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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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75/117

75.別人として生きるのも悪くない

 おうっ!!

 お腹に激痛を感じて苦痛のあまり身をよじる。


 気持ちよく眠っていた私の目を覚ましたのは、明るいお日様の光でも小鳥のさえずりでもなく、オリヴィアの襲撃だった。


 そう、襲撃……

 この城に来て早2週間、寝ている私のベッドに、っというより私の上にオリヴィアが飛び乗って来たのは何度目だろうか?


「おはようアリー。今日も一緒に朝食をとりましょうよ」


「おはようございます、オリヴィア様。今日も早起きですね」


 飛び乗られたお腹はまだ鈍い痛みを感じるけれど、のんびり痛がってなどいられない。顔をじっくりと見られる前に変装をしなくては。オリヴィアから顔を背けるようにして慌てて眼鏡をかけた。


 最近のオリヴィアは急に部屋を訪ねてくることが多い。しかもノックもないもんだから、寝る時であってもウィッグが外せない。


「すっかりオリヴィア様と仲良くなられましたね。まるで姉妹のようですわ」


 身支度を手伝ってくれるマリベルが私の髪を整えながら、鏡の中の私に向かって微笑んだ。

 いつも以上にその手元が慌ただしいのは、早くしないと隣の部屋で待つオリヴィアがいつ乗り込んでくるか分からないからだ。


 マリベルの言うとおり、何故だかオリヴィアに懐かれちゃったみたいなのよね。まぁ姉妹みたいっていうのはちょっと言い過ぎだけど。そもそもオリヴィアはれっきとした王女様なんだから、私なんかと姉妹扱いなんかしたら失礼だ。


 身支度が済んだら、オリヴィアと一緒の朝食タイムだ。


「うーん、美味しい」

 満面の笑みでパンケーキを頬張るオリヴィアを見ると私まで自然と口元が緩む。


「ねぇアリー、今日はいい天気だし、少し遠出してみましょうよ? お弁当を持って行けばきっと楽しいわ」


「せっかくのお誘いなんですけど……今日は家庭教師の先生来てくださることになっているんです」 


「えぇー! 今日もなの?」

 オリヴィアが不満そうに口を尖らせた。

「ここのところ、アリーはお勉強ばかりでつまらないわ」


 口を尖らせたままのオリヴィアに、一緒に勉強しないかと聞いてみるが、「ぜーったい嫌よ」っと、間髪入れずに首を横に振った。


「お祖母様ってば、すぐ人に勉強させようとするから嫌なのよね。アリーも無理して言うこと聞かなくてもいいのよ」


「私は無理なんてしてないですよ」


 この城にいる間にできるだけ多くのことを学びなさいと、レジーナ様が私のためにわざわざ家庭教師を呼んでくれたのだ。


 勉強は学校で習うような計算や読み書きから始まり、マナーや、国の歴史、ダンス、ファッションまで多岐に渡っている。勉強は特別好きなわけではないけれど、レジーナ様のお心遣いに感謝して、しっかり努力はしたい。


「アリーは偉いわよね。私はこんなだからお祖母様に叱られてばっかりよ」


 はぁっとため息をついたオリヴィアを見て思わず苦笑いしてしまう。確かにこの2週間、オリヴィアが注意されているのを何度目撃したか分からない。


 このオリヴィアという王女は結構なお転婆娘だ。そしてその自由奔放ぶりに、レジーナ様は手を焼いているように見えた。


「全くあなたは何を考えているのですか? 大切な夕食会を抜け出すなんて、あってはならないことですよ」


 この城に来た初日に行われた夕食会後、オリヴィアと二人でレジーナ様に呼び出された。二人して途中退席したことに対するお説教を聞くためだ。


「アリー、申し訳ありませんでしたね。あなたのために催した会でしたのに。この子のせいであんな形で終わってしまうなんて」


「いえ、大丈夫です」


 正直居心地が悪かったから、途中で抜け出せてほっとしていた。でもそんなこと、せっかく私のために夕食会を企画してくれたレジーナ様に言えるはずもない。


「オリヴィア、あなたはもう少し慎みというものを覚えるべきです。まずは思ったことをすぐ口に出すのはおやめなさい」


「無理です。生まれついた家柄しか取り柄のない馬鹿な人間の言うことを笑って聞くだなんて、絶対に嫌です」


 結構ひどいこと言ってるなとは思うけど、はっきりとそう言い切ったオリヴィアは、私の目にはとても輝いて見えた。


「アリー、どうしたの?」


「えっ?」


「なんだか笑ってるように見えたから」

 知らないうちに口元が緩んでいたようだ。


「初めてオリヴィア様がレジーナ様に叱られているのを見た時の事を思い出していたんです」


「あー、あの夕食会の日のことね?」

 つまらないこと思い出さないでとオリヴィアがむくれる。


「あの時のオリヴィア様は確かに慎み深いとは言えませんでしたが、とても素敵でしたよ」


「本当に?」

 疑うような目で私を見るオリヴィアに向かって大きく頷いた。


「はい、本当です。思ったことをはっきり言うのってとっても難しいですよね。レジーナ様にはっきりと自分の意見を述べているオリヴィア様はとってもかっこよかったです」


 まぁ王女としては、はっきり言いすぎるのは問題なのかもしれないけど。でもいつもなんだかんだと流されてばかりの私にとって、オリヴィアのはっきりした物の言い方は憧れだ。


「うふふ」

 オリヴィアが嬉しそうに笑った。


「私、アリーのことだぁい好き」


「あ、ありがとうございます」

 可愛い告白がとても嬉しくて、なんだかとても照れくさい。


 そんなオリヴィアとのんびりした朝を過ごしたら、次は勉強の時間だ。今日はこのアイゼンボルトという国についての勉強ということで、机には大きな地図が広げられている。


「国の中心あたり、こちらが王都になります」

 家庭教師が地図に印をつけていく。


「そして現在アリー様がいらっしゃるのが……ここです」


「わぁ、王都からは結構遠いのね」

 そりゃそうか。この城にたどり着くまでに二回も野宿したくらいだもんね。


「王都に帰れないのはお辛いでしょう?」


 この家庭教師は私がここにいる事情をどう聞いているのだろうか? 食い入るように地図を見つめる私に向けられた瞳はやけに同情的だ。


「レジーナ様やオリヴィア様が大変よくしてくださいますし、先生にもこんな風につきっきりで勉強をみてくださってます。ですから毎日とても楽しいですよ」


 そう答えたのは本心からだ。まさかここでの生活がこんなに充実したものになるなんて、来た時には想像もしてなかった。


 そりゃもちろんアナベルやキャロライン様に会えないのはとっても寂しい。でもウィルと別れたばかりの私にとっては、ちょうどよかったのかもしれない。


 こうやって離れていれば、そのうちウィルの事を好きだった事を忘れられるような気がする。きっと次にウィルに会える時には自然に笑えるはずだ。


「そうですか」


 家庭教師がにっこりと笑った瞬間、バーンと何かが壊れるような大音が響いた。


 な、な、な、何? 爆発?


 爆弾でも投げこまれたのかと思ったけれど、どうやら違うようだ。この大きな音の原因は、ドアが破壊された音らしい。蹴破られたドアが無惨な状態になっている。


 びっくりしたぁ!! 

 びっくりしすぎて悲鳴も出なかったわよ。


 すでに木片となってしまったドアを容赦なく踏みつけながら、男が一人部屋へと入ってくる。このよく分からない異常な状況に頭がついていかない。


 突然の爆音にまだバクバクと音をたてている心臓を落ちつかせるように大きく息を吐き出した。


「お前か? エドワードが連れて来たっていう女は?」


 ただぼんやりと男を見つめながら、何でこの人普通にドアを開けて入って来ないのかしら? なんて事を考えていたけど、これはもしや、やばい状況なのでは!?


 ズカズカと大股で近づいて来る男の視線にただならぬものを感じ、本能が逃げろと警告している。


 あぁ、私ってば何て暢気なこと考えてたんだろ。さっきまでここの暮らしも悪くないとか考えてたけど、今の私にはそんな余裕なんてなかったのに。


 アリー、アリーって呼ばれてるうちに、自分がアリスで、死んだことになってるって忘れるところだった。私を見つめる男の、敵意に満ちた瞳にごくりと唾を飲み込んだ。


 この人は私を殺しに来たのだろうか? 

 アリスがまだ生きていることがバレちゃって、殺し屋が来たのかも……そう思うと恐怖で足が動かない。


「お前がエドワードの女かと聞いている」

 男が剣を抜き、剣先を私に向ける。


 あわわわわ。

 きらりと光る剣先から逃れるように後退りする。


 まだアリスだとバレたかどうかは分からないんだから、エドワードの婚約者のフリはしなくちゃ。そう思うけど恐怖で声なんて出るわけがない。無言でコクコクと頷いた。


 剣を引っ込めることなく、男は私の全身を無遠慮に見つめる。ううっ。これ以上剣を近づけないで!! 緊張で背中に嫌な汗が滲む。


 この城に来て以来、エドワードの身分違いの恋人ってことで好奇心に満ちた視線はいやと言うほど感じてきた。でもこの男の視線はそれとは全く違う。


「セス!? 何してるんですか!」

 壊れたドアからもう一人男が入ってくる。


「女性に剣を向けるなんて、紳士のすることではありませんよ」


「この女が俺の質問に答えねーのが悪いんだよ」


 えっ!? 私のせい?

 私がさっさと答えてたら剣を向けなかったってこと? 私はあなたの剣が怖くて返事が出来なかったのに。


 セスと呼ばれた男が剣が収めるのを確認して、ほぅっと息をついた。


「怖い思いをさせてしまいましたね。大丈夫でしたか?」


「はい、だいじょ……」

 大丈夫ですと答えようとして言葉を失った。

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