学園入学前
少し大きくなりました。
「ユリアーナ。相談したい事があるのだけど……」
ある日。ノルン殿下がシュトレン領の地図を見ながら声を掛けてくる。
「ここの地域だけど……」
未開発の地域を指差すと、
「この地に植えたい植物があって……。後、新しい農業を試したいんだ……」
ユリアーナに理解できない内容を次々と言い出して、
「多分。お金はだいぶ掛かるし……結果が出るのが下手をしたら10年以上かかるかもしれない。だけど……」
試してみたいと言われて、
「そうですね……わたくしの一存では……」
ならばお母さまに相談しましょうと告げると喜色満面の笑みを浮かべてすぐさま計画書を用意する。
ノルン殿下と婚約して3年が経過した。わたくしは11歳。ノルン殿下は7歳なのだが、ノルン殿下はかなり頭がいいのだと理解できた。
そうそれこそ王宮勤めの侍女達から聞いた第三王子と雲泥の差。第三王子は勉強をサボり、遊びまわっていて、それを注意した従者を鞭打ちしようとしたとか。もちろん未遂だったが、第一王子と第二王子が優秀なのにどうしてと嘆く声が多いとか……。
そして、第四王子――ノルン殿下に関しては、
『ユリアーナ嬢が現れたことで人間になられた』
『ユリアーナ嬢を支えると決意してから表情も凛々しくなって』
と感動されて、妃殿下には直接お礼を述べられたこともあった。
(そこまで言われるって、ノルン殿下って、何をなさったんでしょうね)
第三王子みたいな人だったとかでしょうか。と初対面のことがあってかなりトラウマになってしまった第三王子のことを思い出して身震いをする。
ノルン殿下と婚約したことで時折王宮に呼ばれるが、たまに第三王子に絡まれてしまう。
『俺に付きまとうというのか。”ストーカー”というやつだな!!』
という言葉で始まって、無理やり連れて行かれそうになったり、
『俺に逆らうのか!!』
と叩かれそうになるのを何度も騎士に助けられた。
もちろん接触しないように道を変えているのだが、第三王子の【特殊スキル】で探し当てられるとか。
(とは言われてもその【特殊スキル】というのもよく分からないのよね)
王族にしかないものらしいが。
「これは、きちんとまとめられているわね………そして、このジャガイモという食べ物と蕎麦という植物は……」
「それを今厨房を借りて調理しています」
ノルン殿下の言葉に合わせるようにドアをノックされて、料理が運ばれる。
「じゃがいもは蒸す。焼く。揚げるなど多彩な調理方法で主食にも主菜にもなります。で、蕎麦は山岳地方でも育てることができ、このようにガレットというクレープになるし、蕎麦というスープパスタになります」
と用意された料理はどれも初めて食べるものであった。そして、蕎麦で作られたスープパスタは独特の味付けでとても美味しい。
「これは魚で取った出汁で作られたスープです。我が国では肉を食べるが魚はあまり食べられません。だけど、魚もスープにしてみれば抵抗はないでしょう」
とそれから魚を使った料理も次々と説明していく。
「後、魚が世間一般に食料として浸透してきたのなら魚の養殖も開始したいので」
養殖の仕方を書いた紙も差し出す。
「それから、これは提案ですが、現第階で出てきているシュトレン公爵領で生産されているワインとビールの搾りかすをどうしていますか?」
「それは、ごみにしているというのが現状ね……」
「それを利用して肥料にするというのどうだろう」
「「肥料?」」
「はい」
難しい話だが、それらの搾りかすにはたくさんの野菜を育てる働きをするものが多く含まれていてそれを肥料にすることでよりおいしい野菜が出来ると言われた。
「余分なごみを作らない。環境を守ると言うことにもつながります」
「――なるほど、それは殿下の【特殊スキル】で得た知識ですか?」
お母さまの問い掛けにノルン殿下は困ったように微笑む。
「ああ。そうでしたね。王族の【特殊スキル】は触れてはいけないことでした」
お母さまが納得して、この件の話は終了する。
(【特殊スキル】というのは触れてはいけない……)
お母さまの言葉で疑問に思ったが触れてはいけないのなら触れない方がいいのだろうと尋ねることをしない。
「二人が来たのならちょうどよかったわ。元夫の愛人と娘に常に監視を着けていたのだけど、とある貴族の支援でユリアーナが春から通う学園に入学することが分かったわ」
「それは……」
「なにもないといいけど、用心しなさい」
「――了解しました」
それを対応するのも次期公爵としての手腕を問われると言うことか。
「………………」
じっとノルン殿下の視線が向けられる。
「どうしました。ノルン殿下」
「私もユリアーナと一緒に学園に通いたいと思って、例の妹は同じ年齢だから通えるのがずるいと思ってな」
「………同じ歳の異母妹が居る時点でこっちからすれば許せない案件ですけどね」
ずっと浮気してきたと言うこと他ならないのだから。
「ああ。そうだね。――早めに片付けたと思ったけどまだ不穏分子が残っているとはね」
ノルン殿下の後半の言葉は聞き取れなかった。
「それにしても本当にずるいな。私は4っつも年が離れているから学園に通って一緒に勉強とかできないのに。兄上は出来るからな」
兄上……第三王子のことを言われると胃が痛い。だけど、
「わたくしも我慢していますのでノルン殿下も我慢してください」
年上ぶって告げると、
「じゃあ、我慢するからノルンって呼んでくれないかな。ユリアーナ」
とおねだりされて、お母さまのいる前でつま先立ちをされたと思ったら必死に身体を伸ばしてそっと頬に口付けられた。
その様に恥ずかしいという気持ちもあったけど、そこまで口付けしてくれたことが嬉しくて微笑ましかった。
蕎麦はスープパスタと違うけど、説明しやすいようにそうしました。




