106話『腐った王子』
被せられた布が乱雑に外される。
目を開けると、歴史の教科書とかでしか見たことないような豪華な作りの広間だった。
「ここは……どこ?」
「お前、よくも俺の行進を汚したな。」
目の前を見ると、美しい銀色の鎧を身に纏った男がいた。
脂ぎった顔には顰めっ面を私に向けてくる。
腕を動かそうにも、後ろで縛られていて動かすことはできない。
「動くな。」
後ろを見ると2人の兵士が槍と斧を構えながら命令してくる。
腰を見ると鉄の剣と神器の炎の剣は無かった。
部屋にいるのは私含めてこの4人だけのようだ。
サイアちゃんとユリがいないのを見るに、まだ捕まっていないことだけは分かって安堵する。
「罰として我が下僕となれ。」
偉そうな男は言いながら私に脂汗が滲み出る顔を近づけてくる。
ひどい匂いが鼻に入ってきて気持ち悪くなって顔を背ける。
「どうした?不敬の罰を我が下僕となることで許してあげるのだぞ?」
「すみません、匂いがきついです。」
「あ?」
私の返事に男が目を血走らせて顔を近づけてくる。
匂いがさらにキツくなり後ろに後ずさる。
後ろで斧を構えていた兵士から少し苦しそうな声をあげている。
「俺にそんな口を聞くとは、俺を何者か知らないのか?」
「初対面の人のことなんて全く知らないです。」
とりあえず身分が高いのはわかるから丁寧な敬語で話す。
できる限り怒らせないような話し方を心掛けるが、目の前の男の顔からは明らかに殺意が満ちてそうな目で私を見てくる。
「俺はリズラス王国女王、べキリ・リズラスの息子、第1王子コイズ・リズラス様だ!」
男は名乗りながら自分を親指で指さす。
その動きの際に汗が周囲の床と私の髪に降りかかる。
斧を持った兵士が申し訳なさそうな声を兜の下から出しながら鎧のまま慣れない手つきでハンカチを取り出して私の頭についた汗を拭いてくれる。
「まあいい、今から俺の威厳を知らしめてやる。こいつを俺の寝室に連れて行け。」
コイズは叫びながら後ろの2名の兵士に叫ぶ。
寝室と聞いて嫌な予感が感じて槍を持った兵士に体当たりする。
さっきまで私が素直に指示に従っていたからか、もう1人の兵士が斧を構える。
「まだ逆らうか!」
コイズが叫びながら手をならす。
部屋の扉が開き、10人ほどの兵士が武器を持って広間へと入ってくる。
斧持ち4人とと槍持ち4人、弓持ち2人、最初の2人も合わせて12人。
1人も剣持ちがいないことに少しため息を吐きながら周囲を見回す。
「逆らうとか考えるなよ?武器は回収して、それ以外の武器を使う兵士で固めた。」
コイズは笑いながら近づいてくる。
私はコイズ残しを一瞥した後、後ろから腕を掴もうとしてきた兵士に後ろ蹴りを叩き込んだ。
「おい、動くなと言ってっ……!」
まだ何か言おうとするコイズの鎧で覆われた股間に勢いよく蹴りを叩き込んだ。
「ブギュアァっ!」
油を振り撒きながらコイズがのたうち回る。
飛び散る汗に驚いた一番近い兵士の槍に背を向けて手を勢いよく振る。
少し左腕に痛みを感じるが縄が切れる音も聞こえた。
自由になった右腕をコイズの腰へ伸ばす。
コイズは周りの兵士を剣以外の武器を持っている者で固めているが、当のコイズの腰には剣が携えられていた。
勢い任せに鞘の紐を引きちぎって剣を手にも取った。
「貴様!それは俺の!」
「面!」
何か言おうとするコイズの額めがけて剣を叩き込んだ。
コイズは額の肉が波打たせながら汗を撒き散らして倒れた。
「貴様、流石にこれ以上は問題だぞ!」
「弓持ち以外はコイズ王子を連れて出口を固めろ!弓持ちは隙を見て援護しろ!」
最初からいた斧持ちと槍持ちの兵士が各々の武器を構える。
私は両手で剣を持って2人を視界に捉えながら一歩踏み出した。
風を切る音が聞こえてきたからすぐに体を後ろにそらす。
目の前を矢が素通りしていくと、斧を高々と振り上げた兵士が目の前に迫っていた。
力一杯胴に叩き込むと、苦しそうな声を上げながらも踏みとどまっていた。
斧が来ると思って剣で受け止めるために姿勢を低くして横に構える。
しかし、兵士はそのまま横に倒れていった。
「え?」
一瞬目が倒れていく兵士に向いたが、すぐに視線を戻すと、槍を私に向けた兵士の姿があった。
「まずい!」
「槍技『スライドスラスト』!」
急いで後ろ飛びで退がるが、兵士の腕の中を滑るように伸びてくる槍の穂先が防ごうと構えた剣にぶつかった。
少し軌道がずれた槍は吸い込まれるように脇腹に突き刺さった。
「うっ。」
叫びそうになるが、我慢してすぐに槍を掴んで引き抜く。
内臓に刺さった感覚はなかったからまだ大丈夫だろう。
掴んだ槍をそのまま踏んづけて床にめり込ませた。
「しまった!」
「動くな!」
斧持ちが私の後ろに回り込んで再び斧を高々と振り上げていた。
少し不可解だったから一歩下がると目の前を2本の矢が交差して飛んで来た。
部屋の両隅で弓を持っている兵士が再び弓を番えていた。
目の前から振り下ろされる斧を鞘でずらしてそのまま足払いする。
鎧に蹴りを入れて少し足が痛むが、バランスを崩した斧持ちがそのまま転んでいた。
少し動きが鈍くなった2人を振り切って部屋の隅にいる弓兵の1人に向かう。
「こっち来るな!」
弓は軽く悲鳴を上げながら矢を飛ばしてくる。
首を少し傾けて矢を避けて弓兵の小手に剣を叩き込んだ。
「あがっ!」
「こいつよくも!」
反対側の隅にいた弓兵が矢を打ってくる。
屈んで壁に矢が当たる音を聞きながらそのまま全力で走って近づく。
「斧技『ダイレクトインパクト』!」
斧持ちの声と共に横から空を切る音が聞こえてくる。
すぐに右足でブレーキをかけると目の前を小野が通り過ぎ、柱に直撃する。
斧がぶつかった柱は一瞬でヒビが入って崩れた。
「何この威力!?」
目の前で音を立てながら床に転がる斧を見ていると、目の前に槍持ちの兵士が立ちはだかった。
「弓持ちは別の柱の裏に回れ!こいつは俺と相棒でなんとかする!」
槍持ちが弓持ちに向かって叫んでいる間に剣を纏っていた鞘を抜き取る。
私の方を槍持ちが見るのと同時に鞘を弓兵に向かって投げ飛ばす。
鞘が兜の覗き穴に突っ込まれた弓兵はそのまま倒れ込んだ。
「何!?」
槍持ちの兵士は驚いた声を上げながら私に向かって槍を振りかぶる。
槍のリーチ的に、避けなかったら柄が直撃で重傷、避けると穂先が直撃して致命傷になる位置だ。
「ごめんなさい!」
叫びながら兵士の腰目掛けて剣を横から叩き込む。
ちょうど鎧の隙間に入ったらしく若干出血していた。
槍持ちの兵士がうめいている間に後ろを向くと、さっきまで斧を持っていた兵士が拳を振り上げていた。
まだ躊躇いはあるが、剣をすかさず突き出す。
剣は兵士の右腕の鎧の隙間へと沈み込んでいく。
兵士は剣を引き抜かれた右腕を押さえてその場にうずくまる。
2人がすぐに動けないのを確認して出入り口の方を向く。
視線を向けられた入り口前の兵士たちが軽く悲鳴を上げる。
「コイズ王子側近の2名が負傷だと!?」
「コイズ王子を寝室へ!」
出入り口の兵士たちが慌てふためいていると、徐々に道が広くなる。
道の奥には、オレンジ色の鎧を纏った赤髪の女がいた。
「カアイさん!?」
「はっハヤカワさん、すみませんが私についてきてください。」
カアイが震えながら兵士の道を通って部屋へと入ってくる。
手には少し赤くて鋭い、ゴツいものが付けられていた。
RPGとかで武闘家が使うようなクロー系とかいう武器だろう。
「こっこれからあなたを牢獄へ連れて行きます。おっ落ち着いてください。」
カアイは若干逃げ腰のまま私の持つ剣の刀身を握る。
剣の刀身はカアイの付けたクローが触れたところから溶けるように折れて地面に落ちた。
ショウと一緒に見ていたロボットアニメで見たことある溶断する系の武器と速攻で理解した。
「ついていくから触れないでね。」
私が震えながら刀身がなくなった剣を床に置いて両手を上げた。
次の瞬間、カアイの後ろから緑色の紐見たいなものが巻きついてきた。
「え?」
何かを確認する暇もなく、私の体が真上へと持ち上がっていった。
天井がものすごい勢いで近づくのを最後に視界が暗転した。
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それと、投稿時間が遅れてしまい申し訳ございません。




