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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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55.嬉しい訪問者

「アリス様、キャロライン様がいらっしゃいましたよ」


 アナベルが満面の笑みでキャロラインを部屋に招き入れた。最近は鬱々としている私のために、わざとおちゃらけるように明るく過ごしていたアナベルが、心から楽しそうな表情をしている。


「アリス様、突然お邪魔して申し訳ありません」

 キャロラインが約束もなしに訪問したことに頭を下げた。


 いやいや、謝るのは私の方だ。私はキャロラインが泊まりに来るという約束をキャンセルしてしまったんだもの。もちろんおわびの手紙は送ったけれど、夜会のお礼もまだ言えてないままだ。


「仕方ありませんわ。お風邪だったんですもの。今日はアリス様にお会いできて本当に嬉しいです」


 キャロラインは私が体調を崩したせいでキャンセルになってしまったお泊まり会を、なんとしても開きたいと思っていたらしい。ウィルバートには何度もお願いの手紙を書いたのだとキャロラインは笑った。


「そうだったんですか? ごめんなさい。私全く知らなくて……」


 キャロラインがゆっくりと首を横に振った。


「アリス様のせいではありませんわ。ウィルバート様が悪いんですもの。アリス様のことが大好きだからって、束縛しすぎですわ」


 だから今日もウィルに邪魔されぬよう、ウィルが学園に行って王宮にいないであろう時間に突撃訪問したのだとキャロラインは笑った。


「そんな……束縛なんてされてませんよ」


 キャロラインは間違っている。だってウィルが私を束縛したことなんて、今まで一度もないんだもの。どちらかというと自由すぎるぐらい自由に過ごさせてもらっている私の生活に、束縛のソの字もなかった。


 それに今は束縛どころか、寂しいくらいにほったらかしだし……


「あら? アリス様お顔が曇ってらっしゃいますが、どうかなさいましたか?」

 

 私のいじけた気持ちが顔にまで溢れ出してしまったのだろうか? 私としては浮かない顔をしてるつもりは全くなかったが、キャロラインは心配そうに私の様子を伺っている。


「なんでもありません」と無理やり笑顔を作った私の事を心配そうに見ていたキャロラインが、「そうそう、アリス様と一緒に食べようとお菓子をたくさん持って来たんですよ」っと微笑んだ。


 その声を合図に、キャロラインの侍女が持っていた大きなバスケットをアナベルに手渡した。すぐさまお茶の用意が整えられる。


「さぁアリス様、たくさん召し上がって、元気を出してくださいませ」


 お菓子で元気づけようなんて子供じゃないんだからっとは思いつつも、キャロラインの心遣いはとてもありがたかった。テーブルの上には私の大好きなフロランタンが山盛りになっているのが見える。


 あぁ、なんて美味しそうなの。


 早速一枚手にとり、パクリ。んー、美味しい。

 甘さ控えめで香ばしくて、とてもおいしい。特に硬さが最高だ。土台もボリボリしているし、アーモンドの部分が分厚くてこれまた歯応えがいい。これじゃあ手がとまらなくなっちゃいそう。


 フロランタンに夢中になっている私の向かいでは、キャロラインがアナベルと顔を見合わせて笑っている。私を見て嬉しそうな顔をしているアナベルを見ると、最近落ち込んで心配かけてしまったことを申し訳なく思ってしまう。


 キャロラインが優雅な手つきでカップを持ち上げ、紅茶の香りを楽しんでいる。

 やっぱり綺麗だなぁ……ゆっくりとカップに口をつけるキャロラインに見惚れていると、キャロラインが私に向かってにっこり微笑んだ。


「そろそろアリス様の元気がない理由をお話ししてくださいますか?」


「それは……」


 元気がない事はバレてしまって隠せないにしても、理由までは言いたくない。だってどうやって誤魔化しながら話しても、結局グレースに対する愚痴になってしまいそうだから。愚痴なんかを話してキャロラインに嫌われてしまったら、今よりもっと落ち込んでしまうだろう。


「そうですか……残念です」

 言いたがらない私にキャロラインが寂しそうな顔を見せた。


「わたくしはアリス様の事を仲の良いお友達だと思っておりましたのに。アリス様にとっては悩みを話せる程の間柄でもないのですね」


 あわわわわ。そんな事を言われたら話さなきゃいけなくなるじゃないの。

 キャロラインの、白いレースハンカチを目元に当てる仕草を見て焦ってしまう。


 仕方なく最近の私とウィル、そしてグレースの話をする。できるだけ愚痴にならないよう、グレースの悪口にならないように注意だ。


「グレース様が王宮で生活を始められてから、毎日一緒に食事をしているんですが……」


「えぇっ!?」

 まだ話し始めたばかりなのに、キャロラインが突然驚きの声をあげた。


「グレース様は、毎日アリス様と一緒にお食事をされてるんですか?」

 いつもより大きいキャロラインの声に、私も驚いてしまう。


 キャロラインはグレースが書庫の改装に関わっていることや、王宮で生活している事については聞いていたらしい。けれど私と会っているとは思っていなかったようだ。


「わたくしはアリス様になかなかお会いできないのに、グレース様はアリス様と毎日お食事できるだなんて不公平ですわ!!」


「不公平ですか?」


 キャロラインもグレースも公爵家の産まれで年も近い。なのになぜキャロラインは私になかなか会えなくて、グレースは毎日私と食事までできるのか? キャロラインは「これは不公平以外の何物でもない」と力一杯頷いた。


「この件については、ウィルバート様に抗議を申し入れさせていただきます」


 キャロラインの力強い言葉にふっと口元が緩んだ。そんなにも私に会いたいと思ってくれる気持ちがとても嬉しい。


「あら、ごめんなさい。わたくしったらつい興奮してお話を遮ってしまいましたね」


 照れ臭そうな顔をしたキャロラインは小さな少女のようで可愛らしい。


 気を取り直して続きを話そうとした時、ドアをノックする音が聞こえた。その音に一瞬キャロラインの顔がピクッと動く。 


 私達の位置からはドアの様子が見えないのではっきりとは分からないが、訪ねて来たのは声からして女性のようだ。


「お邪魔虫殿下がいらっしゃったのかと思って焦ってしまいましたわ」

 安心したように笑うキャロラインを見て思わず苦笑してしまう。


 ウィルが来たかと思って顔をひくつかせるなんて、やっぱりキャロラインはウィルのこと、あんまり好きではないようだ。


 私達の元に戻って来たアナベルは明らかに浮かない顔をしている。どうやら訪ねて来たのはグレースの侍女で、キャロラインが来ている事を聞いたグレースからのお茶の誘いがあったらしい。


 返事を待つ侍女に「喜んで伺いますわ」と伝えたキャロラインの瞳は輝いている。てっきり誘いに喜んでいるのかと思ったが、そうではないらしい。


「わたくしにアリス様と仲良くしているところを見せつけたいのでしょうが、そうはいきませんわ」 


 私が中途半端に話をしたせいで、キャロラインは私とグレースが仲良しだと誤解してしまったようだ。「わたくしの方がアリス様の親友に相応しいことを証明いたしますわ」とグレースとの対面に闘志を燃やしている。


 グレースに会う前にキャロラインの誤解を解かなくちゃっと思いながらも、部屋の中でグレースの侍女が待っているので落ちついて話すこともできない。結局何の話もできないままグレースの元へ行くことになってしまった。


 グレースが待っていたのは庭園の中にある西洋風の白い東屋だった。そこには白いテーブル、白い椅子、白いレースのテーブルかけと、全て白で統一された茶会の席が準備されていた。庭園の緑に白が映えてとても綺麗だ。


「お招きいただきありがとうございます」

 笑顔で迎えるグレースに、キャロラインが隙を感じさせない完璧な笑顔を返した。


「キャロライン様がいらっしゃると分かっていましたらもっと準備をしてお迎えできましたのに……慌てて準備いたしましたので、至らない点がありましたら申し訳ありません」


「至らないだなんて。この様に素敵な場に呼んでいただけるだけでも光栄ですわ」


 高貴な令嬢の挨拶というのは見ているだけで肩が凝りそうだ。長いし変な緊張感がある。もちろん私は口を挟むなんてできないので、二人のやりとりを横で大人しく聞いている。


「でもアリス様、キャロライン様がおいでですのに、私室にお通しするだなんて手抜きじゃありませんか?」


 いきなりのグレースからの攻撃に「すいません」と頭を下げる。別に悪かったとは思ってなどいなかったが、それ以外の言葉が口から出てこなかったのだ。


「王宮にはこの庭園やテラスなど、キャロライン様をお通しするのに相応しい場所がたくさんあるじゃありませんか。どうしてご利用されませんの?」


「それは……」


 他の場所なんて思いつきもしなかったなんて言ったらまた馬鹿にされちゃうだろうな。グレースに不愉快な事を言われるのにもだいぶ慣れたせいか頭の中は冷静だ。でも何を言ってもまた言い返されると思うと、口を開くのも憂鬱に感じてしまう。


「わたくしは国王陛下より庭園を自由に使用して良い許可をもらって以来、たびたびこちらで茶会を催してますわ。アリス様ももちろん陛下より許可されていますわよね?」


 なぁんだ。結局それが言いたかったのね。

 キャロラインを私の部屋に通したことが気に入らなくて絡んでくるのかと思ったが違ったようだ。グレースは単に自分が庭園利用を許可されていることを私に自慢したかっただけなのだ。それなら話は早い。

 

「私は許可を受けてませんので、グレース様がお招きしてくださって助かりました」


 にっこり笑ってお礼を言うと、グレースは満足したような顔でカップに口をつけた。

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