04 弟の婚約者?
今日はサイモンの婚約者というロエさんが家に挨拶に来る予定になっている。
しびれを切らしたサイモンが男爵家まで迎えに行ったらしい。
そうしてやって来たのは見た目は可愛らしいシュガーピンクのふわふわ髪でチョコレート色の瞳のお嬢さんだった。
「初めましてぇ。ロエといいます」
そう言ってロエさんは口元に手をやって可愛い感じに小首まで傾げていた。
私達に会ったのに男爵家の名前も名乗らずただの名前だけって、貴族令嬢としての最低限のマナーさえもできないのかしら……。
私は気を取り直して挨拶を返した。
「初めまして、ロエさん。私はサイモンの姉のリリエラ・ブルーレイクと申します。ロエさんはビッチデ男爵家の方とお聞きしていますが……」
「きゃっ」
そうしてロエさんに握手しようと手を差し伸べたところ悲鳴を上げられてしまった。
横からサイモンがロエさんを庇うように抱き寄せた。
「姉さん。ロエを驚かせるなよ。怖かったよね」
「え?」
「ふぇぇん。ロエ。怖かったのぉ。サイモン。いきなり手を出してくるんだもん」
「ああ、よしよし。怖かったね。姉さんが怖がらせたんだ。ロエに謝れよ」
私は二人のやり取りに唖然としてしまったけれど内心を隠しつつ、せめてこちらは大人として、貴族令嬢として対応しないと。
もう、相手のことをまだ子どもだと思えばいいのよ。
私は何とか微笑みを浮かべて見せた。
「握手をしようとしただけですが怖かったのなら、ごめんなさいね」
でも私のそんな言葉にロエさんは拒絶を露わにした。
「嘘よ。私が男爵令嬢だから気に入らなくて叩こうとしたのよ!」
「叩く? まさか? 幾らなんでも私は初対面の人をいきなり叩きはしません」
だけどロエさんは怖がって泣き出してしまって話にならなかった。
サイモンは私を睨むし、お父様からも何故だか叱られてしまったわ。
それでも昼食を用意していたので、食堂に案内をしたわ。
食事と聞いてロエさんは機嫌を直した。
デザートは何? と聞いてくるところなど子どもよねと何度も自分に言い聞かせた。
そうでないとサイモンが言っていたことが本当になりそうだった……。
ロエさんやサイモンにぐちぐちと嫌味を言い返しそうになるのよ。
料理を運ぶ段取りも使用人達に前もって指示しておいたのでスムーズに会食は進んでくれた。
厳しい経済状態だけど料理人達と相談して精一杯もてなしたのよ。
運ばれてきた料理を見てロエさんは私に訊ねてきた。
「このお料理は何ですか?」
「鱒のムニエルです」
「えぇー、ロエ、お魚さんは食べられないのぉ。だって、お魚さんって可愛い姿をしているじゃない?」
――はい? お魚さん? 可愛いから食べられない? 自分のことを名前呼びするのはマナーとしてどうかと思うけれど。
少なくとも私はサイモンを好き嫌いなく育てましたよ。
でも、その当のサイモンはロエさんに味方をしていた。まあ、仕方ないけれどね。好きな子の方が大事だと思うでしょうね。
「そっかー、ロエは優しいね。姉さん。もうちょっと気を効かせた料理を出してよ。ロエに失礼じゃないか」
「失礼と言っても……」
私はシェフの力作の鱒のムニエルを見遣った。
美味しそうなバターの焦げた匂いとソースの混ぜ合わさった香しい匂いが立ち上がっている。
お父様は流石にサイモンの肩を持つことはないだろうと思っているとごほん、えへんとか咳払いをしているだけだった。ああ、そうですか。
「私、デザートとお野菜だけでいいです。サラダをお願いしますね」
「あ、ええ、サラダはご用意してあります」
ロエさんが上目使いで頼んできたので私は使用人にそう伝言を頼んだ。
お野菜さん? お魚さん? 学園に通っていたはずなのに語彙力はまるで子どものよう。
それから、野菜のドレッシングが嫌だとか、デザートをお代わりしたいとかロエさんの要望に応じているだけで食事が喉を通った気がしない。
最後にロエさんはご馳走様と言ってサイモンと客間にさっさと移動していった。
私は食後のお茶を客間に届けるように使用人に伝えてそちらに向かった。
昨日更新できなくて変な時間になりましたが、お読みいただき、評価、ブックマーク、いいねをありがとうございます。(^^)