入学式当日
「ユリアーナっ!!」
学園入学当日。門の前で馬車を降りると第三王子がイライラしたように足を鳴らして待ち構えていた。
「遅いっ!!」
「これはデイル第三王子殿下。わたくしに何の御用ですか?」
約束などしていないのに遅いと言われても困る。第一第三王子とわたくしは将来的に義理の兄妹になるが直接は関係ない。
「御用も何もないだろう!! お前は俺の言うことを聞けばいいんだっ!!」
無理やり腕を掴まれて引き摺られるように門の中に連れて行かれる。
「離してくださいっ!!」
必死に抵抗するが、
「用が終わればすぐに離してやる!! 黙って言うことを聞け!!」
怒鳴る姿に初めて会った時を思い出して身体が強張る。
「そうやっていうことを聞けばいいんだよっ。お前は俺の言うことは絶対服従なんだから」
絶対服従……?
意味が理解できないで第三王子を見上げるが、それよりも先に、誰かが思いっきりぶつかってきた。
「いっ、痛……」
ぶつかった拍子に転んだのか一人の女の子がしゃがみこんでいる。
「大丈夫か?」
無理やり掴んでいた手が離れて、第三王子はその少女に手を差し伸ばす。
「俺の婚約者が迷惑を掛けたね」
「はあぁぁぁ⁉」
淑女がしてはいけない声が漏れたが仕方ないだろう。婚約者でもないし、無理やり引っ張ってきたのは第三王子なのに何でわたくしが迷惑を掛けたようなセリフになるのだと文句を言いたかった。
相手が第三王子……王族だから言えないが。
「怪我はいないか? 保健室まで行こう」
と少女をエスコートして保健室まで連れて行こうとする第三王子。こちらに一瞥もしない。
「ところで君の名前は? 君の家に事情を説明してお詫びをしないといけないからね。ああ、俺の名前はデイル・クレイマンだ」
「クレイマンっ⁉ って、まさか王子さま……殿下とは知らずに申し訳ありません!! あたしは、雲母鈴・プリンセス・メルトと言いますっ!!」
「雲母鈴か。素敵な名前だね」
そんな会話が遠くから聞こえてきて、第三王子はわたくしに何をさせようとしたのか全く見当もつかない。
それはともかく実はぶつかった拍子にわたくしも転んでいたのだが、まったく第三王子は気にしていなかった。
なのにあの少女は心配してエスコートしてまで助け出すのだ。
(いったい、何なんでしょうか……?)
転んだ状態で呆然としていると、
「大丈夫ですか?」
「怪我はないですか?」
と数人の貴族令嬢令息が声を掛けてくる。
「だ……大丈夫です……」
触れていいですかと令息に尋ねられてそっと手を差し伸ばされて起こしてもらう。さすがに婚約者ではない女性を助け起こそうとするのでも失礼だと騒ぐ人はいるものだから。
「ありがとうございます……」
お礼を述べる。確か、この方方は第一王子と第二王子と親しい貴族の方々だったような……。
「いえ、ジュダル殿下からノルン殿下の婚約者であるシュトレン公爵令嬢を守ってほしいと言われたので」
「わたくしもマリアージュ嬢から頼まれていました」
ジュダル殿下は第一王子。王太子殿下。マリアージュ嬢は第二王子の婚約者。
「ノルン殿下は自分が年下なのでシュトレン公爵令嬢を助けられない状況があるのが悔しそうだと殿下が楽しげに話されていて……」
「同じ王族に嫁ぐ立場なので手を貸したいと」
「そうなんですね……ありがとうございます」
そういえばノルン様は第三王子とはともかく。第一王子と第二王子とは仲が良いとよく聞いていた。
(守られているんだ……)
この場にいないが、守られていると感じると嬉しく思えた。
そろそろノルン王子視点を入れないと