特殊スキル
ノルン殿下視点
兄二人は公務などで忙しいので会う時間は限られている。だが、彼らに会う時間を作るのはノルンにとって必須なことであった。
「ジュダル兄上。エドガー兄上」
図書室に本を返しに行く名目で兄たちのいる執務室を通りかかり挨拶をする。
「「ノルン!!」」
兄二人はノルンがあいさつをするとまず目を見て何かを確認するようにして微笑む。
「なんだ手伝いに来てくれたのかぁぁぁ!!」
頭をくしゃくしゃと撫でてくるのが第二王子のエドガー。
「エドガー。ノルンが困っているから。俺も撫でたいのを我慢しているんだからお前も自重しろ」
弟を注意しつつも本音を漏らすのは王太子であり、第一王子ジュダル。
いつも会うのに何でいつもそんな反応をされるのかといつも困ってしまう。
『――当然だろう。第四王子のノルンは【特殊スキル】の影響で自我をほとんど持たなかったという設定があるんだから』
苦笑してしまうと幻聴が………いや、【特殊スキル】が発動してしまう。夕日のような目だと言われたオレンジ色の瞳が金色に変化する。
すると兄二人の顔に重なるように別の光景が映し出される。
この世界ではないどこかで青年と少女がテレビという板を見ながら話をしている。
『王族には【特殊スキル】というのがあって、それが強すぎる者はその【特殊スキル】が暴走した状態で自我が崩壊したり、狂人になってしまうことがある。なんて、なんで隠しキャラルートで説明されるんだ』
青年が手にテレビよりももっと小さな板を見ながら呟く。確か、スマホだと言っていたな。
『隠しキャラルート以外では触れないからね~。でも、攻略キャラが元凶っていうのは勘弁してほしいわよ』
『だな。結構炎上してるな。ネタばれスレ』
二人の間に入り込むようにテレビとスマホを見る。知らないはずの文字なのに理解できてしまうのは自分の【特殊スキル】の影響だろう。
「ユリアーナ……」
テレビにはどこか精神が病んでいるかのように不気味に微笑む愛するユリアーナの立ち絵。
『まさかさ。第三王子ルートになると毒殺された第一王子と第二王子の分も立派な王になるとヒロインの前で誓う第三王子が自分の婚約者であるユリアーナを洗脳して第一王子と第二王子を毒殺するように仕向けていたなんて思わないじゃねえか』
『だよね~。第三王子以外のルートだと毒殺したユリアーナの罪を共に償うと王位を従兄弟に譲ると軽く触れていた第三王子がそんなことするなんて思わないし』
「ノルン!!」
「ノルン!! 帰って来い!!」
二重に見えていた映像が消えて、必死に呼び掛けている兄二人の姿だけになる。
「あ……兄上……。すみません。また、潜っていました」
告げると兄二人の安堵した表情になる。
「心配かけるなよぉぉ」
泣きそうなエドガーに。
「無事に戻ってきてくれてよかった」
汗を拭うジュダル。
落ち着くためにメイドにお茶を用意してもらい、一息つく。
「――で、潜って何が見えた」
ジュダルの問い掛けに、
「いつもの光景です」
青年と少女が話をしている光景。
「兄上たち。今日も大丈夫でしたか?」
いつも尋ねないと心配になる。
「ああ。……午前の休憩の時に毒入りのクッキーを用意されたな。すでに下手人は捉えて誰に頼まれたか丁重に聞きだしているところだよ」
にっこりとジュダルが微笑むが内容が内容なだけで恐ろしく感じるのはなぜだろう。
「それ本当に大丈夫か兄上。あいつの【特殊スキル】からして……」
エドガーが言い掛けたタイミングでドアがノックされて、
「ジュダル殿下!!」
と兵士の一人が慌てて中に入ってジュダルに耳打ちする。
「……………やられた」
呟きだけで何が起きたか理解できてしまう。
「隠してあったはずだろう」
「………【特殊スキル】が異常すぎるんでしょう。そして、自分の思い通りにするために大事な道具として、ユリアーナともう一人を欲している」
「……………おとめげーむとやらのひろいんか」
「はい」
彼女があいつを……デイルを選んだらこの国は滅ぶ。
「私の【特殊スキル】巻き戻しをしても私とエドガーが殺されて、国が荒れて滅ぶ。どこを変えればわからなくて八方塞がりだが、今回のやり直しはノルンが自我を保っている。今度こそ……」
ジュダルの言葉にエドガーとノルンが頷く。
ジュダルの知っているループ。ノルンの知っている知識では乙女ゲームの別ルート。
それらを今度こそ未然に防ぐことが彼ら兄弟の目的だった。