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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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77.疑惑再び

「想像以上にひっでーな。お前の踊りには優雅さのかけらもない」


 そんな言い方しなくても……

 私を貶すセスの言葉に気分がズーンと沈んでしまう。


 今日は家庭教師の来ない日だと知ったセスから、突然ダンスの特訓をしろと命じられてしまった。下手なダンスで俺の尊敬するエドワードに恥をかかすなってことらしい。ついでにラウルまで練習に付き合わされてるし、ただの見物人としてオリヴィアもいるしで朝から賑やかだ。


「そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。少しぎこちないけれど、踊り自体は完璧でしたから」


 ラウルの優しい慰めが複雑だ。練習に付き合ってもらっといて何だけど、私の動きがぎこちなかったのは、半分はラウルのせいなんだから。


「踊れてはいるんだから、後は気持ちの問題でしょ。恥ずかしがって小さく踊ってるから見映えが悪いのよ」


 オリヴィアのダメ出しに、ラウルも同意する。


「そうですね。踊り慣れて余裕が出てくれば、自然と動きも良くなると思いますよ」


「だから相手があなたじゃなければ、もう少しマシな踊りができたはずよ」

 心の中で呟いてみる。


 だいたいラウルみたいな美形とくっついてて、普通でいられるわけがないじゃない。緊張でガチガチになって当然なんだから。貶すより、むしろこの状態で踊りきったことを褒めてほしいくらいだわ。


 と思っていても、もちろん口に出すことなんてできやしない。


「さぁ、もう一度踊ってみましょうか」


 そう言ってくれるラウルに感謝しながら、再びラウルの手をとった。姿勢を正し、ラウルの顔を正面から見つめる。


 あぁ。何度見てもやっぱりラウルは美しい。私のイケメンリストのダントツ一位なのは間違いない。あまりの美しさに、見つめられるだけで腰が砕けそうになる。


 それにしてもラウル達兄妹は皆揃ってかなりの美形だ。しかもそれぞれタイプが異なっているのがおもしろい。


 オリヴィアは可愛らしいと表現するのがしっくりするような美形で、ラウルはただただ美しいとしか言えない中性的な魅力の持ち主だ。


 一方セスは、キリッとした目元が印象的で鋭さを感じさせる。ワイルド系イケメンとでも言おうか、日に焼けた肌に短く切り揃えられた髪の毛がよく似合う。


「おい、何ぼぅっとしてんだよ!!」

 後ろからセスの大声が飛んでくる。

「下手くそなんだからもっと集中しろよな」


「は、はい」


 ダンスの相手であるラウルではなく、見物人のセスに言われるのは多少ムカつくが、たしかにその通りだ。今の私のレベルでは、他の事を考えながら踊る余裕なんてない。


 何曲か踊り終わった頃には、さすがにラウルの近くにいることにも多少は慣れた。そのおかげでステップのぎこちなさもだいぶなくなった。


「アリー、とっても良かったわ」

 踊り終わった私達をオリヴィアが拍手で迎えてくれる。


「本当によかったですよ。動きがとても滑らかになってきましたね」


 オリヴィアとラウルに褒められ、とても誇らしい気分だ。そんな私をセスが苦々しげに見つめている。

 

「けっ。どこがいいんだよ。まだまだじゃねぇか」

 セスの言葉に誇らしい気持ちは一瞬で砕け散った。


「そんな事を言うもんじゃありませんよ。アリーはまだダンスの練習を始めたばかりなんですからね」


 私の事をエドワードの秘密の恋人だと思っているラウルはそう言ってフォローしてくれる。でもねぇ……私はラウルが思っているよりずっとダンスの練習をしているのよ。


 最近は国一番の淑女だと言われるキャロライン様にまで直々に特訓してもらっていたくらいなんだから。それでも未だに初心者感丸出しなのは、私にダンスの才能ってものがないからだろう。


「でもアリーは偉いわよねぇ。エドワードのためにこうやってダンスの特訓してるんだから」


 オリヴィアが胸の前で両手を組み、「愛よねぇ」っとしみじみとした口調で呟いた。


「お前は春喜宴でエドワードと踊るツモらなのかよ?」


「踊るに決まってるでしょ。じゃなきゃ、特訓する意味ないじゃない」

 

 セスの質問に、何故だかオリヴィアが食ってかかるように返事をした。

 

 春喜宴かぁ……

 ウィルとグレースの寄り添う姿が頭に浮かび、胸がチクリと痛んだ。


 ダメダメ、嫌なことは考えない!!

 頭から嫌な映像を振り払うように口を開いた。


「オリヴィア様も春喜宴に出られるんですか?」


「ええ、もちろんよ」

 オリヴィアがパァっと顔を輝かせた。

 

「春喜宴には王族は基本全員集合なの。だから普段は王宮に行くのを禁じられている私には、王都に行ける一年に一度の貴重な機会なのよ。何があっても絶対行くわ」


 オリヴィアの、「王宮に行くのをを禁じられている」という言葉が妙にひっかかる。けれどその言葉の意味を尋ねるより前に、オリヴィアの一言で私の体は硬直してしまった。


「今年は異世界から来たとかいう、ウィルバート兄様の恋人を見れると思って特に楽しみにしてたのにぃ。死んじゃったなんて、残念すぎるわ」


「こら、オリヴィア。そんな言い方は不謹慎ですよ」


 そ、それは……いきなり始まってしまった私についての話題に、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「そんなこと言ってるラウル兄様だって、ウィルバート兄様の恋人に会えるのを楽しみにしてたじゃない」


「あの従兄弟殿が夢中だと聞きましたからね。きっと素晴らしい女性だったんでしょう」


 あぁぁぁ、そんな事はありません。たいしたことない女でごめんなさい。

 私がその女ですと告白することもできず、ただただ話題が早く変わることを願うしかない。


「それにしても、あの真面目くさったウィルバートがロリコンだったなんて笑えるよな」


「ロリコンですって!?」

 話題が変わるまで黙ってやりすごそうと思っていたけど、セスの言葉は聞き捨てならない。


 王宮内だけじゃなく、王都から離れたこんなところまで噂が広まっていたなんて。ルーカスが知ったら怒りで爆発するんじゃないかしら。


「あら? アリーはウィルバート兄様の恋人について何も聞いてないの?」


 オリヴィアに尋ねられて困ってしまう。

 私が本人だと言えない以上、いらないことを言って怪しまれるより、知らないフリをする方がいいだろう。

 

「ええっと……特には……」


「じゃあアリーは、ウィルバート兄様の恋人が異世界から来た幼女だったって話、知らないんだぁ?」


「……」

 うん? 今おかしな言葉が聞こえた気がするんだけど……気のせいよね?


「ごめんなさい、異世界から来た……何とおっしゃいましたか?」

 

「幼女よ、よ・う・じょ」

 オリヴィアがゆっくりした口調で繰り返す。


 あぁ、やっぱり聞き間違いじゃなかったのね。

 あまりのことに言葉が出ない。


 異世界から来たのは事実だけど、幼女って表現はおかしいでしょ。私は17歳よ。女子高生よ。どう考えたって幼女と言うより少女でしょ。なんなら女性とかレディとか言ってもらいたい。


「アリーがびっくりするのも無理ないわ。あのウィルバート兄様が幼女好きだなんて、私だって最初は信じられなかったもの」


 いやー!! 幼女好きとか言うのやめてー!!

 知らない人が聞いたらウィルのイメージ悪くなっちゃうじゃない。


「な、何かの間違いじゃないですか? ウィルバート様が、その、ロリコンだなんて信じられません」


「でも、これは確かな情報よ」

 そう言ったオリヴィアは自信満々だ。


「だって実際にその幼女に仕えている者からの情報なんですもの」


「仕えている者って……」

 まさか彼女のことじゃないでしょうね?

 嫌な予感がする。


「今あなたのお世話係をしているマリベルの娘よ。アナベルっていって、ウィルバート兄様の恋人の侍女をしていたの」


 やっぱり……

 オリヴィアの口から想像通りの名前が出てきてしまった。全くアナベルったらオリヴィア様達に何を吹き込んだのよ!!


 とはいえ、あのアナベルがウィルバートを陥れるためにわざと変な情報を流したとは考えられない。ということは、何か情報が変に伝わったってことだろう。


「えっと……そのアナベルって人はどういう風に言ってたんですか?」


「やっぱりアリーも興味あるわよね」

 オリヴィアがよくぞ聞いてくれましたとばかりに語り始める。


「ウィルバート兄様の恋人のことはね、メイシーおば様からの手紙で知ったの」


 同意を求められたラウルも「そうでしたね」

と頷いた。二人が言うには、ウィルに初めて恋人ができたことを喜んだメイシー様が、オリヴィア達の両親に手紙でそのことを知らせたらしい。


 その手紙には、恋人はアリスという名前で、とても可愛らしい子だということが書かれていたようだ。


 メイシー様ってばそんな手紙を書いてたんだ。

好きな人の母親に、可愛らしい子だと言ってもらえるのは素直に嬉しい。


「でも可愛らしい子ってだけじゃ、つまらないじゃない。どんな子かもっと知りたいし、ウィルバート兄様とのラブラブ話とかも聞かなきゃなんないし。で、アナベルにもっと詳しい情報を送るように頼んで、大量の情報提供ノートが送られてきたってわけ」


 アナベル、あなたって人は……

 頭を抱えたい気分だ。アナベルの情報提供ノートに何が書いてあるのか見たいけれど、見るのが怖い気もする。


「女って本当に人の恋愛事が好きだよな」

 あきれたという顔をしているセスに、「大好物よ!!」っとオリヴィアが言い切った。


 別にそんなことで胸を張らなくても……

 やっぱりオリヴィアとアナベルは気があいそうだ。


 それよりまだ一番肝心な幼女の件についてが終わっていない。


「それでオリヴィア様、そのアナベルって方から届いたノートに、ウィルバート様の恋人は幼女だと書いてあったんですか?」

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