第4章 三日目 004
日ノ出海岸に出る堤防のところで、竜二さんの指示に従い、我々は二手に分かれた。竜二さん達のチームは海岸沿いにある廃屋などを、そして僕たちは旧集落の中を探索する。
元は港町だった集落も、今は草だらけの荒地がほとんどで、大きく穴の開いた板壁の空き家があちこちに点在していた。
「私は昨日は、こっち方面を飯畑さんと探していたのですが、空き家は釘が飛び出た廃材が多いので、足に気をつけてくださいね」
ペンションで借りた傘をさしているが、あっという間に身体中が湿り気を帯びるほどの雨だ。草丈の長い中を、危険なものがないかどうか探りながら進むのは骨が折れる。
捜索を始めて何軒目だろう。海岸近くまで来たところに建つ、比較的壁と屋根がしっかり残った家の前まで来たところで「あれ?」と、高遠さんが不安げな声を漏らした。
「どうしたんです?」
「この家、覚えてます。昨日も入りました」
「ええ、昨日はこの周辺で伊藤さんを探してましたからね」
そうだ、僕たちは二日連続で、行方不明の仲間を探している。
「はい。でもその時、この家の中で聞いたんです。伊藤さんが見つかったって声を」
ああ、竜二さんが発見の知らせを持って駆けつけてくれた時に、高遠さんと飯畑さんはこの家にいたのか。確か、飯畑さんの悲鳴が聞こえたのを覚えている。ここからなら海岸が近いから、それで僕たちまで声が届いたのだろう。でも、それがどうしたというのか?
「竜二さんの呼び声で、私たちは家から飛び出し、運転席から手を振っている彼の方へ向かって駆け出したんです」
「ええ」
「その時、私、あの玄関の引き戸を開けたままにしました」
「え?」
今、その家を見ると、玄関の引き戸はしっかりと閉じている。
「思い違いじゃないですか。焦っていたし」
「いえ、それはないです。あのお家、廃屋とは言っても他の家よりまだキレイでしょ。だから玄関を開けっぱなしにしたのは失敗だった、後で閉じに来なきゃって思って……。だから間違えるはずは、ありません」
「でも」と、続けようとしたところで、「待てアオイ」と、三輪さんが僕を制した。
「もしかしたら、見つけたんかも知れん」
「何を?」とは聞かなかった。そうだ、僕たちは人を探しているのだ。開きっぱなしだった引き戸を閉じた「誰か」がいるとすれば、それは我々が探している人……?自分がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。今いる場所から、その建物に人の気配は感じられない。




