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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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70/117

70.私が死んだ!?

「へっ?」


 思いもよらない言葉に間抜けな声で返事をしてしまった。


「えーっと……死んだ事って、どういうことでしょう?」


 私が生きていることが知られたら、カーティスが公爵を裏切りエドワードと手を組んだことがばれてしまう。それでは公爵を処罰するための証拠固めができない。それに下手をしたら公爵ではなく、逆に私が賊に指示したという濡れ衣を着せられたまま処罰されてしまう可能性もある。だから今は私は死んだことにしておくのが一番いいらしい。そう説明されて、素直に頷くしかなかった。


「でも死んだことにって、具体的にはどうすればいいんですか?」 


「お前にはしばらく変装して、王都から離れた場所で生活してもらう」


 どこにカサラング家と繋がっている者がいるか分からない。この黒髪ではすぐに私がアリスだとばれてしまうからと言って、エドワードがカバンから取り出したのはウィッグだった。


 焚き火のゆらゆら揺れる炎でははっきりとは分かりにくいが、赤っぽい毛の色をしているように見える。


「その服でこの髪なら、どこからどう見ても普通の町娘だ。誰もお前がウィルバート殿下の恋人だとは思うまい」


「町娘ですか?」

 自分の着ているものを確認して首を傾げた。


 あれ? 私こんな服着てたっけ?


 たしか馬車に乗る前は刺繍の多いドレスを着ていた気がするんだけど……

 いつの間にかシンプルなワンピースに変わっている。これなら確かに普通の町娘って感じだ。


「あんな目立つドレスじゃ、ひっそり移動も出来ないからな」


 エドワードの言う通り、結構きらびやかで目をひくドレスだった。私の趣味ではなかったけれど、敵地に乗り込むのだから気張らなくてはと、アナベルに無理矢理着せられたのだ。


「あのドレスは今頃カサラング公爵への手土産になってるはずだ」


「な、なんで私のドレスを手土産なんかにするんですか!?」


 見たことのないカサラング公爵が、私の脱いだ服の匂いを嗅いでいる所を想像してゾワっとする。


「あのドレスを血で汚して見せれば、お前が死んだと口で言うだけよりはるかに信憑性があるだろう」


 あっ、そういう事ね。公爵に変な使い方をされなくて安心すると同時に、言われてみれば確かにそうだと納得する。

 

 いくら私が死んだって言っても公爵が信じなかったら意味がない。さすが騎士団長だけあって、行動に無駄がない。


 そっか、それで私のこと着替えさせたのね。

 ん? 着替えさせた? って一体誰が?


「まさかとは思いますが……エドワード様がドレスを脱がせた……なんてことはないですよね?」


 まさかねっと思いながら尋ねたのに、「俺以外に誰がいるんだ?」っと、まさかの自分がやった宣言を受けてしまった。


 ちょっと待ってー!!

 それじゃあエドワード様に下着を見られちゃったってことじゃない。ひどい、そんなことってある!?


 ショックでクラクラと気が遠くなる私にエドワードが追い討ちをかける。


「何を気にしているのか知らないが、あんな色気のない下着姿じゃ誰も欲情なんてしないぞ」


「色気のない下着で悪かったですね」


 仕方ないじゃない。

 今着ているのはドレス用の補正下着なんだもん。無理やりよせてあげてしめて……ってしてるんだから、色気を出すなんて不可能よ。


 別にエドワードに欲情して欲しいわけではないし、欲情されても困るけれど、下着姿を見ても何も感じないと言われるのは複雑な気分だ。


 もういい、下着姿を見られたことなんて早く忘れちゃおう。エドワードの頭からも私の下着姿を追い出したくて急いで話題を変えた。


「私は町娘のふりをすればいいんですか?」


「いや、それについては目的地に着いてから説明しよう」


 今日はもう遅いから休むよう言われ、焚き火の側に横たわる。


 これが世に言う野宿か。うん、これは絶対眠れない自信がある。虫はたくさんいるし、焚き火だけじゃ肌寒いし……


 眠る気にもなれず、ただぼんやりと空を眺めていた。満天の星ってきっとこういうことをいうんだろう。私の上には見たこともないほど美しい星空が広がっている。


「眠れないのか?」


 どれくらい時間がたったのか……

 薪を足しているエドワードの声に体を起こした。硬い地面に横たわっていたので背骨が痛い。エドワードの放り投げた小枝で焚き火が勢いを取り戻した。


「エドワード様……あの……ウィルバート様も私が死んだと思ってるんですか?」


「ああ、そうだ」

 エドワードが静かに答えた。


 敵を欺くにはまず味方からということで、ウィルだけでなくアナベルやキャロラインなど、私の近しい人には今回の計画について何も知らせていないらしい。


 計画の内容、すなわち私が生きていることを知っているのはエドワード達王立騎士団の上層部と国王陛下など限られた者だけだ。


 きっと皆心配してるわよね。


 計画の全容を知らせるのは無理でも、せめて私が生きていることだけでもウィルに伝えたい。そう思っても、少しのリスクも犯せない今、残念だけど私の願いは受け入れてもらえそうもなかった。


「できるだけ早く解決して王宮に戻れるようにしてやるから心配するな」


 膝を抱えて座る私の横に座り、エドワードが私の頭をポンポンっと軽く叩いた。

 思いがけないその優しさに涙が込み上げてくる。堪えきれずあふれ出た涙を見られたくなくて、抱えていた膝で顔を隠した。


 そんな私の頭をエドワードの大きな手が優しく撫でる。


「大丈夫だ。お前のことは絶対に守るから、俺を信じろ」

 エドワードに顔を隠したまま私は小さく頷いた。



☆ ☆ ☆



「さぁ、着いたぞ」


 閉ざされた門の前でエドワードが馬からひらりと飛び降りた。エドワードの手を借りながら、私も馬から降りる。


 2日ほど野宿をしてたどり着いたのは、小高い丘の上にある大きな城だった。

 お城とは言っても、ウィル達のいる王宮とはずいぶん雰囲気が違う。王宮はテーマパークにでもありそうなほど美しい城だが、ここはまるで要塞のようだ。いかつい外壁は歴史的建造物のような雰囲気を醸し出している。


 これから私の変装生活が始まるのね……


 エドワードからは、しばらく素性を隠してこの城で生活するようにと言われている。

 目立つ黒髪はウィッグで隠し、黒に近い濃い茶色の瞳も特殊なメガネで色を変えている。この変装に関しては、前にアーノルドと初めて街に出た時と同じなのでさほど抵抗はなかった。


 今回の髪の毛の色は赤で、瞳はエメラルドグリーンだ。私としてはスミレ色の瞳がよかったのだが、赤毛には合わないからとエドワードに却下されてしまった。


 と、ここまではよかったのだが、今回の変装で今でも納得できていないことがある。それは眉毛だ。


 前回の変装では、アナベルが化粧で黒眉を消してくれたのに、今回は容赦なく全て剃り落とされてしまった。


 まぁ変装生活がどのくらいになるのか分からないし、どうせしばらくたてば生えてくるんだし、黒眉から私の素性がバレるのをさけるには剃り落とした方がいいのかもしれない。


 でも、でもでもでも、完全に剃り落としちゃうなら事前に許可くらいとって欲しかったわ。そうすれば、存在感のある眉毛にお別れを言えたのに。勝手に剃り落とすのは酷すぎる。


 エドワードに抗議すると、「本当は全部抜くつもりだったのを、剃るだけにしてやったんだからガタガタ言うな」と言われてしまったので、もう何も言えなかった。エドワードが私の顔に赤茶色の眉毛を描き終えるまで、ただ黙ってじっとするしかない。


 とりあえず私の顔の特徴的な部分はこれで全て隠された。服も靴も庶民の物に変え、今の私はどこから見ても普通の町娘だ。名前もアリスではなく、アリーと名乗ることになっている。


 私がアリスで今どういう状況にあるのか等、エドワードの計画を知っているのは城の主人だけらしい。


「ここはどなたのお城なんですか?」


 ここに来るまでに似たような質問を何度しただろう。けれどエドワードが私に教えてくれたのは、目的地が城であることだけだった。ここがどのような城で、誰が住んでいるのかは未だ知らないままだ。


 頑丈そうな門がゆっくりと開いていく。

「エドワード様、お待ちしておりました」

 中から現れた衛兵がエドワードに中へ入るよう促した。中にはびしっと整列した衛兵達が見える。


 エドワードから、「連れて歩くのに恥ずかしくないよう、きちんとした町娘らしく振る舞え」っと、耳にタコができるほど言われている。


 そうは言われても、そもそも町娘らしい振る舞いとはどんなものだろう?

 さっぱり分からないけれど、さっきからチラチラとこちらを見てはヒソヒソ話をしている衛兵達のだだならぬ様子に、緊張で自然と背筋が伸びる。


 それにしても、城門から居住エリアまでってどうしてこんなに遠いのかしら。長い道のりを衛兵とエドワードの二人に遅れないよう頑張ってついていく。城門の中も華やかな王宮とは違い、全体的にどっしりとした重厚感がある作りだ。


 居住エリアの入り口を入ると、目を見張るほどきらびやかな空間が広がっていた。広い廊下には絵画や陶器などが飾られ、高い天井からは大きなシャンデリアがいくつも垂れ下がっている。要塞のようないかつい外壁からは想像もつかないくらい豪華な内装だ。


 使用人も多くいるようで、出迎えのメイド達の数も多い。やはりここでもエドワードは人気なのか、メイド達が少しばかり浮ついているようにも見えた。


 長い廊下を進み、たどり着いた先で私達を迎えてくれたのは年配の女性だった。

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