。
取手を引っ張るとちょうどゴブリンの半身を守れる程度の大きさの盾と、その盾の裏から刺股を取り出していた。
「悪い、盾に入れてた矢の半分以上がさっきの衝撃でぶっ壊れた。」
パッジが申し訳なさそうに笑いながら刺股を構える。
「その大盾、道具箱かよ。」
「俺の武器と同じアルケミストが作ったやつだ。まだまだ面白い武器はあるぜ。」
ゲラが大盾の裏に弓を収納しながら反対側の取手を掴む。
同じような盾の裏から、短い錐みたいな武器を取り出していた。
大盾から伸びているワイヤーと針には明らかに隙間はあるが、サイアがこっちに来れそうな隙間はなかった。
2対3から1対3へとさらに状況が悪化していた。
「んじゃ、お前も牢獄に入れてやるよ!」
カヒトが叫びながら振り回している鎖玉を投げ飛ばしてくる。
サイドステップで避けると、鎖玉はそのまま壁にめり込んでいた。
そのまま横を向くとパッジが刺股を突き出してきていた。
咄嗟に槍で防いでいるとパッジの背後をカヒトが走っていく。
何か仕掛けるのかと目で追っていると、背後から気配を感じる。
後ろを見るとゲラが俺に錐の先端を向けながら持ち手に付いたボタンを押す。
咄嗟に右腕で顔を守ると、予想したような突き刺さる痛みが伝わってくる。
まだ痛みを感じる腕を伸ばして、先端がなくなった錐を持ったゲラの首を掴んだ。
暴れ回るゲラを必死に痛む右腕で抑えていると、槍で抑えていた刺股の力が強くなる。
「ゲラ!早く振りほどけ!」
パッジの焦った声を聞いて、ゲラを掴む力をさらに強める。
おそらく、今掴んでいるゴブリンが要の動きをしているのだろう。
「逃さねえぞ!」
俺は掴んでいるゴブリンに向かって叫ぶと、左肩に鈍い痛みが走る。
振り向くと、カヒトの棍棒が叩き込まれていた。
打撃部分はダイヤを立体化した形になっている。
「仕方ねえ!パッジ、お前がやれ!」
「おう!」
カヒトが叫ぶと共に俺の背中目掛けて棍棒を投げつけてきた。
咄嗟に体を捻って逸らすと同時にパッジが刺股を捨てて避けられた棍棒めがけて走り出す。
「まさか……!」
嫌な予感を感じて後ろの壁を見ると、カヒトがめり込んでいた鎖玉の鎖を握りしめてパッジと逆方向へと走り出した。
急いで鎖を掴もうとした瞬間、右腕に激痛が走った。
見ると、腕に刺さった錐の先端を、ゲラが手のひらでさらに押し込んでいた。
次の瞬間、俺を囲むように床に落ちていた棍棒の鎖が俺とゲラを締め上げた。
「拘束完了だ!」
「俺ごとじゃねえか!」
至近距離でゲラが爆笑しながらつっこんでいる。
なんとかしたいが腕も縛られているし、槍も鎖に縛られていて上手く向けることができない。
「ゲラ、ピックのハンドルを渡せ。替針をつけて足を動けなくする。」
ゲラが俺に頭突きするように頷きながら手首を捻って錐の柄をカヒトに投げ渡した。
「剣技『バンブレイク』!」
カヒトが大盾の引き出しを開けようとした瞬間、大盾の右のワイヤーが全て音を立てて両断され、刀身にヒビの入った剣が入ってきた。
そのまま斬り上がってくる剣を驚いたカヒトが避けるが、刀身が折れてそのまま右耳を軽く斬り裂く。
「なんだ!?」
「ショウ!無事か!」
右側から大盾を押し除けて、ヒロとサイアが入ってきていた。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。




