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11話『溺れる宴会』

「ということで、ワイトパンジー討伐を祝って、乾杯!」

食堂内にコップを掲げたレイスケの大声が響き渡る。

レイスケに続いて、食堂に集まっていた村の人々が次々とコップやジョッキを掲げていく。

俺も手元に持ったジュースのコップを掲げた後、すぐに飲み干した。

口の中に甘酸っぱい味が広がっていく。

「お疲れ〜。」

ジュースの入っている瓶を持ってカエデがやってきた。

「午前中に戦闘して結構疲れている時に宴会とかやると疲れが溜まるねえ。」

椅子に座りながらカエデが小さな声で呟く。

この宴会を開いたレイスケが1番働いてなかったら愚痴を言いたくなるのもわかる。

「俺絶対この宴会終わったらベッドに倒れ込むと思う。」

「私も、ポーションで怪我や痛みは治っても疲労感は消えないし。」

ゆっくりジュースを飲むカエデの腹部を見る。

白猿の拳が入ったはずの腹部には何の跡も残っていない。

「カエデ、あの猿に腹殴られていたけど、大丈夫か?」

「殴られた時はあばらが折れたっぽくて息できなかったけど、ポーションを飲んでから痛みは完全に引いて、あばらも治ったぽい。」

カエデが笑いながら喋るが、あばらまで折れたと聞いてそれどころじゃない。

「マジで危ない真似しないでくれ。カエデに死んでほしくないから。」

「大丈夫、死ぬ気はないよ。」

そう言いながら、俺のコップにジュースのおかわりを注いでくれた。

食堂の中心の人混みから、タツヤが出てきた。

顔が真っ赤になって足取りはかなりふらついている。

「おいタツヤどうした?」

「ショ〜ウ、いっしょにのも〜ぜ〜。」

間延びした声でタツヤが歩き寄ってくる。

俺に向かって倒れ込むタツヤを支えると、すごい匂いが周囲を漂い始めた。

「これ、酒の匂い?」

カエデが怪訝そうな表情でタツヤを睨みつける。

「ここのおさけうまいぞ〜。」

「とりあえず酔いを醒ませ。」

俺は酔っ払ったタツヤの頬をペチペチと叩きながらジュースを飲ませる。

少しして、タツヤの酔いが少し醒めたらしい。

「どんだけ飲んだんだお前?」

「3杯分は飲んだかな〜。」

俺は呆れてため息をつく。

「タツヤ、俺たちは18歳だぞ。こんな人が多い場所で飲んであいつに知られたら……。」

「この世界では15歳以上から合法で酒が飲めるらしい。」

俺の脳が酒を否定する意見を止める。

「覚えているか?イワ先が言っていたことを。」

タツヤが真剣な表情で俺に語りかけてくる。

高校にいた頃、10人くらいで学校の空室でこっそり酒飲んでいたのを担任の岩倉にバレて、学校全体に響き渡るほどの怒号でガチ説教されたトラウマが思い出される。

「あの時、イワ先は『お酒を飲んでいいのは成人してからだ!』って言っていた。」

何を言おうとしているかが、手に取るようにわかる。

「この世界じゃあ合法的に飲めるぞ!」

そう言ってタツヤが酒の入ったジョッキを掲げる。

横から止めるべきかどうかをカエデが戸惑っている。

俺は少し笑うと、離れた席にあった瓶を手に取る。

中身はもちろん酒だ。

「よっしゃ飲むぞ!」

「そうこなくちゃ!」

タツヤが俺の手元の瓶を受け取ると、さっきまでジュースが入っていたコップに酒を注いでくれた。

一口飲んでみると、唐突に頭が回らなくなった気がする。

徐々に意識は遠のいて行った。

次に目を開けた時に写っていたのは、泊まっている宿屋だった。

横を見ると、タツヤもぐっすり眠っている。

起きあがろうとするが、めまいと頭痛でうまく動けない。

「タツヤ、動けるか?」

横で寝ているタツヤの肩をポンポンと叩く。

タツヤも大量の汗を流しながら体を起こす。

「おはよう、ショウ。」

頭を抑えながらタツヤが必死で起きあがろうとする。

「俺たち、絶対飲みすぎたな。」

「そうだね、後で女子たちにどう言えば……。」

タツヤが布団をめくって、顔を真っ青にする。

「どうした?」

俺が問いかけると、体を震わせながらタツヤが俺の方を向く。

「俺たちさ、昨日何もなかったよな?」

「お前どういうこと……。」

俺はタツヤを見て、言っている意図を察した。

タツヤと同じように、布団を捲る。

何も着てない……。

揃って青くなった顔で見つめ合う。

「どうなっていんだこれ!」

「こっちも知りたいよこんな状態!」

言い争っていると、部屋の扉が開いてカエデが入ってきた。

表情は何も考えてないと思えるほど真顔だ。

「待ってカエデ、今ちょっと……。」

「お願い、こっちを見ないで!」

「裸なのは知っているから。」

カエデの発言を聞いて2人揃って唖然とする。

カエデはそういうとベッドの上に、俺たちの着替えを置く。

「2人とも、昨日飲んだ後のこと覚えてる?」

カエデの質問に、タツヤと共に首を横に振る。

呆れた表情でカエデは昨日のことを教えてくれた。

昨日俺とタツヤは、はめを外して酒を村の人たちと共に飲んでいた。

その声は人混みが苦手で外で食事をしていたユリとサイアが耳を抑えたくなるほどだったと言う。

そして、その宴会の席で飲んだ酒がとても強いものだったらしく、食堂で酒を飲んだ俺たちや村の人のほとんどがトイレへ向かって吐きに行ったらしい。

俺はトイレに駆け込めたが、タツヤが入れ替わる際に限界を迎えて俺の服共々吐いて汚した。

その後の介抱をカエデと外から戻ってきたユリで服を脱がして洗濯していたとのことだ。

「すみませんでした!」

服を着て真顔のカエデに全力で頭を下げる。

「とりあえず、2人は2度と酒を飲まないで。」

頭を下げている俺たちを見ずに、カエデは部屋を出て行った。

俺たちは顔を見合わせて、息を呑む。

「酒は飲んでも飲まれるなってこう言うことか……。」

「今度カエデが気に入ってた焼き菓子買っとこ。」

その後、俺とタツヤは良心を痛めながら部屋を後にした。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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