第3章 二日目 011
僕たち残ったメンバーは、三輪さんの音頭で二つの班に分かれ、旧集落と日ノ出浜の海岸付近の探索に向かう。
「お二人にも、手間をとらせちゃって」
飯畑さんと高遠さんの二人から別れ、なぜか村上さんは僕たちのグループについてきていた。我々は今、日の出浜に出て、その海岸線にある打ち捨てられた古い木造建物の周辺を歩いている。
「いえ、旅の目的は達せられましたし」
「クルミさんの慰霊でしたっけ」
「ええ」
「三輪さんはクルミさんの、お友達……だったんですよね」
村上さんは少し先で、石の階段を登る三輪さんを見上げた。我が先輩は、少し上から見渡してみると言って、美鈴浜方面へ向かう階段に取り付いたところだ。
「そうなんです。中高で親友だったとかで」
「それで向井くんも、クルミさんの知り合いなんですか?」
「いえ、僕はその人を知りません。ああ、そういえばお顔も知らないかな」
「全く関係ないのに、ここまで?」
少し呆れたような声で、彼は僕に問いかけた。思わず見返すが、特に悪意があって聞いてるわけではないようだ。思ったことがすぐに口に出る、正直な人なのだろう。そして、僕も人のことは言えない。
「そうですね、僕は先輩のお守りってことですかね」
「ははは、ずいぶん仲が良い先輩後輩だね」
仲が良い? まあ、そうなのだろう。しかしそれだけで、ここまで来るとは我ながら確かに酔狂なことだ。
「うらやましいですよ。そんな関係は」
「でも皆さんも仲が良いではないですか」
「そう見えますか? それならみんな上手くやってるのかな。でも結局、僕たちのグループは互いの利益のために、打算で動いているだけだから」
「そんなことは……」
無い、なんて言えるだろうか。部外者にはわからない、いろいろな力関係が、どんなグループにもあるものだ。そしてその中で、誰もが自分の利益を考えて行動している。心の中の動きなど外から見えはしないのだ。じゃあ僕たちも? 東都文化大学ワンダーフォーゲル部も、そうなのだろうか? 確かに、純粋に互いの親睦のためだけに、人は動いていない。僕もそうだし、三輪さんも。物思いにふける僕の胸中を、どう思ったのだろうか。村上さんは、一つ向こうに建つ納屋らしき建物へと歩を進めていった。
日ノ出浜の周辺を探して小一時間が経ったころだろう。ペンションの方角からワンボックスカーが砂煙を上げ、こちらへやってきた。 竜二さんの大声が聞こえる。
「自転車組が見つけました。沖ノ港へ向かう道の方! 崖下だそうです。大怪我かも!」
少し離れたところで飯畑さんの悲鳴が響いた。事態は想像より深刻だったらしい。僕は慌てて、階段の踊り場にいる三輪さんを呼び戻す。集落の入り口まで駆けつけると、村上さんや高遠さん、飯畑さんが車に飛び乗って現場へ向かおうとしているところだった。
「お二人も、早く乗って!」
開いた運転席の窓からの呼びかけに、僕が答えようとしたところで三輪さんが叫んだ。
「ちょっと宿へ戻るぞアオイ。竜二さんたちは、先に行ってください。部屋から荷物を取って自転車で追いかけます。もしかしたら必要になるかもしれんから……」
そう叫ぶと先輩はペンションの方角へ向け猛然と走り出した。同時にワンボックスカーも大きな土煙を上げ走り去る。一体こんな時に何を持って行くと言うのか? よくわからないが、とりあえず僕もペンションへ戻り、裏から自転車を二台の引きずってきた。そこへ三輪さんが玄関から飛び出してくる。その手には登山用の小さなザックが握られていた。




