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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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84/117

84.誕生日

「お前、ラウルと何かあったのか?」


 えっ? またその話? 

 昨日すでに誤解は解けたとばかり思っていたのに、また同じ話だろうか? もしそうだとしたら、かなりしつこい。


 嫌な気持ちが顔に出ていたらしい。私の感情を読みとったセスが、

「そういう色恋の話じゃねーよ」

 と、私の考えを否定した。


 そういう意味ではなく、何かトラブルのような事はなかったか? 例えばラウルの怒りを買うような事があったのではないかとセスは言う。


「それ、私も思ってたのよね。昨日のラウル兄様、ちょっとおかしかったし」


「ラウル様は、どこかおかしかったんですか?」


 いつも通り神秘的な美しさで周りを圧倒してるようにしか見えなかったけど。


「ラウル兄様は、アリーが嫌がらせを受けてた事に気づかなかったって言ったじゃない? あの兄様が気がつかないって、あり得ないと思うのよね」


 どうやらセスもオリヴィアも、ラウルほどできる男はいないと思っているらしく、ラウルが嫌がらせに気がつかなかった事に違和感を感じているようだ。


 ラウルは嫌がらせに気がつかなかったのではなく、気づかない振りをしていたのではないか? 


 それどころか、そもそも使用人達に誤解を与え、私が嫌がらせを受けるよう仕向けたのはラウルなのではないか? 


 まさかっと思うような考えだけど、

「ラウルは敵と判断した奴には容赦ないからなぁ……」

 完璧な容姿と能力に反して、性格にはやや難ありだとセスは言う。


 っと言われてもねぇ……敵って言われるほど嫌われる覚えはないんだよね。あえて言うなら、ダンスの練習中に、ヒールで足を踏んじゃったくらいかしら。


「さすがにラウル兄様だって、それくらいでは怒らないわよ」


 ですよねぇ。だとしたら、私は何をやらかしたのかしら?


「あっ、もしかしてラウル様とエドワード様の仲が悪いってことはありませんか?」


 性格に難ありラウルと、本性極悪エドワードならトラブルだって起こるはず。ラウルがエドワードを嫌いなら、その恋人って事になってる私の事を嫌いでもおかしくはない。


「そんなわけないだろう!!」


 セスが怒りに満ちた目で私を睨んだ。

 エドワード命のセスにとって、エドワードが人から嫌われるなんて事はありえないようだ。


 セスとは違い、エドワードに思い入れのないオリヴィアも、私の意見には否定的だ。


「アリーがエドワードじゃなくて、ウィルバート兄様の恋人なら嫌われちゃうかもしれないけどね」

 

 んん? 

 今オリヴィアの口から。ものすごーく気になる言葉が出たんだけど……

 

「それってウィルバート様とラウル様は仲が悪いって事ですか?」

 オリヴィアとセスが顔を見合わせた。


「仲が悪いって言うか……」

 言いにくい話なのか、オリヴィアの口がいつもと違って重い。

 

「まぁ、んな事いいじゃねーか」

 話は終わりだとばかりに、セスが竿を引き上げた。

 

「お前の嫌がらせにラウルが関わってるってのは、俺が考えすぎなだけかもしれないしな」

 餌をつけかえたセスが、再び池に竿を投げ入れた。


 うわー!!


 ここで話を終わらせられるのって、かなり嫌なんだけど……ウィルバートとラウルの関係をできればもう少し教えて欲しかった。まぁセス達の様子からして、関係が良好ではなさそうだけど。


 ということは、やっぱりラウルは私がアリスだと知っているのかもしれない。 私がウィルの恋人だから嫌がらせするほど嫌いってこと?


 うーん……


 釣りに集中している二人をぼんやりと眺めながら、頭の中で分かっている情報を整理する。けれどこれだけ情報が少ないんじゃ、やっぱり何も分からないままだ。


 とりあえず、ラウルには気をつけた方がいいかもしれない。なんせエドワードみたいに紳士の仮面をつけた悪魔だっているのだ。弟妹から性格に難ありと言われちゃうくらいだし、ラウルの美しい姿の下には、何か恐ろしい物が隠されているかもしれない。


 よしっ!!

 ラウルを警戒しつつ、今まで以上に素性がバレないように気をつけようっと気合いをいれ直した。



☆ ☆ ☆



 今日も特別な事は何もない普通の日だった。けれど皆にとっては何てことないこの一日は、私にとってはとても大切な日だ。


 まさか18歳の誕生日を異世界でこんな風に過ごすことになるなんて、一年前には想像もしていなかったわ。


 この私にとっては特別な1日も、もうすぐ終わろうとしている。仕方のない事だけど、私に「おめでとう」の一言をくれた人はいない。


 仕方ないわよね……

 今日が私の誕生日だって知ってる人はいないんだもん。


 素性を隠して変装生活している私の誕生日など知っている人がいるわけがない。もちろん私から今日が誕生日だと言えるわけもない。


 お祝いされないなんて、いつもの事じゃない。今までだって誰も祝ってくれる人なんていなかったんだから……


 あーあ……ウィルに会いたいなぁ……

 会えなくてなって、もう一ヶ月以上たつけど元気かしら? 


 時間がたてばウィルへの想いも薄れていくだろうと思っていたのに、恋しい気持ちは全く消えそうにない。それどころか会いたくても会えないからだろうか、以前よりも愛しい気持ちが増した気がする。


 もっと早くウィルの事好きだって気づけばよかった。そうしたら、ウィルに好きだと伝えられたかもしれない。今更後悔しても仕方ないけれど、ウィルへの苦しい恋心が封印を破って溢れ出しそうだ。


 いけないいけない。泣いたりなんかしたら、マリベルを心配させちゃう。


 何かあってはいけないと、マリベルはすぐ隣の部屋で寝起きをしてくれている。私のすすり泣きが聞こえたりなんかしたら、きっとすぐとんできちゃうわ。


 あれ? 

 隣室を気にしたせいだろうか、マリベルの声が聞こえた気がした。ドアに近づき耳をすます。


 やっぱり。何を話しているかまでは分からないけど、間違いなく人の話し声がする。


 盗み聞きしちゃ悪いとは思いながらも、いつもとは違う事が起こっていたらやっぱり気になってしまう。行儀は悪いけど、ドアに耳を近づけてマリベルの声を拾う。


 とはいっても、隣室で寝ている私の邪魔にならぬよう配慮しているマリベルの声は小さく、ほとんど意味なんか分かりはしない。かろうじて理解できたのは、「アリー」「無理」「ケーキ」「遅い」くらいだろうか。


 ん? ケーキ!?

 もしかしてマリベルってば私の誕生日ケーキ用意してくれてるとか?


 喜んでドアを開けかけたけど、ちょっと待って。時計を確認すると、まだ今日は終わっていない。でもいくら誕生日が終わっていなくても、マリベルがこんな夜中にケーキを持ってくる? 


 私は「ケーキ」だと思ったけど、もしかしたら「景気」だったのかもしれない。いや、もしかしたら「契機」かもしれないし、「刑期」かもしれない。


 悩んだけれど、静かにドアをあけてみることにした。もしかしたらやっぱりバースデーケーキかもしれないと思ったら、我慢できなかったのだ。


「あっ、アリー様!!」


 私に気づいたマリベルが申し訳なさそうな顔をした。そのマリベルの前にいたのは……


「ラウル様!? どうされたんですか、こんな遅くに……」


 まさかマリベルと話していたのがラウルだとは思わなかった。ラウルがこんな夜中に私の部屋にいたら、また変に誤解されちゃうじゃない。くだらない嫌がらせをされるのはもうたくさんだ。


「とても美味しいケーキが手に入りましたので、あなたに今日中に食べていただきたかったんですよ。今日中にね」


「あ、ありがとうございます……」


「今日中」という言葉をやけに強調するラウルの瞳に、ゾクっとするような寒気を感じた。私の変化を何一つ見逃すまいとしているだけでなく、心も頭の中までも、全てを見通されるような恐怖にかられる。


 ああ……やっぱり……やっぱりこの人は全て知っている。全て知っていて、私の反応を見ているんだ。


「せっかくですから、今からラウル様も一緒に食べませんか?」


「ア、アリー様!?」


 まさか私がラウルを誘うとは思っていなかったのだろう。マリベルの焦りが私にまで伝わってくる。そりゃ焦るわよね。また私が嫌がらせされたら、マリベルだって困るんだもの。

 

 でもごめんね、マリベル。ラウルが一体何を考えてるのか、少しでいいから知りたいの。


「こんな夜中にラウル様と二人でケーキを食べるなんて、なんだか不思議ですね」


「そうですね。でも年に一度くらいは、こういう過ごし方をするのもいいですよね」


 相変わらず、「今日がお前の誕生日だって知ってるぞ」っていうのを、微妙に匂わせてくる。


 どうして上流階級の人って、こういう遠回しなやりとりが好きなんだろう。ウィルとキャロラインが話してる時なんか、特にそうだった。二人ともニコニコしながら、何が言いたいのかよく分からないやりとりをしてたっけ。


「ラウル様は私の正体を知ってるんですよね?」

「ウィルバート様の事が嫌いだから、恋人であろう私に嫌がらせをしたいんですか?」


 そんな風にダイレクトに聞いてしまえば早いけど、せっかくだし、貴族流にチャレンジしてみよう。


 えーっと……遠回し遠回し……


「ラウル様は、私の事がお嫌いですか?」


 ラウルの意味ありげな笑みが一瞬固まった。きっと私の言葉の裏の意味とか、考えてるんだろう。遠回しな言い方だったかどうかは不明だが、とりあえずラウルを戸惑わせることには成功したようだ。


「……いいえ」

 ラウルがゆっくりと首を横に振ると、私を見た。


「私はあなたの事が好きですよ」

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