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101話『河辺の狩人達』

「マジであんたたち何やってるのよ……。」

反対側の馬車の椅子でユリがため息に近い息を吐いていた。

俺とマモルは返す言葉もなかったから、ただひたすら頭を下げていた。

「まあ、許してあげれば?」

馬車を一定の速度で走らせながら、佐々木がユリに説得する。

その横ではいつでも戦えるように赤い剣をしっかり握っていた。

居酒屋から帰宅した後、ユリが城門の前で殺意剥き出しで待っててすぐに説教された。

サイアは少し注意される程度だったが、ユリが作ってたメモ帳まで汚れてしまったらしく、めっちゃ飲み食いした4人が本気でキレられた。

とりあえず今は、俺とカエデとユリとサイア、ダイキが急拵えで用意した装備を纏ったマモルと佐々木でリズラス王国に向かうことになった。

リズラス王国には、先に向かっていた夢野と星宮に国の散策をしてもらっていた。

彼らが言うには、リズラス王国の監獄は北側の山近くにあるらしい。

その監獄を取り囲むように東西と南に兵舎があるとのことだ。

「こうやって見ると、逃げ出すのは困難ね。どうやって逃げ出したの?」

ユリが簡易的に書いたリズラス王国の地図を見ながら尋ねる。

確かに地図を見る限り、簡単に脱出できるような場所ではない。

東西南は兵士に見つかる可能性があるし、北は寒すぎて出会った時の盾と服だけじゃ凍死しかねない。

「赤髪の女性が炎の魔法で僕の体を温めながら北の山から逃げ出すのを手伝ってくれた。ちょうどその時どこかの戦いで兵士を大量に駆り出していたらしく、見張りが少なかったおかげですぐには終われなかったんだ。」

「赤髪の女性は?」

「彼女は王国の兵士の1人らしくって戻らないといけないってことで山を降りた後は王国に戻って行ったんだ。」

マモルの説明をユリが丁寧に聞いて地図を見直す。

「彼女、今にも泣きそうな顔になってたから、僕も助けたいんだ。」

マモルが横で目を輝かせながら話していた。

カエデが若干心配そうな視線を俺に送ってくる。

昔からマモルは純粋で惚れやすい性格をしているが、女運はめちゃくちゃ悪い。

可愛い彼女できたと聞いて紹介されたら宗教勧誘されたり、出会い系で出会った女性とデートに行ったら後々ストーカーされたりしていた。

その女がヤバいやつでないことを祈りたい。

「まあ、とりあえずリズラス王国についてからその子についても考えよう。今は牢獄の3人のことを……。」

「うわっ!」

ユリが少し呆れながら答えていると、佐々木が驚いた声をあげて、馬車が止まった。

急いでカエデと共に佐々木の元へ向かって前を見ると、道を2匹の生物が塞いでいた。

5メートルほどの長さの体にはワイバーンみたいなゴツゴツした鱗と短い手足、大きな口の中には鋭い牙が並んでいる。

「ワニだ……。」

「ワニだな……。」

「ワニだね……。」

佐々木とカエデと一緒に馭者台から2匹のワニを見る。

動くそぶりは一切ないが、目だけは馬車の俺たちに向けられている。

馬たちもワニに怯えて進む気配が一向に無い。

「まあ襲ってこないなら何かしらの方法でどかしてからいけばいいんじゃない?襲ってくるなら私が倒すけど。」

カエデが笑いながら鞘から剣を抜いて、刀身から熱気を出す。

すでに戦う準備ができているのかと思っていると、何かを引きずるような音が聞こえてきた。

「ねえ、あれ……。」

佐々木が青ざめた表情を浮かべながら川の方を向いていた。

川を見ると、さらに4、5匹くらいのワニが這い出てきていた。

「なんか増えた!」

「なんで!?」

ワニたちを見ていると、後ろからユリが隙間から外を覗き込んできた。

「コルドゲーターね。」

「知ってるの!?」

驚いた表情でカエデがユリに尋ねる。

「図鑑で見たってだけ、北方の水辺に住んでて日中は暖かいところに向かう習性があるらしい……。」

ユリが図鑑の説明を思い出しながら話しながら、視線をカエデに向ける。

カエデの手にある剣の刀身が真っ赤に光っていた。

「ワニの数は7匹ね。おびき寄せた張本人のカエデは剣の熱で全部のワニの注意を引いて、後ろからショウとサイア、私で攻撃を叩き込む。カスミと赤崎は馬車を守って。」

「悪気はなかった!ごめん!」

カエデはユリに謝りながら馬車から飛び降りる。

さっきまで動く気配がないワニ達が予想以上の瞬発力でカエデに向かっていく。

一切警戒してなさそうな背中に俺は雷竜の槍を、ユリは杖を構える。

「放たれろ!」

「スプラッシュマグナム!」

雷と水球が2匹のワニに直撃する。

俺の雷が直撃したワニは背中が抉れて動かなくなり、水球が直撃したワニは勢いでひっくり返ってもがいていた。

なんとかなっていることに安堵していると4匹のワニが多方向からカエデに向かっていた。

「少し速くない!?」

カエデが赤い剣を叩き込んでいるが、一切通用している気配がない。

急いでダイキに直してもらったクナイ槍を握って背中を向けているワニの1匹に突き刺した。

鱗であまり深く刺さらないが、無理やり隙間に捩じ込んでいく。

少しして勢いよくクナイ槍が沈み込んで、ワニが苦しみ始めた。

必死にワニを動けないようにしながら顔を上げると、隣でサイアがひっくり返ったワニの腹部に氷のナイフを次々と刺しこんでいた。

先に槍を刺されたワニよりも早く、ナイフまみれになったワニが事切れた。

おそらく、硬い鱗の下に分厚い肉がある背中より腹部の方が攻撃しやすいのだろう。

「ユリ、他の奴らもひっくり返せるか!?」

「水球でも1体1体倒すの時間かかるけどいい?」

「それなら僕に任せて!」

ユリの後ろから、マモルが馬車を飛び降りてワニたちが1列に近い並びになるところで盾を構えた。

「放たれろ。」

マモルが叫んだ瞬間、盾を中心に風が吹き荒れ始めた。

風はワニたちを吹き飛ばし、3匹ほど裏返した。

マモルの神器は風を放つ盾とのことだ。

真正面から竜巻みたいな突風を出したり出来ると言っていたが、ここまで強い風を起こせるとは思わなかった。

「今だよ!」

「ナイス!」

俺は急いでクナイ槍を引き抜こうとするが、鱗の隙間に引っかかって全く抜けなかった。

すぐに雷竜の槍を持ち替えてひっくり返ったワニの中央に差し込んだ。

鱗の間に刺しこんだ時よりもすんなりと穂先が沈み込んでいた。

俺が槍を引き抜いている間に、サイアが残りの裏返ったワニに氷のナイフを次々と突き刺していた。

「これであと1匹だ。」

「早くしてぇ!」

声の方を向くと、残りの1匹のワニが口を開けてカエデに迫っていた。

急いで向かおうとすると、後ろから佐々木があのハンマーをワニの背中に叩き込んでいた。

鱗の間からワニの血液が溢れ出てハンマーの打面に赤い球体が作られていった。

「これで全部?」

集まった血液の球を川へと飛ばしながら佐々木が話しかけてくる。

カエデを襲っていたワニが動かなくなったのを確認して、ユリが近づく。

「綺麗に血が抜き取られてる……。」

「叩きつけた周囲から打面に液体を集めれるの。そのまま質量弾にして相手にぶつけるのも可能だ。」

佐々木の武器の説明を聞きながらユリはワニの死骸に魔法陣の描かれた紙を引っ付けていく。

「『転移書簡』。」

ユリが詠唱しながら川に魔導書を向けると、紙を貼られていたワニたちが神に引き摺り込まれて、次々と魔導書から川へと落ちていった。

「馬たちに怪我はないね。」

佐々木は馬たちの様子を確認した後、馭者台へと座った。

「もうそろそろリズラス王国近くの村に着く。気をつけてね。」

馬車に乗り込みながらユリが俺たちに話しかけてくる。

俺とカエデ、マモルは頷きながら馬車へと乗り込んだ。

しばらく休みをとってしまい申し訳ございませんでした。

少し精神的に参ってしまうことがあり、投稿が滞ってしまいました。

本日より再び投稿を再開しますので応援をよろしくお願いします。

そしてここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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