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01 教会での出会い

「リリエラ様。伯爵家のお嬢様にこのようなことをお手伝いしていただくなんて……」


「いいえ、シスター・メアリー。私は大丈夫です。それにできることはお掃除くらいしかありませんから」


 私は王都の教会に併設されている治療院でお手伝いをしていた。


 ここは私の家の教区の教会で貴族令嬢としていつものように奉仕活動をしていると近くで騒乱があり負傷した騎士や警備兵達が運び込まれた。


 てんやわんやの大騒ぎに私は出来る限りのお手伝いしているところだった。ここは王都とはいえ端の方でこうして負傷者が運び込まれると手が足りなくなるのだ。


 けれどただの貴族令嬢の私は治療の心得がある訳でもなく、掃除か包帯を換えることくらいしかできない。


 それでもまるで野戦場と化した教会では猫の手くらいにはなっているはず。そう思いながら包帯を洗い裏手の洗濯場で干していた。ガツンと音がしたのでそちらを見ると治療院の壁際に男性が佇んでいた。


「くそっ。俺が死んだら良かったんだ……」


 そう言いながら自分の頭を壁に叩きつけていた。


 正直放っておきたかったけれどこれ以上怪我人が出来るのとシスターが困るだろうと思い声を掛けた。


「そもそも人の生き死には私達がどうにかできる領分ではありませんよ」


「誰だ!」


 男性は額に血を滲ませ顔や体が泥と血に汚れていた。


 とても洗い甲斐がありそう。


「……名乗るほどでもありませんが、この治療院はとても古めかしいのです。そのようなことをされると壊れてしまいます」


 男性は騎士服を着ていたのでこの騒乱の鎮圧にこられた方かもしれない。


 顔や体は血と泥まみれだったけれど庶民には見えないスマートな立ち姿だった。


「……」


 彼は気まずそうに黙り込んでしまった。


 こうした騒ぎがあるのはこの国の王子達が王太子の座を争っていたからだった。


 病弱な第一王子と社交的な第二王子に周囲の貴族達も巻き込んで政治的駆け引きだけでなく最後は武力を使うことまでに発展していた。


 結局、第一王子が第二王子を制し、このロセウス王国の王太子に就いたものの、未だに第二王子の勢力と思われる者達が権勢を盛り返そうとあちらこちらで内乱のような騒ぎを起こしていた。


 この男性はもしかしたらその政変の際に大切な方を亡くしたのかもしれない。


 だけど、物に当たるはやめるべきだと思う。もったいないし壊れると困るじゃない。それならご自分の持ち物にするべきだと思う。


 私は彼の顔を真っ直ぐ見据えた。すると、


「……すまない」


 素直に謝って来たので私も少々戸惑ってしまった。


 よく見ると男性は血や泥で汚れていたけれどかなり整った顔立ちをしていた。


 それに私より少し年上に見える。


 もしかして高位貴族かもしれない。私も伯爵家の令嬢だけど不敬だと言われたらと今更ながら考えてしまった。


「わ、分かっていただければそれで……」


 私は不敬罪を問われるかもしれないと思い早く立ち去ろうとした。


 けれど彼の顔の汚れが気になって手持ちの手布を取り出して差し出した。


「あなた自身もお怪我をなされているご様子です。治療を受けてください。それでは失礼いたします」


「あ、君は……」


 私は呼び止める声を無視してシスターのところまで急ぎ戻った。


「シスター・メアリー、他には重傷者はいないようでしたけど今回の騒ぎで亡くなった方はいらしたの?」


「リリエラ様。ありがとうございました。亡くなった方ですか? いいえ、今回はそこまでの大きな暴動では無かったと思います。それにしてもこのような状態でも落ち着いてお手伝いをしていただいたので助かりました」


「少し驚きましたけれど私の弟もやんちゃでしたから怪我の手当てには慣れています」


 そうして私はシスターを安心させるように微笑んだ。


 奉仕活動をするのも貴族の役目と今は亡きお母様に言われていたので教区の教会での奉仕活動にきちんと参加していた。


 でも、今の自分の暮らしもままならないのに奉仕活動なんてと思うこともある。


 十年前に伯爵家の領地が災害に見舞われて領地経営が一気に苦しくなっていたからだ。領地の立て直しのためにしなければならないことはまだまだ沢山ある。


 私はシスターの手伝いが一段落すると教会から見える自宅へと戻った。執事のハモンドと乳母兼侍女のマーゴが心配そうに私の帰りを待ってくれていた。


「もう少し遅ければお迎えにいこうかと思っておりました。やはりお一人で行かせるのではありませんでした」


 年老いた執事のハモンドが心配げに声をかけてきた。マーゴも私に近寄った。


「いつもならマーゴを連れて行ったのだけど、近いからつい一人で……」


「申し訳ありません。お嬢様」


「いいのよ。腰はどう? 大分良くなった? マーゴの身体の方が大事だからね。それにもう帰ってきたから」


 マーゴは年のせいかここのところ腰を痛めて休ませていたのだ。心配する二人に微笑むと私は領地から届いた書類を手に自室へと向かった。


 でも、今日はいろいろと疲れたので明日にしよう。

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