108話『潜入』
タツヤが周りに人がいないのを確認しながらダイキに作ってもらったノコギリ状のナイフを城の柵に当てる。
「結構硬え。少し時間かかるぞ。」
タツヤは苦笑いしながら切り取れた柵を1本、床に落とす。
『おい夏川、頼みがある。』
カバンの中から夢野の声が聞こえてきた。
「何?」
『一度だけ俺の部屋にある魔法陣と俺の持ってる魔法陣を繋げて欲しい。』
「わかった。『転移書簡』。」
私が詠唱すると、水晶玉の中で魔法陣が見えた。
『ありがとう。』
「ショウたちは?」
『すでに中に入った。俺も後から合流するが、先に逃走用の道を作る。そっちも武器を頼んだぞ!』
そう言うと夢野は水晶玉から消えていった。
タツヤに視線を戻すと、人が入れる大きさに空いた柵の奥からタツヤが手招きしていた。
「うん、ちょっと待ってね。」
「あ、ちょっと待って!」
私が頭から柵の穴に入り込むと、タツヤが慌てて止めてきた。
無理に入ると、すぐに止めた理由がわかった。
着ているローブの裾が柵に引っかかって入れない。
「一旦戻って、足の方から入ってくれ。」
「わかった。」
一度柵から出て、柵を掴む。
ブランコの容量で足から滑り込んだ。
一瞬ビリッと嫌な音が聞こえたが、頭から入るのと違ってすんなり入ることが出来た。
顔を上げると、タツヤが気まずそうに私から目を逸らしている。
どこが破れたのか服を見ると腹部から胸にかけてローブの下に来ていたシャツが裂けていた。
「タツヤ、あんたの部屋にベルトとかってある?」
「ああ、使っていいぞ。」
目を逸らすタツヤから了承を得て、転移書簡を起動する。
魔法陣からベルトを取り出してローブを着物みたいに前を閉じて斜めにベルトを絞めてなんとかする。
「それで、神器が置かれている倉庫はどこにあるんだ?」
タツヤが尋ねてきたので、1枚の紙を取り出す。
広げると、そこには城の見取り図が描かれていた。
「どこでこれを?」
「あの頼りない女にもらった。」
私が昼間にカアイと会った時にもらったのが、この城の見取り図だった。
見取り図を見る限り、倉庫は地下の南側にあるようだ。
そして、その地下へ通じる道は北側にあるらしい。
「早く取りに行くよ。」
私が話しかけると、タツヤが急に腕を掴んで引っ張ってきた。
「え、どうし……!?」
急いで訪ねようとするが、タツヤが口に指を置いているのを見て察した。
慎重に後ろを振り向くと、見回りをしているらしい2人の兵士が歩いて行った。
兵士たちは私たちにも気づかずに歩いて行った。
「あいつら柵の穴気づいてないの?」
「ちょっと待ってて。」
タツヤがそういうと、鞄から緑色の濡れたダガーを取り出して兵士たちに近づく。
1人が気がついたのかタツヤの方を振り向くと同タイミングで、肩をダガーで軽く切りつけた。
「おっ…おっ……。」
肩を抑えた兵士はそのまま変な声を立てて地面に倒れた。
「おい、どうし……。」
もう1人が振り向くと同じくらいのタイミングでタツヤがしゃがみ込んで横に回る。
喉に向かって手刀を叩き込みながら肩を切りつけていた。
「じっじんにゅ……。」
兵士が何かを言おうとしたところで、そのまま仲間の上に倒れ込んだ。
「これでOK。」
タツヤが小さな声で話しかけてくる。
近づいてタツヤの手を見る。
手に持っているダガーは青銅のダガーだった。
「ただのダガーよね?」
「レイスケが作った麻酔薬を塗ってみた。」
タツヤがちょっと笑いながらダガーを切先を見せる。
青銅のダガーの刃先には緑と茶色の液体がついていた。
「死なない?」
「本人が自分に使った際3時間くらい動けなくなるらしい。」
脳内で眼前で倒れている2人みたいに痙攣しているレイスケを想像する。
タツヤは兵士を見て何か思いついたのか、兵士の兜を取る。
「城の中に入るなら、変装したほうがいいだろ?」
笑いながら私に向かって兜を投げ渡してきた。
次々とタツヤが兵士から剥いでいく鎧を身につけていく。
「この杖はバレるか。『転移書簡』。」
馬車の荷物置き場に繋がら魔法陣を展開して、普段持っている杖を入れる。
そのまま馬車の荷台の中にあるボールペンサイズの杖を取り出す。
木製で壊れやすいが、隠し持つのにはうってつけだ。
鎧を着終わると、タツヤが剣を渡してきた。
「私もあなたも使えないでしょ?」
「帯刀していた方がバレないだろ?」
タツヤの言い分を聞いて、納得して腰に剣をつける。
一緒に城の北側の扉へと着いた。
城の入り口前に門番らしい兵士が立っている。
「よお、見回りは終わったぞ。」
「おう、お疲れ。」
若干疲れた声の門番が声をかけたタツヤに返事をする。
「ずっと突っ立って大変だな。」
「俺もうあの王子の顔すらも見たくない。」
門番はため息混じりに呟く。
「何かあったのか?」
「お前らにも話しただろ。俺の姉が不敬罪で城に連れてかれて辱められて死体になって家の前に捨てられてたって。」
門番はため息を吐きながら話す。
タツヤも急に重たい話のせいか、固まって動く気配がない。
「ねえ、敵討とかって考えたことある?」
「え!?」
横から私が門番に話しかける。
急に私が横から話しかけたからか、タツヤが若干驚いた声が漏れていた。
「考えたけど、べキリ様まで裏切る事は出来ない。」
門番はため息を吐きながら話す。
「じゃあ、私たちがそのコイズ王子をやっつけるってのはどう?」
「難しいだろうな。今日の昼に連れ去られてきた近衛を倒した女でも緑の看守に倒されていた。」
門番の話を聞いて少し驚く。
今日の昼に連れ攫われたということはカエデのことだろうが、多分私たちの中で一番強いだろうカエデが倒されているとなると不安しかない。
「看守ってそんなに強いのか?」
「緑の看守は植物を操る奴だ。コイズ王子の部下が作り出したゴーレムだとか、初めての植物モンスターだとか色々な噂が立っている。」
門番の話を聞いて、少し不思議になる。
この世界のモンスターの図鑑を見た時、虫や魚、獣や爬虫類などの動物系、スライムや見たことないが石みたいな基本的に形を持たない物体系、ゴブリンやジャイアント、4種の獣人とヴァンパイアの人に近い形のモンスターは乗っていたが、植物系のモンスターに関しては一切ない。
おそらくコイズ王子の部下が作ったゴーレムの可能性の方が高いだろう。
「それに看守だけじゃねえ。赤髪の警備部隊長やその緑の看守に従う小さな牢の番人たちと、コイズ王子の兵士は強者揃いだ。やめておけ。」
門番はそういうと、再び直立する。
「まあ、看守とかも私たちでなんとかするから教えてほしいことがあるの。」
私は門番に話しかけながらさっきの女の紙を取り出す。
「私たちを城の地下にある倉庫まで連れてって欲しい。」
門番は不思議そうな表情で紙を覗き込む。
その背後でタツヤがさっきのダガーを手の中に隠して近づいていた。
「この地図、間違ってるな。」
「え?」
門番の返答を聞いたタツヤが驚いて声を漏らす。
実際今の話は私も耳を疑っている。
「地下にないってこと?」
「いや、倉庫が地下なのはあっている。問題は道順だ。これだと到着する場所は拷問部屋だぞ?」
門番の説明を聞いて、嫌な可能性が浮かんでくる。
「わかった、案内して。」
「怪しまれたら速攻でお前らを差し出すことが条件でいいか?」
門番の質問に親指を立てた。
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