第2章 一日目 008
「ほら、ここからが西の浜だよ」
敦子さんの合図で左の窓を見れば、美しい海岸線が緩く弧を描きながら広がっていた。寄せては返す小さな波が、午後の日差しを浴びながらリズミカルな音色を奏でている。
「おお、これは海水浴に良さそうですね」
僕は感嘆の声を上げる。内陸県生まれの性で、海を見ただけで簡単に興奮するのだ。
「今日は良さそうだけどね。この浜は外海に面していて、ちょっとした天候の変化で波が大きくなるから、気をつけなきゃダメだよ」
「そうなんですか。とっても静かな感じなんですけどね」
「南で台風が発生したから、このあとどうなるか。サーフィンするならいいけどね」
敦子さんが教えてくれるが、残念ながらサーフボードなど触ったこともない。
「海水浴なら、宿から歩いてすぐに行ける日ノ出浜がいいですよ。ね、敦子さん」
「そうね。あそこは小さな浜だけど、入江の内に面していて波は穏やかだから」
「同じ近くでも、岬の反対側にある浜は離岸流がすごいんで、注意が必要なんですよ」
なるほど。さすが海洋大生は海に詳しいようだ。こちらは海の知識はまったくないが、地形から安全なポイントを探すのは登山と同じなのだろう。連絡船でもらった大風島の観光パンフレットの地図を開いてみる。
日ノ出港の集落から
沖ノ港 車30分 自転車70分
美鈴浜 車18分 自転車40分 歩120分
古浜港 車15分 自転車35分 歩110分
西の浜 車12分 自転車30分 歩90分
日ノ出から美鈴浜へ抜ける遊歩道は閉鎖中