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03 教会へ

 自室に戻ると一緒に付いてきてくれたマーゴが心配そうに気遣ってくれた。


「あんまりです。旦那様や坊ちゃんがお嬢様にあのような物言いをなさるなんて」


「お父様がああ言うのも仕方がないわ。私だってもう二十六にもなるのよね。確かにこの歳で学園も卒業せず、社交界にデビューしていない貴族令嬢なんてろくな貰い手などありはしないでしょう。いっそのこと教会のシスターになろうかしら」


「そんなこと……、伯爵家のためにどれだけお嬢様が頑張られてきたのか。私は口惜しい限りです」


「ありがとう。そういってくれるのはマーゴと執事のハモンドだけね。でも、あなた達のお陰で家もなんとかなったし、分かってくれているだけで十分よ。でも、教会に行くというのは良い考えと思うの」


「お嬢様……」


 マーゴは納得していない様子だった。それでも、嫁に行き遅れた貴族令嬢の行く末など期待することなどできない。せめて伯爵家の領地のお手伝いくらいはさせてもらえるかと思っていたけれど……。今後の身の振り方を考えなければならないわね。


 私は部屋を出て行くマーゴの背中を眺めながら気づかれないようにため息をついた。




 翌日、私は奉仕活動の日では無かったが、再び教会に向かった。もちろん一人だった。


 そこで私はシスター・メアリーに何処かの教会でシスターとして受け入れてもらえるように頼んでみようと考えたのだ。


 シスター・メアリーは私の突然の訪問に驚いていたが、話を聞いてくださった。


 弟が婚約するので家にいられない事情を話して、どこかの教会に受け入れてもらえるように頼んだ。いっそ、ここで受け入れてもらえないかといった話までした。


 シスター・メアリーは昔から良く知っているし大体の事情を分かってもらえたようだった。


「リリエラお嬢様。分かりました。私にお任せくださいませ。実は頼まれていたことがありましたの。そのお話はお嬢様のご要望に合っていますし、私もお嬢様でしたら安心です」


 それ以上シスターはお話にならなかったけれどどこかの貴族家の住み込みのお仕事ということだけは教えていただいた。それ以上は了解を得てからと言われたのだ。


 この際だからメイドでも何でもやってみよう。家を出られるならどこでもいい。


 そんな私の思いを見通したようで連絡が取れ次第知らせてくれるというシスターの言葉に私は一旦家に戻った。





 私は家でシスターからの連絡を待ちつつ、身の回りを片付けていた。


 もちろん伯爵家の執務もこなさないといけないのでいつものように慌ただしく過ごしていた。


 父や弟からは顔を合わせると嫌味を言われたが、教会のシスターに受け入れてもらう予定と話して誤魔化した。


 サイモンの婚約の話は思ったよりも進まなかった。


 私から彼らの婚約式の段取りはもうするつもりはなかった。


 どうせ私は出ていくのだから婚約者のロエさんの思うようにした方が良いだろう。


 両家の顔合わせもしたいのだけど、どうやらロエさんの都合がつかないみたいで家にくることが難しいようだった。


 だけどお父様は先にロエさんと顔を合わせて挨拶をしていたのだ。


 私に執務の書類を押し付けていたのにどういうことかしらね。


 別に会ったって虐めたりはしないわよ。


 サイモンは私を見ると最近は嫌そうな顔をして話しかけてくるようになった。


 昔はこんな子じゃなかった。姉さんと呼んで家事をしている私の後ろをついて回っていたのに。


 今でもあどけないサイモンの姿が思い出される。


 その姿が嘘のように私をあざ笑うようにサイモンが話しかけてきた。


「姉さんはいつまで家にいるんだよ」


「あなたの婚約者と会わせてもらうくらいはいいじゃない」


「ロエは可愛くて繊細なんだよ。姉さんと会わせたら怖くて気を失うかもね。はは。それに姉さんだって自分より可愛いロエを虐めそうだよね。だから見せたくないなあ」


 そういうとサイモンは渋い顔をしていた。


「まあ、そんなこと言うなんて……、あなたは本当に変わってしまったわね。サイモン」


 さすがに顔を合わせるたびにロエさんのことを褒めて私を貶されたらいい加減嫌になってくる。


 あれだけ一生懸命に育てたのに。私の時間を返してと言いそうになるのをぐっと堪えた。


 それは私がお母様に頼まれてしたことだからサイモンは当たり前だと思っているのだろう。


 そもそも結婚式や婚約式の段取りは私抜きでどうするつもりかしら。


 一応弟の式のために伯爵家の財産とは別にこつこつ貯めてはきたけれど。


 まあ、新郎、新婦の好きなような式にすれば良いのよね……。


「教会のシスターに受け入れ可能なところを調べてもらっているから直ぐにという訳にはいかないのよ」


「ふーん。でもまあ、教会のシスターは良い選択だと思うな。お堅い行き遅れた姉さんにピッタリだよ」


 サイモンがなんだか人を馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。


 本当にこんな子じゃなかったのに。


 学園とやらはサイモンに一体どういう教育をしたのかしら?


 お父様だって私達の話を聞いて薄笑いをしている様子だった。サイモンの姿に今更お父様の姿にショックを受けることもない。それほどサイモンの様子に衝撃を受けたからだ。


 お父様だってこんなふうに人を見下すような表情をする人だったのだろうか?


 それにお父様は私が伯爵家の執務をするためにいつでも戻ってこられるように思っているのだろう。


 嫁いだら流石に婚家から再々戻る訳にはいかないのに。


 教会のシスターだってそうよ。俗世から離れるのだから。


 私が居なくなったら一体伯爵家の執務は誰がどうなさるつもりなのかしら? 


 まあ、お父様やサイモンが聞く耳持たないのなら執事のハモンドによく説明をしておかないといけないわね。

お読みいただき、評価、ブックマーク、いいねをありがとうございます。

まだ、様式変更を使いこなせていません。((+_+))

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