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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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83.魚釣り

 侍女長が犯人達から聞き出した私への嫌がらせの理由……それはまさかの「ラウル様と深い関係になったから」というものだった。


 エドワードのような素晴らしい男性の恋人であるにも関わらず、ラウルとも関係を持つ。それが許せなかったと、嫌がらせ犯達は口々に言ったそうだ。


「いやーん!! アリーってばやるぅ!!」


「エドワードという者がありながら他の男ともなんて、何考えてんだ!!」

 

 鼻息を荒くするオリヴィア、怒鳴るセス、でも一番驚いているのは、きっと私だ。


 関係を持ったって、何それ? 

 もし私の考えてる通りの意味だったとしたら……というか、もしかしなくてもそういう意味だよね!


「な、何かの間違いです。だって私はピュアですもん」

 って、私ってば何言ってんだ!! 

 焦る私を見て、ラウルがおかしそうに笑った。


 いやいや、笑う前に否定してくんなきゃ困るんですけど。じゃないと私はエドワードという恋人がいながら、ラウルに手を出す尻軽女になってしまう。


「ねぇラウル兄様、本当はどっちなの?」


 どう考えても私の言う事の方が正しいでしょっと思うけど、オリヴィア的には嫌がらせ犯の言う事が正しくあって欲しいようだ。期待に満ちた目でラウルを見つめている。


 そんな妹の期待に応えたかったのだろうか。「さぁ、どうでしょうね」っとラウルが、さも意味ありげな返事をした。


 ちょ、ちょっとラウル様? 


「じゃあ、やっぱり。アリーってば、肉食獣なんだからぁ!!」


「おい、お前!! エドワードを裏切ったらどうなるか分かってんだろうな!!」


 ……やっぱりこうなっちゃうわよね。より一層オリヴィアは興奮しちゃってるし、セスの顔は怒りで真っ赤だ。もう笑えない冗談なんていらないから、ラウル様、早くはっきりと否定して〜!!

 

 結局ラウルはおかしそうに笑っているだけで、私を救ってくれる事はなかった。困る私を見かねて助け船を出してくれたのはマリベルだ。


 私とラウルは深い関係になどなっていない。自分は常に私の側にいたので間違いないと断言してくれた。これにはオリヴィアもセスも納得したようだ。


「えー、なんかガッカリなんだけど。アリーの超肉食系武勇伝聞きたかったのにぃ」


「うん。そりゃそうだ。エドワードのような男が、簡単に浮気するような尻軽女を選ぶわけないからな」


 って、二人とも何言ってんの!!

 ガッカリするオリヴィア、満足そうに頷くセス。もういいや。私は余計な事は言わず黙っていよう。


 そう思ったのに……ラウルは容赦なく新たな爆弾を投下した。


「わたしが深夜にアリー嬢と密会をしていたのを見られてしまったのでしょう。次からは誰にも見られぬ様気をつけてあなたの寝室を訪ねますね」


 ラウル様って、もしかしておバカなのかしら?

 このタイミングでそんな言い方したら……


「何? 何? 何? 何? 密会って何の事?」


 ほら。思った通り、オリヴィアが食いついてしまった。


「二人だけの秘密ですよ」


 ねっと、同意を求めるように私を見たラウルが、口元に人差し指を当て内緒のポーズをしたまま微笑んだ。その神々しさを見せつけられたら、文句の一つも言えやしない。


 とりあえず嫌がらせの理由も分かったし、ひとまず退散だ。後の事はレジーナ様と侍女長にお任せして部屋へと帰った。


 翌朝食事がすむと、セスから「少し話がある」っと、庭園にある池に呼び出された。


 話があると言っていたのに、それより先に釣りがいいと言い始めたオリヴィアに、半ば強引に釣り竿を押し付けられた。

 

「私、魚釣りなんて全くしたことないんですけど、邪魔になりませんか?」


「邪魔だと思うなら声なんかかけねーよ。お前がしたいならする、したくないならするな」


「そうよアリー、やりたいのか、やりたくないのか、自分の気持ちで決めていいのよ」

 オリヴィアとセスに凄まれたら本音でしか返せない。


「やって……みたいです」と小さな声で呟いた。


「いいか? 一番釣れなかった奴は、昼飯抜きだからな」


 この勝負、明らかに初心者の私が不利な気がするけれど、ビギナーズラックって事もある。とりあえず見様見真似で餌の準備をする。


 ん? 何この蓋、固くて開かないんだけど……

 ふんっと力をこめた拍子に勢いよく餌箱が開いた。

 

 ボトボトっと飛び出た中身に思考が停止する。

 えーっと……今私の膝の上に飛んで来たこれは……


「キャーキャーキャー!!」


「どうした?」

 私の叫び声に驚いて飛んできたセスに、思わず抱きついてしまった。


「ミミミミミミ……」


「ミミミミ?」

 私を抱き止めたまま首を傾げるセスに餌箱を指差す。


「ミミズ、ミミズが飛び出して……」


「アリー様、大丈夫ですか?」


 近からず遠からずの位置で私を見守っていたマリベルが、慌てて走り寄って来るのが見えた。


「あらまぁ」


 私達の姿を目にしたマリベルが目を丸くする。

すぐさまセスが私を受け止めていた手をパッと離したけれど……マリベルの表情が曇っていく。


「いくら殿下でも、嫌がる女性に無理なさるのはどうかと……」

 マリベルの氷点下の眼差しに対して、「んなことするわけねーだろ」っとセスの怒号が飛ぶ。


 私が悲鳴をあげちゃったせいで、セスが私を襲ったと勘違いされちゃったみたいね。そんなことあるわけないのに。慌てて否定するセスを見て思わずクスッと笑ってしまう。


「何笑ってんだよ!!」


「ごめんなさい。まさかそんな勘違いされるなんて思ってなかったから、何だかおかしくって」


「だいたいお前が、あんな悲鳴をあげるから悪いんだろ」


「だってミミズが飛んで来たから……」


 ミミズ? と不思議そうな顔をしたマリベルとセスだったが、蓋の開いた餌箱と、地面をウゴウゴしているミミズ達を見て納得したようだ。


「お前……平民のくせにミミズも触れないのかよ」


「ミミズを触れるかどうかに身分って関係あるんですか?」


「それは……」

 セスが何かに気づいて言葉をとめた。


「なんなんだ?」


 セスの視線の先にあったのは、オリヴィアのいやらしい笑い顔だった。


「なぁに? 二人とも、何だかいい感じじゃなぁい?」

 

 この状況を面白がっているオリヴィアにため息をつきながら、セスが私の目の前に釣り竿を伸ばした。


「よく見とけよ。こうやって頭の下に針を通して……」

 慣れた手つきで素早く餌つけを完了したセスに拍手をする。


「すごいですね」


「感心してないでお前もやるんだよ」


 そんなこと言われてもねぇ。

 ミミズに針を刺すなんて、考えただけで鳥肌が立つ。そもそもウネウネと動くミミズを素手で触ることすらかなりの苦行だ。


 それに頭の下に針を……って、どこがミミズの頭なのよ!! こんなにじっくりとミミズを見たのは人生で初めてだ。どこまでが頭で、どこから体なのかさっぱり分からない。


 全く役に立たない私に向かって、再びはぁっと大きなため息をついたセスは、無言で釣り竿に餌をつけてくれた。そのままセスの言う通りに湖に釣り糸を垂らす。


「よし、またきた」


 針から外した魚をバケツに放しながら、セスはまるで子供のように無邪気な笑顔を見せる。


「この調子なら、勝負は俺の勝ちだな」


「勝負はまだまだよ。セス兄様には負けないんだから」


 さっきから何の苦労もなく魚を釣り上げるセスとオリヴィアと違い、どうして私の所に魚は来てくれないのだろう?


「魚も釣られる人間を選ぶもんなんだよ」


 再び釣り糸を垂らしたセスの、いつもは見せないような楽しげな顔に心が弾む。


「何笑ってるんだよ?」


「えっ? 私笑ってましたか?」


 自分でも気づかないうちに顔が緩んでいたらしい。ジトっとしたセスの視線が痛い。


「あの、別にバカにして笑ったわけじゃないんです。ただいつも不機嫌そうなセス様の笑顔が見れて嬉しいっていうか……」


「はっ? お前何言って……」


 笑顔を見られたのが恥ずかしかったのかしら?

 私から顔を逸らせたセスの顔がほんのり赤く染まっている。


「セス兄様ったら、赤くなってるわよ」


「バっ、バカか!! んなわけあるか」


 やだ。何だか可愛い。

 いつも怒鳴ってばかりで怖い存在だったセスが、今はとても身近に感じる。眉間に皺ばかり作ってないで、いつもこんな風に可愛いければ素敵なのに。


「あーっ!!」

 突然のセスの大声にビクっとする。


 まさか私の心の声が聞こえちゃったとか? 

 焦る私に、

「おい、引いてる引いてる」

 セスの言葉に釣り竿を見て余計に焦った。


 引いてるー!!


 釣り竿から伝わる振動がなんとも言えない。初めての引かれるような感覚をに緊張感が増していく。引き上げた先に黒い物体を見て思わず悲鳴をあげた。

 

 やった、釣れた釣れた!! しかもこれって、まさかの鰻じゃない?


 針から外れた鰻が池に戻りたいのか、草の上を蛇のように這う。


 逃がしてたまるもんですか!! 私が初めて釣った魚なんだから!!


 がしっと掴むがぬるっと逃げる。それを3度ほど繰り返し、なんとか鰻はバケツにおさまった。


 ふぅっと息をつく私に、

「なんでミミズは触れなくて鰻は触れんだよ?」

 セスがおかしいだろっと言う。


 どこが? おかしいことなんか何もないわ。

「だって鰻はおいしいじゃないですか」


「そんな力いっぱい言わなくても……」


 セスがははっと声を出して笑った。その明るい笑い声に胸が高鳴る。

 やだ。セスってばこんな風に笑うこともできるんだ。


 こうしてると、何だか普通の友達みたいね。

 こんな風に誰かと一緒に何かをして、一緒に笑うというのはとても楽しい。その事を私はこの世界に来て初めて知った。


 再びセスに餌をつけてもらって池に糸を垂らす。一度釣れたからと言って、すぐまた釣れるわけではない。黙ってウキを眺めているのにも飽きてきた。


「そう言えば、何か話があるって言ってましたけど、何だったんですか?」

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