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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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71/117

71.いいシナリオだろ?

「エドワード、よく来てくれましたね」


「レジーナ殿下、お久しぶりでございます」


 うやうやしい挨拶をするエドワードは、どこからどう見ても完璧な紳士だ。毎度のことながら、うまく化けるものだと感心してしまう。


「それで、エドワード……そちらが例の……」

 レジーナ殿下と呼ばれた年配女性が私へ視線を向けた。


 エドワードに促され丁寧に挨拶をする。こういう時の挨拶は、キャロラインやルーカスにたたきこまれているので余裕だ。


「そうですか。あなたが……」

 私を確認するようなレジーナ殿下の瞳の鋭さに思わず萎縮してしまう。


 睨まれてるわけじゃないよね? 

 きちんと挨拶できたはずだし、怒らせるようなことは思い当たらない。


 レジーナ殿下は、前アイゼンボルト女王でロバート国王陛下のお母上だとエドワードが説明してくれる。


「アリー、あなたの話は聞いています。本がお好きなんですってね」


「は、はい」

 レジーナ様の威厳ある姿に緊張して声がうわずってしまう。


「私の孫もですよ。読書をするのによく王宮の書庫に一人で閉じこもっていました」


「お孫さんですか……?」


 私の知っている人かしら? ってあれ? ちょっと待ってよ? 一瞬思考が停止する。


 さっきエドワードは、レジーナ殿下はロバート国王陛下のお母上って言ったわよね?


 っと言うことは……

 チラッとエドワードを見ると、やっと気づいたかという感じでにやりと笑った。


 レジーナ殿下の孫ってウィルのことじゃない。

 それならそうと先に言っといてくれればいいのに。


 ウィルのおばあ様だって知ってたら、もう少し第一印象がよくなるように頑張ったのに。っと言っても私の力量ではさっきの挨拶が限界といえなくもないけど……


「ウィルバート殿下ですが、最近はお一人ではなく、恋人と一緒に読書を楽しまれているようですよ」


 胸がツクンと痛んだ。

 エドワードの言う恋人とはグレースの事だろう。最近のウィルはグレースのいる書庫で読書をしてたから。


 それにしてもエドワードは意地悪だ。わざわざ「ウィルバート殿下と恋人の事はアリーも知っているだろう?」っとわざとらしく私に話を振ってくるんだから。


 エドワードは一体私に何と答えさせたいんだろうか? できれば無視したいけど、レジーナ様の前だしそうもいかない。仕方なく作り笑いを浮かべながら、「はい。グレース様の事はお聞きしたことがあります」と答えた。


 私の返事が予想外だったのか、ほんの一瞬、エドワードの顔に「???」が見えた。


「アリー、グレース様というのはカサラング公爵令嬢の事だろうか?」

 そうだと答えた私に向けられるエドワードの表情は微妙だ。


 しまった……私ってばマズイ事言っちゃったかしら? エドワードだけじゃなく、レジーナ様も微妙な様子だし……頭の中はパニック寸前だ。


 そんな私を助けるかのように、甲高い大声と共に突然一人の少女が部屋に飛び込んで来た。


「エドワード!! 待ってたわよ」


 少女は息を切らせながら、エドワードの前……ではなく、私の真正面に立った。


「ふーん……あなたが……」


 文字通りじろじろといった感じで少女が私の顔を観察している。私が異世界からの客人だと知らないはずの少女がなぜこんなにも私に興味を持っているんだろう。これだけあからさまに興味を持たれたら、失礼だと思うよりも戸惑ってしまう。


「人の事をそのように見るなど、はしたないですよ」


 レジーナ様がたしなめるが、少女は私に対する興味を隠そうともしない。レジーナ様がはぁっとため息をついた。


「オリヴィア、あなたは少し幼すぎです。もう15にもなるのですから。もう少ししっかりしないといけませんよ」


「はいはい、分かってますってば」


 レジーナ殿下の厳しい口調に私まで背筋が伸びそうな気がするが、当の少女にはさほど響いていないようだ。

 

 オリヴィアと呼ばれた少女はレジーナ様の娘の子、つまり孫なのだと紹介された。ということは、ウィルとはいとこ同士ということか。


 なるほど。やっぱりオリヴィアもウィルバートに負けず劣らずの美形だ。腰まである緩やかにウェーブした髪の毛はウィルと同じ金色で、私を観察している大きな瞳は宝石のように美しいスミレ色をしている。


「オリヴィア様、このように見つめられてはアリーも戸惑ってしまいますよ」

 エドワードに言われて、やっとの事でオリヴィアの視線が私から外れた。


「だぁって、仕方ないじゃない。あなたが秘密の婚約者を連れて来るの、とっても楽しみにしていたんだから」

 

 婚約者ですって!?

 楽しそうに笑うオリヴィアの言葉に、今度は私の興味が駆り立てられる。


 エドワード様ってば婚約者がいたの? 


 エドワードの選ぶ女性だからきっとめちゃくちゃ美人だろうな。その女性もエドワードの紳士の仮面に騙されてるのだろうか。興味深々でキョロキョロっと辺りを見まわすが、それらしい女性はいない。


 突然エドワードが私を引き寄せた。急にひっぱられるような形になったので足元がふらついて、エドワードの胸によりかかってしまう。


 私が心の中で「きゃー!!」っと叫び声をあげた瞬間、後ろからきゃーっという悲鳴がひびいた。


 びっくりしたぁ。私の心の声が漏れちゃったのかと思ったわ。


 声の主はどうやらメイドのようだ。見ると入り口あたりはエドワードを見たくて集まったメイド達でぎっしりだ。


「全く騒がしいこと」

 レジーナ様がふぅっとため息をついた。


「エドワードが来るとメイド達が浮ついて仕方がないわ」


「申し訳ありません」


 謝罪を口にしたエドワードは、全く悪いと思っていないような顔をしてにっこり笑った。


 ちょっとちょっとエドワード様ってば。婚約者がいるなら、私とこんなにくっついたらマズイんじゃないの?


 ぴったりとくっついた状態から慌てて逃げ出そうとするが、エドワードに肩をしっかりと抱かれていて抜け出せない。


 ちょっと、エドワード様ってば!!悪ふざけがすぎますよ!!

 離してくれと目で訴える私を無視してエドワードは口を開いた。

 

「残念ながらわたしとアリーはまだ婚約したわけではありません。ね、アリー?」


「はい??」


 当たり前じゃない。エドワード様と私が婚約なんてあり得るわけが……


 まさかっ!!


 エドワードのニンマリとした笑顔に嫌な予感がする。まさかと思うけど、その婚約者って私の事なの!?

 

「身分違いだからデンバー公爵に結婚を反対されてるんでしょ? んー、ドラマチック!!」


 妙にうっとりしているオリヴィアが、「私はあなた達の味方だから。二人の恋がうまくいくよう応援しちゃう」っと私の手を握る。


 ドラマチックなんかじゃないし、応援なんていらないから!! 


 なんて事は当然言えない。なんてったって、「オリヴィア様に応援してもらえるなんて、心強いねぇ」と優しい口調で微笑みながら、エドワードが絶対にいらない事をいうなよって瞳で見てるんだもの。


 私が口をつぐむのを確認し、エドワードはつらつらとレジーナへと私の事を頼み始めた。


「仕方ありませんね。他ならぬエドワードの頼みですから、なんとかしましょう」 

 そう言うと、レジーナ様は私に向け一段と鋭い視線をなげかけた。


「あなたがこの城に滞在する間、良家の令嬢らしい振る舞いを身につけなさい。そうすればわたくしがあなたとエドワードの結婚の手助けをいたします。よろしいですね」


「えっ、あ、でも……」


 何がなんだか分からなくてうまく答えられない私の横で、「殿下のお心遣いにアリーは声も出ないほど感激してております」っと、エドワードは紳士らしく気品溢れるお辞儀をした。



☆ ☆ ☆



「どうして私とエドワード様が婚約って話になってるんですか?」


 ゆっくり休むようにと通された部屋で二人きりになるなりエドワードに詰めよる。私の怒りをよそに、エドワードはなぜか自信満々の笑みを浮かべている。


「私はエドワード様の恋人だと思われるなんて、絶対嫌ですからね」


 この城に入ってからやけに視線を感じるなとは思っていたけど……まさかそれが、エドワードの恋人だと思われていたからなんて思いもしなかった。


 性格はさておき、エドワードの容姿は文句の一つも言えないほどに完璧だ。そんな最高レベルのイケメンが私のような凡人を恋人として連れて来たら、皆がジロジロ見たくなる気持ちも分からなくもない。


「お前なぁ……この設定以外に俺がお前をここに連れて来るシナリオが思いつくのかよ」


 エドワードの言う設定とは、私とエドワードが恋人同士で結婚を望んでいるが、私の身分が低いためエドワードの両親から反対されているというものだ。


 エドワードの両親を説得するために、私はレジーナ様の元で修行をつみ立派なレディになる。そして最終的にはレジーナ様の口添えもあり、エドワードの両親に認められる。そのために私はここに連れてこられたというシナリオらしいのだが……


 いい案だなんて絶対に絶対に認めたくない。

 でも確かにこのシナリオだと、町娘の振りをした私が怪しまれずにこの城に滞在できるのは事実だ。


「なっ、思いつかなかっただろ?」


 くー、悔しい!! 

 勝ち誇ったようなエドワードに返す言葉が見つからない。


「でもそれならそうと始めから言っておいてくれればいいじゃないですか」


 エドワードの恋人ということになっていると知っていればここまで慌てたりしなかった。興味本位の視線にも、それなりに対応できたはずだ。


「それじゃつまらないだろ?」 


 エドワードが思い出したように、ははっと声を出して笑った。

「あの時のお前のポカンとした顔。口をパクパクしてまるで鯉みたいだったな」


 や、やっぱりこの人最低だ。いいのは顔とスタイルだけで、性格は絶対ひん曲がってる!!

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