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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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89.脅しですか!?

 邪魔だと言われたのに、何故だかやけにエドワードは楽しそうだ。


「何で笑ってるのよ」

 オリヴィアは困惑し、

「さすが、エドワード!!」

 セスは尊敬の眼差しを向けている。


「いえ、前にキャロラインも『お兄様と結婚してほしい』と言っていた事があったなと思い出していたんですよ」


 この話に食いついたのはオリヴィアだ。息を吸うのを忘れているんじゃないかと思うほどの勢いで質問を飛ばしてくる。


「キャロラインが同じような話をしていたってどういうこと? キャロラインはエドワードと誰を結婚させたかったの? 私の知ってる人?」


 そんなオリヴィアの様子を楽しみながら、エドワードはざっくりと説明をした。


「キャロラインもオリヴィア殿下と同じでした。ある女性と姉妹になりたいから、私とその女性が結婚すればいいのにと言っていたんです」


「何それ、面白い。ねぇ、それって誰なの? あっ、もしかしてそれがアリーとか?」


「その女性は異世界からの客人である、ウィルバート殿下の想い人です」


 !!


 驚いたはずみで、食べていたお肉が気管に入るところだった。私がむせている隣で、オリヴィアが驚きの声をあげる。


「えっ!? えぇー!! キャロラインってばあの極悪幼女と姉妹になりたがってたの?」 


 今度はエドワードが驚いたようだ。


「今なんとおっしゃいましたか?」


「キャロラインは極悪幼女と姉妹になりたいのかって聞いたの」


「極悪……幼女ですか……?」


「そうよ、だって……」


 前に聞いたことがあるオリヴィア達のアリス情報が始まった。一度聞いてるから衝撃は少ないけど、やっぱりアリスのイメージってかなりひどい。


 オリヴィアの話を聞いているエドワードと、バチっと目があった。


「そうですか。それで極悪幼女……」


 言葉が途切れたエドワードの肩が小刻みに震えている。額に手を当て顔を隠してるけど、笑うのを我慢してるのバレバレだから!!


 オリヴィアが話しているのは私のことだと知っているレジーナ様は申し訳なさそうな表情をし、マリベルは哀れむような視線をくれる。


 ああ、なんともいたたまれない。

 なおも肩を震わせ続けるエドワードを見ながら、投げやりな気持ちになってくる。もういいわよ、好きなだけ笑えばいいんだわ。


 そんな感じで過ごすうちに、あっという間にこの城とのお別れの日を迎えてしまった。私はレジーナ様の侍女として王宮に入ることに全然抵抗はなかったけれど、出発間際までオリヴィアは大反対だった。


 オリヴィアを無視することもできたけれど、オリヴィアの想定外の行動で計画を邪魔をされてはかなわない。念のためエドワードは私をオリヴィア付きの侍女にすることに決めた。


「どちらにしてもアリーを侍女として扱うのね」


 オリヴィアはまだ納得がいかないと言っていたが、それでもレジーナ様の侍女より自分の侍女の方がマシだろうと渋々ながら受け入れた。


 王宮へ向かう道のりは、来る時とは違い非常に楽しいものだった。オリヴィアの豪華な馬車に乗せてもらい、途中の町で宿泊しながら移動する。まるで旅行みたいでウキウキしちゃう。


 そんな私にエドワードは、

「全く……自分が死んだことになっている状態で王宮に帰るってのに、よくそんな無邪気に過ごせるよな」

 っと呆れていたが、仕方ないじゃない。


 死んだことになっているとは聞いていても、王宮に着いてからのことや、今後どう解決するつもりなのかは何一つ教えてくれないんだもん。今のこの状況を最大限に楽しまなきゃやってられないわよ。


 それでも久しぶりの王宮には緊張した。どこで顔見知りに会うか分からないからとにかく目立たぬようにと神経をつかう。


 オリヴィア達は王宮に到着後、国王であるロバート様達との夕食会に出ているので部屋にはマリベルと私の二人だけだ。


 マリベルからの情報によると、アナベルは今キャロラインのお世話をしているらしい。キャロラインも王宮で生活しているので、ばったり鉢合わせしないよう気をつけてなくては。


 ウィルも今王宮にいるのかしら?

 ねぇウィル、私帰ってきたよ。


 会いたくてたまらないこの気持ちが爆発する前に全て解決してウィルに会えますように……

 そう願いながらマリベルと二人、静かな夜を過ごした。




☆ ☆ ☆




「アリー、朝よ。早く起きて起きて!!」


 場所が変わっても朝の騒がしさは変わらない。いつものごとくオリヴィアに叩き起こされる。


「おはようございます。今日はまた一段と早起きですね」


「だって早く準備しなくちゃ春喜宴に間に合わなくなっちゃうじゃない」

 春喜宴はお昼から行われるって聞いたけど……


 春喜宴は2部制で、まずは昼の時間に春の美しい花が咲き誇るガーデン内での立食パーティーで、夜は王宮内での舞踏会だったはずだ。


 こんな朝早くから準備しなくても余裕で間に合うんじゃないかと思いながらも、浮かれたオリヴィアからは逃れられるはずはない。


「見てよ、アリー。今日のため私がデザインしたの」


 オリヴィアのドレスは二着あった。一つは昼会で、一つは夜会で着る予定らしい。昼に着るというドレスは上半身が黒で、ふんわりとしたスカート部分がワインレッド、レースがたくさん使われた物だった。夜のドレスは濃紫色の生地に金色の刺繍があしらわれた豪華な作りだ。


「とても素敵ですね」


 普通の人には着こなすのが難しそうなドレスだけど、オリヴィアくらい目鼻立ちがはっきりした美人ならきっと映えるだろう。 


「でしょ。それで……」

 オリヴィアが侍女に持ってこさせたドレスを広げた。


「こっちがアリーのよ」


「えっ? 私のって……」


 あれ? 私は春喜宴には出ないってきちんと伝わってなかったのかしら?

 おかしいなと思いながらマリベルを見ると、マリベルも同じように困惑した顔をしていた。


「このドレスも素敵でしょ。アリーに似合う色を考えながらデザインしたのよ」


「ありがとうございます。でも今日の私はオリヴィア様の侍女なので、ドレスは必要ありません」


「そうよ。今日のあなたは私の侍女なの。だから私の命令には絶対服従よ。アリー、あなたはこのドレスを着て春喜宴に出席しなさい」


「そんなぁ……」

 なんて横暴なっ。


「アリー様は春喜宴の間、部屋から出るなとエドワード様からキツく言われています。ですからオリヴィア様のご命令には従うのは無理でございます」


 マリベルがそう言っても、

「エドワードのその命令自体がおかしいのよ。せっかくのパーティーなのに、部屋に閉じこもるなんてあり得ない」

 と言ってオリヴィアは全く聞く耳を持たない。


「さぁ皆始めてちょうだい」


 ついにはオリヴィアの指示で侍女達が動き出してしまった。マリベルに守られるようにして二人で抵抗を試みるが、相手はこちらより人数が多い上に、お転婆オリヴィアの優秀な侍女達だ。なかなか逃げるのは難しい。

 

 逃げる私の様子を見ていたオリヴィアが、このままでは準備が間に合わなくなるじゃないとイライラしはじめた。


「いいことアリー、よくお聞きなさい。もしあなたが私の命令を聞かずパーティーに出ないのなら、私はあなたがエドワードの恋人だという話をパーティー会場でしてくるから!!」


 エドワードが恋人である私を連れてレジーナ様の城を訪れた所から、今は部屋にこもっていることまでを参加者全てに話せば、興味を持たれてパーティー会場に呼ばれるに決まってるんだからとオリヴィアは笑う。


「春喜宴は全王族と主要な貴族が集まる宴よ。エドワードだって、お偉いさん達にアリーを見せろと言われたら断ることはできないでしょうね」


 あーん、やっぱり横暴だわ。

 こんな脅しなんかに屈するわけにはいかないけど、オリヴィアのことだから本気でペラペラ喋っちゃいそうだ。もし本当にエドワードの恋人を連れて来い……みたいなことになったら……考えただけで最悪だ。


 皆の注目の的になるなんて絶対嫌だ。

 頼みの綱のマリベルも、お手上げだと言うようにため息をついた。


「でも私は本当に春喜宴に出るわけには行かないんです」


 どうしたら分かってくれるのよ。もういっその事泣いてしまおうか。でもオリヴィアには泣き落としも通用しない気がするし……


「そんな泣きそうな顔しなくても大丈夫よ。私だって暴君じゃないんだから」


 いやいや、あなたは充分暴君だと思いますけど。そんな私の心の声など届くわけもなく、オリヴィアは意気揚々と話続ける。


「結局のところ、エドワードにバレなきゃいいわけでしょ? だったら変装しちゃえばいいのよ」


 そのためのグッズも用意しているとオリヴィアが言うと、侍女の一人が大きな段ボールを持ってくる。その中にはウィッグやメガネなど、変装に役立ちそうな物が詰め込まれていた。


「ね? 変装してアリーじゃなく、そうね……アリッサとかアリーヌとかって名乗ってれば絶対バレないから」 


 これまたややこしいことを言ってくれる。

 今現在が変装した状態なのに、また変装しろですって? 


 もういい加減にしてよっという言葉を何とか飲み込んだ。オリヴィアは事情を知らないんだから、そう自分に言い聞かせる。


「さぁアリー、変装してパーティーに出るか、それともここで興味津々なお偉いさんに呼び出されるのを待つか……どちらがいい?」


 どちらも嫌なんだけど……

 それでも選択を迫るオリヴィアからは逃れられそうもなかった。

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