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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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66.ウィルバート、襲撃される

 まるでわたしの心の中を表しているようだ。

 そんな事を考えながら、ぼんやりと窓の外を眺める。窓にうちつける雨は激しく、ただでさえ暗い気持ちがより一層沈んでいく。


「ひどい雨になりましたね」

 そう言ってグレースが窓に目を向けた。


「そうだね……この調子なら晩餐会に遅れてしまうかもしれない」


「わたくしは嬉しいです。ウィルバート様と少しでも長く、二人きりでいたいですから」


 恥ずかしそうに頬を染めるグレースに何と返事をするべきか分からず、ただ静かに微笑んでみせた。


「わたしは君といるのは苦痛でしかない」と、はっきり言えたら楽だろうな。


 余計な事を口走らないよう、再び意識を窓の外に飛ばした。わたしとグレースをのせた馬車は激しい雨の中を進んでいく。雨で道がぬかるんでいるせいで、なかなか馬車のスピードはあがらない。


 アリス発見の知らせを受けてデンバー邸を訪ねたのはついさっきのことだ。取り急ぎアリスの無事を確認し、アリスを傷つけた事に対する謝罪のみすませてきた。


 本当ならアリスの側にいたかったがそうもいかず、こうしてグレースと共にカサラング邸へと向かっている。


 カサラング邸か……訪れるのは初めてだな。

 見栄っ張りな公爵が金に糸目を付けずに建てたという屋敷は、王宮に負けず劣らず豪華絢爛であるという噂は聞いている。今夜はその屋敷で行われる晩餐会に出席する予定なのだ。


 本来ならこのように面倒な晩餐会など出席したくはないが仕方ない。どうしても公爵に会わざるを得ないのだから。グレースは公爵が認めればパートナーを辞退しても良いと言った。ならば公爵を説き伏せるしかない。今夜の晩餐会でなんとか説得してみせる。


 それにしても、この狭い空間でグレースにただ見つめられているというのも息が詰まる。なにか話題はないものか……


「そういえば、書庫の改装ではお世話になりましたね。グレース嬢のおかげで素晴らしいものができたと父は喜んでいましたよ」


「ありがとうございます。無事にお披露目がすみ、ほっといたしました。国王夫妻も毎日のようにいらしてくださいますので、是非ウィルバート様もいらしてくださいませ」


「そうですね」

 愛想笑いをしながら、「君がいない時に行かせてもらうよ」と、心の中でつけ加えた。


 どうせお披露目をするならアリスがいる時にしてくれればよかったのに。新しい書庫を二人で見て回るつもりが、まさかアリスが不在だなんて予定外……!!


 なんだ!?


 突然の大きな揺れに慌てて顔をあげる。どうやら馬車が急停止したらしい。

 ぬかるみにはまって動けなくなったのだろうか? 窓から外の様子を伺うが、相変わらずの激しい雨で外の様子はよく分からない。


 まぁ心配しなくてもそのうち動き出すだろう。

 雨によるぬかるみで馬車が動かないのはよくあることだ。さほど気にすることもない。


 っと、どんっと何かが激しくぶつかったような音がして馬車が横に揺れた。グレースがキャッと小さな悲鳴をあげる。


「ウィルバート様……」


 不安気な顔を見せるグレースに、静かにするよう指示して全ての意識を外へと集中させる。


 激しい雨の音に混じり、わーわーと大声が聞こえる。バチャバチャとぬかるみの中を走る足音からすると、この馬車は取り囲まれているのかもしれない。


「大丈夫ですよ」


 ここでパニックをおこされたら厄介だ。

 グレースを安心させるよう微笑むと、ドアから離れた席に座らせた。


 盗賊だろうか? 

 狙いが王太子であるわたしなのか、ただの金品強奪なのかが分からない以上下手に動けない。


 一応いつでも敵を迎え撃てるよう準備はしておくが、おそらくわたしの出番はないだろう。わたしの護衛として同行しているアーノルド達は若いが腕のたつ者ばかりだ。


 5分くらいたっただろうか、再びガタンと大きな音がした。


 誰か来る! 誰だ?


 馬車の扉に手をかける人の気配を感じ、グレースの息遣いが荒くなる。だが恐怖で真っ青な顔をしてうずくまるグレースを励ます余裕はなかった。


 いつでも来い。

 剣を手にドアが開くのを待つ。


「ウィルバート、大丈夫か?」

 飛び込んできたアーノルドの声に一瞬で緊張が緩むのを感じた。


「ああ、大丈夫だ」


 全く……やっぱり今日はろくな日じゃないな。剣をおさめながら、大きくため息をついた。



☆ ☆ ☆



「ようこそいらっしゃいました」


 わたし達の到着を喜んだカサラング公爵だったが、道中襲われたことを聞いた途端、「こんな大切な日に、なんてことだ」と怒りを露わにした。


 もちろん晩餐会も中止だ。

 与えられた部屋で濡れた体を乾かし、しばし休息をとる。


 さすが金をかけたと言われる屋敷だけあって、内装も家具も見るからに高級品が使われている。

 カサラング公爵自身も身につけているものは、どうしたんだと思うほど派手なものだ。決して真似はしたくないファッションだが、何故だか公爵にはそれがよく似合っているから不思議だ。


「殿下、この度はとんだことになりましたな」

 私が落ちつくのを待ち、カサラング公爵が部屋まで挨拶にきた。


「本当に酷い目にあいました。グレース嬢の様子はどうですか?」


「はぁ……娘はまだ恐怖から抜け出せないようで伏せっております。全く、賊の奴らめ!! 今取り調べをしておりますので、何が目的で殿下を襲ったのかすぐに明らかになるでしょう」


 カサラング公爵はそう言うと、自らも取り調べに立ち合うと鼻息を荒くして部屋を出て行った。


 わたし達に襲撃をかけた賊はアーノルド達によって無事に制圧された。捕らえた者達は王宮へと移送してもよかったのだが、あいにくの大雨だ。


とりあえず王宮よりも近いカサラング公爵の屋敷に連行し、今は地下に閉じ込めている。まぁ取り調べにはアーノルド達も立ちあっているし、カサラング公爵の言うように、賊の目的もすぐに判明するだろう。


 窓の外は相変わらず激しい雨が降り続いている。


「本当にとんだことになりましたね。殿下がご無事で何よりでした」


 ルーカスは頭はキレるが、武道に関してはからっきしの男だ。わたしより前方の馬車に乗っていたが、賊に囲まれて怖い思いをしたに違いない。いつもは涼しげな顔に、疲労の色が滲んでいる。


「悔しいけれど、ルーカスの言う通りだったね。山賊に襲われても愛は深まらない事が、今回の件でよく分かったよ」


「一体何の話ですか?」

 ルーカスが首を傾げる。


「ほら、前に話したことがあっただろう? アリスと二人で山賊に襲われれば、アリスがわたしをより好きになるのではないかという話だよ」


「確かにそういう話をされていたこともありましたね」


 山賊に襲われるドキドキをわたしに対しての恋心から起こるものだと勘違いさせる、所謂恋の吊橋理論を活用したかったのだ。わたしは剣にもそれなりの自信がある。山賊を倒すわたしの勇姿を見せれば、アリスがときめくのではないかとも思っていた。


 ルーカスやアーノルドに馬鹿げた計画だと言われて実行にはうつしてないが、それでよかったのかもしれない。


 わたしは立場上襲撃される可能性があることを事を理解して生きているが、一緒にいたグレース嬢にとっては想定外の出来事だったのだろう。ひどく怯えた様子だった。今も伏せっているというくらいだから、相当な恐怖体験だったに違いない。


 アリスにそのような恐怖を与えなくてよかった。わたしを好きになるどころか、あまりの怖さに元の世界に戻りたいなんて思われたらたまらない。


「殿下、恋愛に夢中になるのは構いませんが、今はご自分が襲われたことについてのみお考えください」


 ルーカスはそう言うけれど、何の情報もない賊について何を考えろというんだ。


「賊についてはカサラング公爵の様子からして、すぐケリがつくだろう。取調べにはアーノルドも参加してるわけだし、わたしがここで悩む必要はないじゃないか」


「殿下は誰がご自分を狙ったのか興味がないんですか?」 


「無事に制圧できたんだから誰でもいいじゃないか。わたしはアリスに会いに帰りたいのを我慢してるんだよ。だからアリスのことを考えることまで禁止されたくはないね」 


 晩餐会もなくなったんだし、帰れるならさっさと王宮に帰りたい。それでもわたしがここにいるのは、賊についてまだ分からないことが多いからだ。


 もしまだ賊の残りがいてわたしが狙われるならば、護衛であるアーノルド達も危険にさらされてしまう。おとなしくこの部屋にいるのだから、頭の中くらいは自由にさせてもらいたい。


「そうですか。それで、アリス様は殿下の計画通りヤキモチをやいておいででしたか?」

 何が気に入らないのか、ルーカスの口調にとげがあるのを感じる。


「それは……」


 嫌な質問をする男だ。グレースを当て馬にしたことでアリスが嫉妬をしていたかというと、正直判断に困る。アリスの様子からしてまるっきり気にしていないわけではないが、悔しくて仕方ないという感じでもなかった。


 どちらかと言うと嫉妬というより、傷ついていると言った方がいいような、悲しみに満ちた瞳をしていた。


 アリスにあんな顔をさせてしまうなんて……わたしは何てひどい男なのだろう。アリスは無理して笑っていたけれど、どれだけ謝っても謝りきれない。


 あぁ……アリスに触れたくてたまらない。


 久しぶりに抱きしめたアリスの感触を思い出すだけで幸福を感じる事ができる。アリスに愛を告げ、その可愛い唇にキスをしたい。アリスを抱きしめながら何度そう思ったことか。けれどアリスの唇に触れてしまえば、もうアリスを離せなくなってしまう。重要な晩餐会を控えているのにそれはマズイ。今日は我慢したのだ。明日は思う存分アリスに私の愛をぶつけなくては。

 

 アリスとの幸せな明日を妄想するだけで、顔が緩みっぱなしになってしまう。


 そんなまったりとした時だった。

 アーノルドがドアを蹴破らんばかりの勢いで部屋に飛び込んできた。バーンというドアの跳ね返る音によって、わたしの妄想は一瞬で吹き飛ばされてしまった。

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