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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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94.ウィルバートは知らなかった

「あらあら、振られちゃいましたね」

 可哀相にっと口で言いながらも、おかしそうに笑っているキャロラインが癪に触る。


 そんなわたし達を見ていたマリベルが、ふふっと口元を緩めながらアリスに話かけた。


「アリス様、どうでしょう? もう変装も必要ありませんし、別室で着替えてきませんか?」

 マリベルの提案にアリスはすぐさま立ち上がった。


「それならわたしもついて行こう」


「いいえ、殿下はこちらでお待ちください」


 アリスと一緒にいたかったが、ルーカスからエドワードが説明に来るので部屋で待っていろと言われてしまった。


 エドワードからの説明は確かに聞かねばならないが、アリスとも離れたくない。アリスが見えない所に行って、そのまま消えてしまうのでは。そんな悪い予感がしてならない。


「では、アリスを別室に送ってすぐ戻ってくるとしようかな。さぁ、アリス……」


「マリベルがいるので大丈夫です」


 アリスはそう言うと、わたしの方を見ることもなくさっさと部屋を出て行ってしまった。


 まさかわたしの事を無視して行ってしまうとは思ってもみなかった。差し出したままの手がなんだか虚しい。


 クスクスという笑い声に振り返ると、キャロラインが楽しそうにわたしを見ていた。


 どうせ何を言っても。余計に笑われるにきまっている。気恥ずかしさを誤魔化すように咳払いをして座った。


「ウィルバート様は恋愛関係においては完全にポンコツですわよね」


「キョロライン嬢、それは少し言い過ぎじゃないかい?」


「そうですか? でもウィルバート様はアリス様を自分に夢中にさせようとしながら、よく空回りしていらっしゃるじゃありませんか?」 


 誰が空回りしてるだって?

 死んだと思っていたアリスが戻って来て上機嫌なのか、今日のキャロラインはいらないことをよく喋る。微妙な関係の従兄妹達の前で余計な事を言うのはやめてもらいたい。


「っていうか、ウィルバート兄様のバカっぷりはどうでもいいんだけど。それより早くアリーのこと説明してくんない?」


 オリヴィアがお茶のおかわりと共に説明を要求する。


 はぁ。もうため息しか出て来ない。エドワード、頼むから早く来てくれ。エドワードに早くここに来て、この言いたい放題の連中を早く黙らせてほしい。





「じゃあやっぱりアリーがアリスなのね」


 エドワードからの説明を聞いたオリヴィアが興奮したように声をあげた。元々噂好きな性格なので、こう言った秘密の要素を持った話に対する食いつきは半端ではない。


「エドワードったらひどいわ。こんな楽しい話、どうして早く教えてくれなかったのよ」


「秘密にしていなければアリス様が狙われる可能性があったからですよ」


 そもそもアリスが命を狙われたことから始まった話なのだから、楽しい話なわけではない。それでもオリヴィアにとっては刺激的なおもしろい話なのだろう。


「わたしはアリーのすぐ側にいたんだから、知っていてもよかったと思うわ」


 愚痴を言うオリヴィアに、その場にいる全員が苦笑いを浮かべた。このおしゃべりなオリヴィアに秘密を守れないことは周知の事実だ。


「アリスが狙われる可能性があるのは分かるけれど、わたしにまで作り話をする必要はなかったんじゃないかい?」


 オリヴィアはともかくとして、わたしにまで嘘をつく必要はないんじゃないか?

 必要とあれば、わたしはルーカスやアーノルドにだって隠し事をすることができるぞ。


「敵を欺くにはまず味方からと言うではありませんか。ウィルバート殿下が何も知らなかったからこそ、カサラング公爵を油断させることができたんです」


 エドワードの言うことも分からないではない。けれどアリスが死んでしまったと思い眠れず苦しんだ日々は本当に辛いものだった。父やエドワード達だけが真実を知っていたことはやはり納得がいかない。


「これでもうアリス様は大丈夫なんですよね?」

 エドワードは心配そうな顔をしているキャロラインを安心させるように頷いた。


「カサラング公爵は王宮内で拘束されているからね。公爵に協力した者もすでに捕らえられたし、もう大丈夫だろう」


「よかった……」

 そう呟いたキャロラインの顔には安堵の表情が浮かんでいた。


「さすがエドワードだな」

 ボソッと独り言のように呟いたセスの瞳からは、エドワードへの尊敬がはっきりと見てとれる。


「エドワード兄様、ところであの亡霊? みたいな方は一体誰なんですか?」


 そうだ。それはわたしも気になっていた。いきなり照明が消えた上に、亡霊が現れたものだから、さすがのわたしも声が出ないほどに驚いてしまった。


「あれは、カーティスの息子ですよ」


「息子!?」


「なかなかいい亡霊感が出ていたでしょう」


 部屋にいた全員が一同に驚いたような声をあげたのを見て、エドワードは満足そうな笑みを浮かべた。


 何でカーティスの息子が協力しているのか? とか、娘じゃなくて息子なのか? とか、アリスの亡霊役にしては子供すぎやしないか? とか聞きたいことがありすぎて、何から尋ねればいいのかすら分からない。


「亡霊を使ってカサラング夫人を精神的に追い詰める案はかねてより出ていたのですが、誰に亡霊役をさせるか決められなかったんですよ。ですがオリヴィア様にお会いした時に、とても印象的なことをおっしゃっていたので……」


「私、何て言ってたの?」


「オリヴィア様はアリス様のことを、極悪幼女と呼んでいたんです」


「はぁ?」


 自分でも驚いたことに、紳士らしからぬ声が出てしまったようだ。誤魔化すように慌てて咳払いをした。


「世間的にはアリス様が幼いと認識されているのなら、やはり亡霊も幼い子を使った方がいいと思ったんです。カーティスの息子は小さいながらも自分の父親の立場を理解していますから、秘密保持の面からしても最適でした」


 エドワードの説明に集中すべきなのだが、先程の言葉が気になって内容が頭に入ってこない。


「オリヴィア、君はアリスのことを極悪幼女と呼んでいたのかい?」


 わたしの聞き間違いだと思いたかったが、オリヴィアは悪びれることなく頷いた。くらりっと軽い目眩がする。


 非常に厄介ではあるが憎めない従妹だと思っていたわたしの認識は、間違いだったのかもしれない。アリスを極悪幼女扱いするなんて言語道断だ。アリスは根っからの善人だし、そもそも幼女ですらない。わたしの非難にオリヴィアは口を尖らせる。


「アナベルが悪いのよ」


「私ですか?」


 話が長くなりそうだからと、サンドイッチなどの軽食をテーブルに並べていたアナベルは、いきなり名前があがったことに驚き手を止めた。


「そうよ、アナベルのせいよ。アリスって子は幼くて妹みたいだって言ったじゃない。だからわたしはてっきりウィルバート兄様はロリコンだったんだって勘違いしちゃったのよ」


 再びくらりっと目眩を感じた。全くなんてひどい話だ。


 どう考えても勝手に勘違いをした方が悪い気がするが、相手はオリヴィアだ。反論したところで自分の非を認めるわけはない。


「誤解させるような説明をして申し訳ありませんでした」

 アナベルには謝罪以外を口にする選択肢は与えられていなかった。


「でもあの亡霊騒ぎだけで公爵夫人があそこまで取り乱すのは正直意外でしたわ」


 こういう時さらりと話題を変えることのできるキャロラインはさすがだ。


「もちろん、あれだけじゃありませんよ」


 あの場でカサラング公爵夫妻を追い詰めるために、前々からカサラング邸で怪奇現象をおこしていたのだとエドワードは言った。


「少々荒っぽいこともさせていただきました」

 詳しくは語らなかったが、エドワードの端正な顔が愉快そうに綻んだ。


「ねぇねぇ、じゃあアリーはエドワードの秘密の恋人じゃないってことよね?」


 エドワードが頷くと、オリヴィアは手を叩いて喜んだ。


「やった。じゃあラウル兄様にアリーと結婚してもらおっと」

 

 驚いた拍子に紅茶が鼻から出そうになった。また何をおかしな事を……


「あー、アリーとラウル兄様が結婚したら……うふふふふ」

 未だアリスをアリーと呼ぶオリヴィアは、何やら腹立たしくなるような妄想をしているようだ。


「あら、アリス様がラウル様とご結婚されることはありえませんわ」


 おっ、キャロラインよくぞ言ってくれた。心の中で拍手を送る。


「どうして? この世にラウル兄様より素敵な人いないんだから、アリーだってきっとラウル兄様を好きになるはずよ」


「いいえ。アリス様と結婚するのはエドワード兄様ですわ」


 おい、キャロライン!!

 君はわたしの味方じゃなかったのか。なんだが裏切られたような気分だ。


 二人は自分こそがアリスと姉妹になるのだと言い張っている。あまりにくだらない言い争いに、口を出すのも躊躇われる。


「だいたい、あんたの事は昔から気に食わなかったのよ。ちょっとばかり美人だからって調子にのらないでよね」 


「オリヴィア様に美人と言われて嬉しいですわ」


「あなたねぇ!」


 感情の昂ったオリヴィアに、さすがのキャロラインもイラつくかと思いきや、にっこりと余裕な笑みで受け流した。まともに反論してこないキャロラインにオリヴィアの方がイラついている。

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