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第2章 一日目 012

「お二人はダイビングはされないですよね」

「ダイビングですか?」

 スキューバダイビングの名前は聞いたことがあるし、大きなタンクを背負って海の中を泳いでいる映像を見たこともある。だが、自分がそれをするなど考えたこともなかった。

「いえ、ダイビングはやらないですが……」

「うちらはライセンスも持ってませんわ」

 そうか。ダイビングには免許がいるのか。そんなことも僕は知らない。

「では特にそちらの説明は要らないですね」

「この宿では、ダイビングのツアーもやってるんですか?」

「ええ、港に小さな船がありますし、沖ノ港の提携している漁師さんの船を使ってもやってます。あと機材のレンタルもできまよ」

 竜二さんはカウンターの棚から何枚かのパンフレットを出してくれたが、残念ながら僕と三輪さんには無用の長物だ。

「うちのメンバーは世話になってますよね」

 僕が横滑りさせたパンフを一枚、手に取り高遠さんが微笑んだ。

「昨日も潜られましたよ。ただ海洋大生さんには、タンクの充填をするだけですからね」

「あれ、高遠さん達はシュノーケルじゃ?」

「ええ、水生研にはダイビング専門チームがいて、そっちは大きな船を出したり本格的なんですが、私たちのチームは海岸からシュノーケルを使ったスキンダイブがメインです。ただ全員がスキューバのライセンスは持ってますから、合宿中は半分はお遊びで何タンクか潜ったりしてます」

「そうなんですね。その時にタンクっていうんですか、それに空気を入れてもらうことが、こちらのペンションでできると……」

「そういうことです」

 なんでもないことだと言うように高遠さんと竜二さんは頷いているが、海無し県出身の僕からすれば「さすが海洋大学生はスキューバダイビングのライセンスを持っているのか。すごいものだな」といった驚きしかない。

「宿の船には、乗せてもらえるんですか?」

 今度は三輪さんが、別のパンフレットを眺めながら、船のクルーズに関心を寄せている。この人も海無し県の出身だ。僕は船酔いで懲り懲りだが、小さな船で美しい島の景色を遊覧するなんてのも気にはなる。

「釣りやダイビングで依頼をいただけたら、出しますよ。ただ小さい船だから、もし島の遊覧がご希望なら、知り合いが沖ノ港でツアーをやってますから、そちらを紹介します」

 と竜二さんは、また別のパンフを棚から取り出した。美しい海の夕日や大きな魚を釣り上げたシーンとともにカッコ良い船がデザインされていて、すごく楽しそうだが、やはり船酔いが心配だ。

「おや、船はもういいやって顔ですね」

 僕のげっそりした顔を見て、竜二さんは少し意地悪そうに笑った。

「来たときの船でひどい目にあって……」

「ハハハ、それなら無理に船に乗ることはないです。海岸でも十分に楽しめますから。そういえば、高遠さんは海洋学部でしたよね。小型船舶の免許は取りましたか?」

 竜二さんが、僕から高遠さんへ視線を移す。

「ええ、無事に一級小型船舶がとれました」

「それは良い。それなら、うちの船を使ってもらっても大丈夫ですよ」

「高遠さん、船の操縦ができるんですか?」

「私がとったのは二十トン未満の船の操縦免許で、そこまで大したものじゃないですよ」

 驚いて訊ねてみたが、考えてみれば海洋大学の学生が船の免許を取るのは、そこまで不思議なことではない……のかしら?

「いや、それってすごいですね。海洋大の皆さんは、普通に免許を持ってるんですか?」

「私のいる海洋学部は取る人が多いかな。でも他の学部だと、そんなでもないですよ」

 高遠さんが、そう話したところで、竜二さんがカウンターの奥からペンを滑らせてきた。

「これで説明は全部終わりですね。ではみなさん、島の暮らしを楽しんでください」

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