学生の宴
三題噺もどき―ひゃくろくじゅう。
お題:群青・宴・曇り空
空は曇天。
今にも、雨が降り出しそうなほどの、曇り空。
しかし、その中に溜め込む液体を。溢すまいと耐えているように見えるのは、今日が特別な日だからだろうか。
「……」
舞台は、地元に住むほとんどの中学生の進学先となる、私の通う高等学校。
四つある校舎のうち、二つの校舎と、体育館。
各学年の教室がある第一校舎では、1,2年生が各自売店や、展示などを催している。
図書館や多目的教室のある第二校舎では、文化部の部活動生達が、活動の報告展示や、物販もしていたりする。
「……」
かく言う私も、写真部なので、一つの教室に展示をしたり、三枚100円で売ったりもしている。部費に充てるよう。
そしてまぁ、部活動も今日は、している。こういう催し事では、活動せざるを得なかったりするから、仕方ない。そいう部活だ。我が校では。
「……」
そして、私が、今いるのが、体育館。
メインの舞台発表―3年生が各クラスで考えた劇とかダンスとか、劇もどきとかをする。
実のところ、私も3年生という立場にはあるので、こんな所で部活動をしている暇ではなかったりするのだが。部員が少ないのが長所なもので。2年生もいるにはいるが、3年間やっているから、勝手がわかるだろうということで、顧問にも言われたし。
何より、クラスの席にいる方が、苦痛なので、部活優先だ。やったー。
「……」
目の前には舞台。
その袖では、今回の司会進行を務める二人が、最終確認をしている。―実はこの二人、一つ下の二年生なのだというのだから、個人的には驚きだ。こんな人々の視線が注目する中で、こんな大切な特別な行事の司会進行を務めるなんて…。素晴らしい、の一言だろう。
人生が汚点まみれの私と違って。輝かしい功績をのこせるようで、なによりだ。
「――先輩、」
「っと、なに?」
いよいよ始まり5分前というタイミングで、横にいた後輩に声を掛けられた。彼女は1年生だ。初めてだからということで、3年生と一緒にペアでいることになっている。
分からないことがあったら聞いてねとは言ったが、今ではなかろうに。
「―ここじゃまじゃないですかね」
あぁ、そんなことか。―いや、そんなことではないか。
私だって、こんな前には居たくない。できれば、望遠レンズでとるから、後ろに行っていいかと言いたくなる。それでなくても、私は望遠で撮るものだから、後ろがいいほんとに。
「んー。かがんでれば大丈夫だよ。あと、フラッシュだけたかないようにしておけば。不安だったら、もう少しこっちに寄っていいよ」
しかしまぁ、部活として任されている以上、撮らないという選択肢はないし。彼女にも、ここに居ることになれてもらわないと、来年以降心配になる。
「なら…」
スッ―と、先程より、気持ちこちら側へ寄ってきたところで。
バン――!!!
と、照明が落ち、舞台の中心に、一筋の光が、注がれる。
その中に、先程の二人が、緊張の面持ちで立っている。
スッ――
と、一息。
手に持ったマイクの電源を入れ、
『――――!!!』
文化祭の始まりを告げた―
「……」
私は、彼らの勇士を切り取る。
開始を告げるファンファーレが鳴る。
そして次々に舞台で繰り広げられる、ダンスや劇を、切り取っていく。
少しでも、彼らの記憶に残るものを、記憶の蘇るものを。
その舞台を、楽し気に見る生徒たちも、もちろん。
これは、大切な思い出だ。
「……」
これはまさに、学生の学生たちによる学生のための宴だ。
あいにくの曇り空も、吹き飛ばさんとする熱気と狂乱ぶりは、すさまじい。
その宴を切り取り、残し、魅せ。
「……」
舞台では、群青色のスカートがふわりと舞う。
遅れて、彼女たちの髪が躍る。
軽やかな音と、踊りで、彼らは人々を魅了する。
私はそれを、切り取っていく。
「……」
舞台では、数人の生徒が、動き回っている。
裏にあっただろう悲劇を見せず。
魅せるための、喜劇を演じる。
私はそれを、切り取っていく。
「……」
もちろん、舞台だけが、宴のすべてではない。
午前が終わり、昼からは、1,2年生の舞台だ。
展示や売店。お化け屋敷なんかもしている。
それを楽しむ彼らを、一つ一つ、切り取っていく。
「……」
今日1日、そうやっていた。
人々の記憶を、思い出を切り取って。
―まぁ、ほとんど私の好みで撮っているから、他の人に同じように伝わるかは分からない。
けれど、少しでも。その思い出を、記憶を、呼び起こす一助になればとは、思わなくもない。
「……」
高校三年生の私の。
最後の文化祭は。
こうして幕を閉じた。
私自身のクラスの事は…。まぁ、考えたくもないので、言及しないで欲しい。