10話『落ちる雷』
白猿が腕を高々と振り上げる。
槍を振り回しながら後ろへ下がっていく。
さっきまで俺のいた場所に白猿の太い腕が振り下ろされた。
腕が振り下ろされたところに地面にヒビが入っている。
「みんな気をつけて!そいつは多分村の人々が森の主って言ってるやつだ!」
レイスケがユリの後ろに隠れながら喋る。
白猿が2人に向かって走っていく。
「バブルドーム!」
ユリが詠唱をしてレイスケと共に泡に包まれる。
ユリに向かって放たれた白猿の拳が泡に包み込まれるように沈んでいく。
拳はユリの顔面に届きそうなところで弾かれた。
「放たれろ!」
カエデの赤い剣の刃が白猿に向かって放たれる。
白猿は刃の爆発を後ろに飛んでかわした。
サイアが追撃として投げた豪華なダガーはさらに後ろへ飛んで避けられた。
「思った以上にすばしっこいね。」
カエデが赤い刃を生成しながらため息を吐く。
白猿の視線がタツヤに向けられる。
「俺かよ!」
白猿は走って竜也に近づき、左手に持った細長い棒を振るう。
タツヤは後ろに下がって棒を避ける。
しかし、タツヤの頬に切り傷が浮かび上がり、切り傷から赤い血が垂れてくる。
「なんだこれ!?」
竜也が頬を押さえながら俺の元へ走ってくる。
白猿がこちらを向いて棒を振り上げる。
その時、太陽の光に反射してきらりと光るものが見えた。
銀色に光るそれは、英語の『J』の形をしてあり、先端が尖っている。
「あいつの武器、釣り竿か!?」
白猿が釣り竿を振り下ろすと、釣り針が、走ってくるタツヤのズボンに突き刺さった。
足を取られたタツヤがその場に転んだ。
タツヤの手を急いで手を掴むと、ものすごい力で白猿の元へ向かう。
釣り竿を引っ張った白猿が後ろに引いていた腕を俺たちに向かって突き出す構えを取った。
タツヤを庇いながら槍を構える。
白猿の拳が突き出されると同時に、俺も拳目掛けて槍を突き出した。
腕に強い衝撃が加わると同時に、白猿の右手の甲から赤い血が吹き出した。
白猿は突き刺さった槍を腕から取り出すと、力任せに地面に叩きつけてへし折られた。
「俺の槍が!」
折られた槍に気を取られていると、白猿が俺に向かって突撃してきた。
「ショウ様危ない!」
サイアが俺と白猿の間に割って入る。
サイアが白猿に向かって水色の物体を投げつける。
透き通るような氷のナイフが白猿の腹部に刺さった。
浅く刺さったのか痛がる様子はないが、視線が腹部に向いたのをカエデが見逃さなかった。
「小手!」
白猿の左手に向かって、カエデの赤い剣が振り下ろされる。
しかし、白猿は腰を捻って鮮血が吹き出る右の拳をカエデの鳩尾に叩き込んだ。
カエデが勢いよく吹っ飛ばされ木に激突した。
意識はあるらしいが、勢いよくぶつかった衝撃でしばらく動きそうにない。
脳裏に今朝の夢が映し出される。
「このおクソ猿、絶対に殺してやる。」
白猿が俺たちの方を向こうとしていると、動きがピタリと止まった。
タツヤが白猿の腰にダガーが刺さったのを確認して、カエデを泡のバリアの中に連れていく。
これで今は目の前の白猿に集中できる。
「サイア、さっきの氷のナイフがお前が魔法で作ったものか?」
「はい、私は氷で武器を作るのが精一杯ですが……。」
俺の質問の意図をサイアは察したのか、すぐさま詠唱を始める。
「私が作る氷の武器は、とても脆いので丁寧に扱ってください。」
サイアはそういうと、俺の手に冷たい水色の槍を手渡してきた。
ダガーが抜けて、白猿が雄叫びを上げる。
「俺があいつに突撃するから、サイアは隙を見てあいつの釣り竿の糸を切ってくれ。」
そういうと、俺は槍を構えて白猿に向かって走り出した。
白猿は左手に持った釣り竿を勢いよく振るう。
釣り針は音を立てながら俺に目掛けて飛んでくる。
しかし、プツンという音と共に釣り針があらぬ方向へ飛んでいった。
背後から飛んでくる氷のナイフに感謝しながら氷の槍を白猿の腹部に目掛けて突き出す。
氷の槍は吸い込まれるように白猿の腹部へと突き刺さっていく。
ポキンと音を立てて氷の槍が絵の部分から折れた。
白猿は腹部を押さえながら後ろに下がる。
腹に刺さった槍がかなりのダメージだったのか曲芸みたいな避け方をしてこない。
俺は白猿の腹部を押さえている左手に勢いよく蹴りを入れる。
白猿の背中から鮮血が噴き出すのが見えた。
「そのまま苦しんで死ね。」
白猿に悪口を吐いてからユリの泡のバリアへと目を向ける。
バリアの中ではポーションを飲んで意識が戻り始めているカエデの姿が見えた。
カエデが無事なのを確認して安堵していると、右腕を締め付けられるような感覚が伝わってきた。
振り返ると、白猿が勢いよく俺の腕を握りしめていた。
「放せ、放せ!」
腕を振り解こうとするが、白猿の握力が強すぎて振り解けない。
白猿は目を見開きながら右腕を高々と振り上げる。
殺されると思って目を瞑った瞬間、轟くような音が耳元に響き渡った。
ゆっくりと目を開けると、さっきまで白かった猿が真っ黒になっていた。
黒焦げになった猿の胸元には穴が開いている。
そして黒猿の穴の開けた全体的に黄色い槍が、目の前の地面に刺さっていた。
何が起こったのか理解が追いつかない。
カバンから光っている水晶玉を確認するが、『ワイトパンジー討伐報酬:銀貨30枚』としか書かれていない。
「ショウ、なんだその槍?」
泡のバリアからタツヤがポーションを持って俺に駆け寄る。
もしかしてと思いながら槍の柄を持つ。
手に持った黄色い槍は、驚くほど自分の手に馴染んでいた。
「ようやく、俺の神器が届いたらしい。」
俺は黄色い槍を両手に持って空に掲げた。
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