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用済み聖女の最後の仕事 命じられたのは蛮族伯との結婚でした  作者: 道草家守


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第18話 魔法を披露してみよう


 その日の午後、訓練場に来た私は困惑していた。

 目の前には前のめりで待ち構える騎士や兵士達がいる。

 一週間前と違って、彼らの目はギラギラと熱意に溢れていた。


 どうしてこうなったのか、と頬をぽりぽりとかくしかない。

 まあ、簡単だ。お昼ご飯にディルクさんに頼まれたのだ。

 

『魔法の実演をしてくれないか』

『魔法ですか? ロストークはかなり魔法嫌いだと聞いたんですけど』

『精霊信仰の影響もあるが、彼らは生活ならともかく、攻撃に転じられるような魔法は見たことがないんだ。だから、君が実戦で使った魔法は衝撃だったんだ』

『使ったのって、初歩の初歩の魔法ですよ?』

『それですら、珍しいんだ。実は騎士達から攻撃魔法について見学希望が殺到している。君でもまだこの地域での魔法の使用は難しいとは思うが、一度してみていただけないか』


 と、いうお願いで、私はこうして先生をしているのである。

 ディルクさんも隣にいてくれているおかげか兵士達は大変大人しいとはいえ、気迫としては、今にも私へかぶりつきそうだ。こっわ。

 一宿一飯の恩義もあるし、と思って引き受けたけど、私は先生なんてしたことがない。

 小さい頃に習った魔法の理論なんて頭からすっぱ抜けてるし、私の方法はいくら説明しても宮廷魔法使いには「なに言ってんだこいつ」って言われた位だし。

 やれやれと兵士達を眺めていると、最前列に知った顔がいた。


「あ、リッダー。謹慎が解けたんだ」


 話しかけられるとは思わなかったのか、隆々とした体格をしたリッダーは驚いたようだ。

 けど、とたんにっと笑って見せる。


「昨日解けました! 俺が食らった魔法とやらもっと詳しく見てえと思いまして! 王都に行ったら、そんな魔法使いとやり合うこともあるかも知れませんからね」


 なにからなにまで戦闘脳なのはいっそ清々しい。私の師匠が見つけたら、きっと半殺しになるまでかわいがってくれるだろう。

 そういえば、こっちの騎士と、王都の騎士って戦い方が違うよね。それなら魔獣討伐も違う可能性があるかも……?

 よし、これでいこう。

 

「ではルベル殿、演習を頼む」

「はあい」 


 私はディルクさんに返事をすると、気楽に一歩踏み出した。

 相手は兵士だし、軍式でいいか。


「魔法の演習って言われたけど、私は人に教えることが得意じゃない。だから、私がこの地でどうやってワイバーンを狩ったか解説しようかと思う」


 兵士達がざわざわとする中、私は自分の杖を地面に立てた。

 まずは場を作らなきゃね。

 精晶石に魔力を送り込むと、橙色の光が灯る。魔力を発散させながら、私は久々に本式の詠唱をした。


『空に華やぎ、大地を潤し、水を巡らせ、火をはぐくみ、萌木を茂らせる森羅万象の源たる精霊達よ。慈悲を乞い願う私に、その御技の一端をお貸し願う』

 

 周辺にいる精霊達を呼び寄せるための呪文詩だ。

 この一週間呼び寄せていたおかげか、すぐに数十の精霊達が集まってくれた。

 精霊達はきゃらきゃらと好奇心いっぱいに飛び回って私が何をするのかと、今か今かと待っている。

 これならなんとかなりそうだけども、君たちいつもより形がはっきりしてないか?

  どうやら精霊達は姿を現しているらしい。珍しいなとは思うけど、精霊達のテンションが高いと稀によくあることだ。

 のだけど……

 

「あれが……、精霊様……?」

 

 その呟きに私が兵士達を見ると、彼らが動揺と畏怖の表情を浮かべている。

 中には拝みはじめる人までいた。

 確かにリュミエストで精霊は信仰の対象ではある。とはいえあくまで創造神から遣わされた使者という扱いで、魔法使い以外に意識する人はいない。

 けれど、兵士達の態度は明らかに精霊自体を敬っている。

 私が困惑してディルクさんを見ると、私が知りたいことを察してくれたみたいだ。


「ロストークに精霊の加護はない。だからこそ精霊達を『ロストークへ弛まぬ試練を与えし存在』と信仰している」

「んんん、つまり精霊がいないのは、ロストークが精霊に頼らずに生きていけるようにするための、神の采配ということなんです?」

「そうだ、実際カルブンクスは精霊が溢れているが同時に魔獣の宝庫だ。精霊に頼らずとも魔獣に立ち向かえる力を育めるまでは、この精霊は見守ってくださる、ということだ」


 あーなるほど、だから魔法使い嫌いになるんだ!

 魔法を使うのは精霊に甘えているって解釈になるもの。

 ただ、そんな風に話すディルクさんは、精霊への態度が普通なように思える。

 この人はどうして欲しいのかな、と一瞬考えたけれど、私はすぐ思い直した。

 他人の信仰心は尊重するけれど、私の信念を曲げるつもりはない。

 私は私のまま、精霊との関係を見せるまでだ。

 だから今か今かと待ち望んでいる精霊達に向けて声をかける。


「強くて格好いいワイバーンの人形を作りたいんだ遊んでくれる?」


『ウゴカス?』

『ゴッコスル?』


 そこまでしてくれるんだったら頼んじゃおうかな!

 私はよろしく、の意味も越えて精晶石に魔力を送る。


「かりそめの命をここに【土傀儡(アースゴーレム)】!」

  

 訓練場の端に積まれていた土嚢に向けて杖を振るうと、精霊達が楽しげに土嚢へ走り土嚢を包み込んでいく。

 空中を踊った土嚢は、あっという間に形を変えると、その姿を私が闘ったワイバーンそっくりに変えた。

 一斉に身構えた兵士達の反応が良いな、と思いつつ、私はワイバーンに半眼になる。


「あなたたち、私がワイバーンを倒すところを見てたでしょ?」


 土でできたワイバーンは肯定するようにごう! と吼える仕草をする。

 声帯があるわけじゃないので、土同士がぶつかって軋む音しかしないけれど、ばれたかと肯定する気配はよくわかった。

 まったく、面白がりなんだから。


「まあ良いよ、じゃああのワイバーンみたいに動いてくれる? 私に倒されちゃったほう」


 ごう! と再び吼えた精霊ワイバーンはその翼を使って空へと飛び立った。


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