06 シスターからのお話
それから数日後、待ちに待ったシスター・メアリーからの返事が届き、私は身支度を整えると修道院へと一人で向かった。マーゴが心配してこちらを見ているけれどね。
「リリエラ様。ようこそいらっしゃいました」
そして、シスター・メアリーからお話を聞いた。
「実はですね。サンドストーン公爵家から依頼で人を探しておりましたの」
「サンドストーン公爵家……」
公爵家のお話なら大事になるかも。どこかの貴族の屋敷で侍女か、最悪下働きの下女として雇ってもらおうと考えていたけれど。
「家庭教師は難しいけれど淑女の付添人とか、侍女とかの職を希望していたのですが……」
「いいえ! そんな。リリエラ様がそのような……。とんでもないですわ。その、実はこのお話は少しプライベートなことになりますの。他言無用でお願いします、リリエラ様なら安心ですけれど」
私はやっぱり大事になったと思いつつ、シスターに安心させるように頷いて見せた。
「実は公爵様は花嫁が必要ですが……、最近公爵位をお継ぎになったので、お相手が見つからず困っておりましたの」
その先は何となく察しが付いた。
高位貴族の婚約は家同士の契約しかない。幼少期に決まっているのが殆どなのだ。
うちは伯爵家だけれど貧乏になったのと学園に行かなかったことや社交界デビューできなかったことが影響していた。
これはますます厄介な話ではないかと身構えた。
公爵になったけれど高齢か、見た目が酷いか、性格がとんでもないのか……。
私は考えつつシスターの話を聞いていた。
「リリエラ様なら。伯爵令嬢ですし、身分的には問題はありませんわ。ですからこれは良いお話だと思ったのです」
一応私は伯爵令嬢であるので公爵家と縁続きなるのはそう無理なことではない。
伯爵家以上は王宮への出入りが許される階級だから。
そもそも貴族の婚姻は王家の許可が必要で男爵や子爵家などの下位貴族なら公爵家との縁続きは王宮から許可が下りにくい。
許可が下りにくとはいっても抜け道はいくつかある。
その昔、王族の一人が男爵令嬢と恋に落ち、妻に迎えたという運命の恋とかいう王宮のロマンスが実際にあったようだ。
その話は小説や劇にもなっていた。
だから、今でも真実の愛とか恋とか言う夢見がちな女性がいるのかもしれないわね。誰やらのように。
「では公爵家との婚姻は仮初ということですか? いずれ離縁するということが前提ですよね」
「いえ、仮初では……、そこのところは公爵様から直接お伺いしていただかないと私からはお話はできかねますわ」
詳しく聞こうとしたけれどシスターが困った様子だったので諦めた。
「でも公爵家となると、それに今までそう言ったお話は無かったのでしょうか?」
下位貴族ならいざ知らず、高位貴族は幼少期に家同士の婚約者がいることが多い。
だから、とんでもない問題があると考えた方が良いかもしれない。
シスターは私の質問にどう答えたら良いのか戸惑っていた。
「それが最初は公爵様にも婚約者はいらしたのだけど、その、お相手が他の方に気移りしてしまって、解消になったのです。その後は少し、その、この王位継承での政変の騒動で公爵家も代替わりを余儀なくされて、現在の公爵様はそもそも跡継ぎではなく、騎士になって公爵家を出られていた三男の方なのです。その方は元々言葉数が少ないので誤解されやすく……。良い方なのですが……、ああ、こう言ったお話はやはりご本人に直接伺ってくださいまし」
言葉を濁すシスター・メアリーにそれ以上は聞くのは気が引けた。シスターからお聞きしたのを纏めると。
どうやら公爵様は三男で元騎士様のようだ。
元婚約者は気が代わって婚約を解消された。
理由は騎士という身分を嫌って婚約者は去っていったみたい。
その後、元婚約者は心変わりしたのは公爵が構ってくれなかったせいだと言いふらしたようだった。
その噂が今も尾ひれをひいている状態なのだそう。
何だか可哀想ね。公爵様のせいではないのに。そもそも貴族の結婚は家同士の契約がメインよね。
そこに恋愛要素を持ってくるから上手くいかないのよ。
嫁に行き遅れが言っても説得力はないけれど。
私は伯爵家の執務はしているけど社交界に出ていなかったので公爵様のそんな噂を知らなかった。
私は貴族子女なら通う学園にも通えていなかったし。
「そうですか。貴族に恋愛など必要ないと私は思っておりました。だから私でよろしければ一度お会いしてみたいですね」
契約ならやはり顔を合わせないと分からない。
そんなことを考えてシスターに申し出るとシスターはほっとした様子だった。
「リリエラ様は伯爵家のご令嬢ですから身分といい申し分ないと思いますの。お人柄も長年ここでご奉仕されていらしたので私が保証いたしますわ。実は公爵様から早くリリエラ様にお会いしたいと仰っておりますの」
私はそう言われてシスターから公爵家には連絡を取ってあり、私が良ければ今からでも会えるようにと公爵家から立派な馬車が寄こされていることを教えられた。
要は私の返事待ちだったそうだ。
私は早速その馬車に乗って公爵家へと向かったのだった。
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