プロローグ、そして、登場人物紹介
プロローグ
激しい雨で、島の全てを濡らし尽くした黒く大きな雲は、いつしか水平線の向こうへ消えた。ゴツゴツと荒々しい断崖のシルエットの向こうに、夕日の残光が煌めいている。
波がひとつ、コンクリートの防波堤に当たり、砕け、飛沫を上げて散っていった。
私の視界一杯に、揺れる水面が広がる。
そこに、白い影がひとつ、浮いていた。
波に弄ばれる一枚の白い花びらのように、若い女の身体が揺蕩っていた。
しなやかな長い手足を伸ばし、黒い瞳は、高く空を眺めているようだ。
しかしその瞳にはもう何も映ってはいない。
美しい形をした広い額に、赤い血がひとすじ流れたのを、確かに見たように思う。しかしそれは一瞬のことで、波が彼女の顔を洗ったのか、赤く細い流れは消え去った。
ふいに左のほうで、小さな悲鳴が聞こえた。
女の声?
虚な頭を振り、声の聞こえた方角を探す。
西日で影になった崖の上に、何かが動いたように思う。誰かいた?遠くて判然とはしない。ただの幻、だったのかもしれない。
背後に伸びるコンクリートの堅い道を、急ぎ遠ざかる自転車の音が響いた。暗く重いペダルを踏む音だけが、私の耳に届いていた。
登場人物
東都文化大学
向井向葵 むかいあおい 文学部二年
三輪旅人 みわたびと 文学部四年
西国海洋大学
藤田哲郎 ふじたてつお 獣医学部五年
飯畑苺香 いいはたいちか獣医学部五年
伊藤健一 いとうけんいち獣医学部五年
水戸和花 みとのどか 獣医学部四年
村上祐樹 むらかみゆうき生物学部三年
高遠穂波 たかとおほなみ海洋学部三年
大島宗太 おおしまそうた (故人)
小橋胡桃 こはしくるみ (行方不明)
ペンションいさり火
石田竜二 いしだりゅうじオーナー
石田敦子 いしだあつこ シェフ