105話『自警団』
「……い、起きろ!」
目を開けると、全身甲冑の男が鞭を持っていた。
徐々に起こったことを思い出していく。
確かあの時、タツヤに攫われて……。
「タツ……ヤ?」
「おう、ここだ。」
横を見ると、パンを美味しそうに食べているタツヤの姿があった。
「体を起こせ。」
甲冑の男に支えられながら起き上がる。
周りを見ると、いかつい男たちが飲み食いをしていた。
マモルもビールとかが入ってそうな大きさの木のジョッキを持って俺に近づいてきている。
「タツヤ、これはどういう状況だ?」
「まあわかりやすく言うと、和解した。」
タツヤがちょっと笑いながら話す。
「それに関しては、俺が説明する。」
後ろから声が聞こえて振り向くと、気絶する前に見た厳つい顔面の男がいた。
「俺に頭突きしたやつか?」
「おう、この自警団の団長、ルーカスだ。さっきは頭突きして悪かったな。」
ルーカスと名乗った厳つい男は笑いながら謝ってくる。
結構痛かったから若干まだ許せてないのが顔に出てたのか、ルーカスは気まずそうな表情を浮かべていた。
「それで、自警団はなんで俺たちに襲いかかったんだ?」
「見慣れたローブの奴がいたからだ。」
ルーカスは申し訳なさそうに話しながら指をさす。
その方向にはさっきまで俺の近くにいた甲冑を着ていた兵士とともに木製のジョッキをぶつけ合っていた。
「もしかして、マモルの知り合いなのか?」
「おう、黒龍討伐で共に戦った仲だ。」
ルーカスは笑いながら手に持った木製のジョッキをマモルに向けて掲げる。
マモルもちょっと笑いながらジョッキをルーカスに向けていた。
「それで捕まったんじゃ?」
「おう、だから俺たちは黒龍を倒してくれたあいつらを牢獄にぶち込んだ王国にイラついてるんだ!」
ルーカスはジョッキに入ったジュースを飲みながら叫ぶ。
周りにいた他の部下が酒じゃないんだからと笑いながら宥めていた。
「それで、俺に頭突きして気絶させた理由は?」
「お前ら2人を国の兵士と思って掻っ攫った。すまなかったな。」
ルーカスはすぐに笑いながらジュースを新しく注いだジョッキを手渡してきた。
「お前らを信じていいのか?」
「信じていいと思うぞ。」
横に座ったタツヤが話しかけてくる。
「この国の王子が5年前から始めたあの行進、結構被害者が出てるらしくってこの自警団の創立も泥棒よりも王国から民を守るとかいう理由で結成されたんだって。」
タツヤの簡単な説明を聞いて、俺は改めて部屋の中を見回す。
「多くね?」
「多いね。」
「まあそういうわけだ。それと、さっきあいつから状況は伺った。俺たちも協力するぜ!」
ルーカスがマモルに指をさしながらウィンクをしてくる。
正直、助かるには助かるがまだ牢獄の状況とかを全く把握できてない。
とりあえず今は情報を集めてから動きたいところだ。
「少し考えてから動いたほうが……。」
「ルーカス!冒険者が道路で兵士と喧嘩を始めてた!」
扉を勢いよく蹴り開けながら1人の少年が入ってきた。
その後ろから見たことある狼の耳が動いていた。
「サイア!?」
俺が叫ぶと、真顔のサイアが少年の後ろから飛び出して人々の間を縫って近づいてきた。
『ショウ様、落ち着いて聞いてください。』
サイアが早口で若干聞き取りにくい声で話す。
「何があった?カエデとユリは無事か?」
「順を追って説明すると、まずご主人様が私に弓矢を向けていた兵士を突き飛ばして命を助けてくれました。しかしその後すぐに王の軍には向かったといい我々に襲い掛かり、ご主人様が素手で何人かの兵士を地面に張り倒していましたが、数の差で押さえ込まれていました。」
サイアの説明を聞いて徐々に胸騒ぎがしていく。
「ユリは?」
「隣で頭を伏せていただけなので多分大丈夫かと。私は主人が逃げるように言ったので路地に逃げ込んだのち、あそこの少年に連れられてここに来ました。」
「俺ちょっとユリ探してくる!」
タツヤが急いでジョッキのジュースを飲み切って少年を避けながら扉を出て行った。
俺はルーカスの方に視線を向ける。
「協力してもらってもいいか?」
「元からそのつもりだ。」
さっきまでの笑った表情と打って変わって真剣な表情でルーカスは首を縦に振っていた。
「ショウ様、申し訳ございません。」
サイアがその場で丁寧に正座をして頭を下げて土下座していた。
顔の表面からは一切情報は入らないが、体と言葉の震えから感情は察せる。
「いや、サイアは全く悪くない。安心しろ。」
俺はサイアの震える頭を優しく撫でる。
サイアの震えが少し収まってきていた。
「カエデは必ず俺が助ける。」
地図を開いて国の真ん中を目指す。
普段の散歩と違って休む場所がないせいで歩くだけでだいぶ疲れが溜まっていくが、今はそんなこと言っている場合ではない。
後ろから走り寄ってくる音が聞こえてくる。
鉄の音はしないから兵士じゃないことだけはわかる。
「タツヤ?」
「ああ、大丈夫か?」
後ろから話しかけてきたタツヤが不安そうな表情で話しかけてくる。
私は何も言わず、歩きながら首を横に振る。
「何があったか教えてくれないか?」
「サイアに矢が放たれた時、カエデが横に勢いよく突き飛ばして助けた。カエデは動揺した兵士の顔面に拳を叩き込んでしゃがんだ時に私に動かないように言って、兵士と殴り合いをして十数人倒したのち、縄で大量に巻かれて拘束されたのち連れて行かれた。私はただ隣にいた人ってことで目に止まらずに済んだ。サイアは路地裏に逃げてから分からない。」
少し長いが説明をすると、タツヤが少し情報を整理がうまくいってないのか頭を下げていた。
「一応サイアは俺たちのところに来て状況を知らせてくれて、今はショウのところにいる。」
タツヤの話を聞いて、サイアが無事なことがわかって少し安堵する。
「それで今はどこに向かってるんだ?」
「カエデを連れ去った奴らの城に向かってる。」
タツヤが少し驚いた表情をする。
流石に今すぐ殴り込むのはしない。
今はあくまで城を偵察するだけだ。
「あんたもしっかり見るようにね、多分侵入はタツヤがやることになるから。」
「まじか……。」
タツヤは少し不安そうな表情を浮かべながら歩いていく。
地図の通りに歩いて行って、城の近くまで到達した。
門は別のところだろうが、それは今考えることじゃない。
「どっか入れるところはあるかな?」
「あっあれ?みっみなさんどうしたんですか?」
後ろを振り返ると、カアイが馬車と共にやってきていた。
私は他の兵士に一礼してカアイに近づく。
「実は城に連れ去られた仲間を助けようと思って。」
私が耳打ちすると、カアイはなんか納得したような表情をしていた。
「わっ私は王の軍に反乱した女を監獄に連れて行くように言われました。なっなんでも素手で抵抗してきて慰み者にならないということらしくって……。」
カアイの話を聞いて若干呆れる。
とりあえずカエデはまだ無事そうで何よりだ。
「そういえば、カエデを監獄に送るってことは持ち物とかも移動させるんですよね?」
「そっそうなりますね。」
「後で一箇所にまとめてどこに置いたか教えてください。」
私の願いに、カアイは少し困った表情で頷いていた。
再び馬車が城へと向かった後、タツヤが近づいてきていた。
「なあ、さっき何の話をしていたんだ?」
「タツヤ、ショウたちの元へ連れて行って。」
私はタツヤの方を向きながら話す。
「カエデを取り戻すよ。」
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