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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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54.寂しさを感じて

 翌朝気分一新で目覚めた私は、より暗い感情を抱え込むはめになる。一緒に朝食をとっていたウィルが、今日からグレースも王宮で暮らすことになったと言い出したからだ。


 昨夜グレースを送り届けたウィルに、グレースの父親から「グレースがあまりにも書庫の作業に夢中なので、書庫が完成するまでの間だけでも王宮に滞在させてほしい」と申し出があったらしい。


 書庫の改装を進めているのは国王であるロバート様だ。その手伝いをするグレースの要望なのだからと、ウィルは二つ返事で了承し、そのままグレースを王宮に連れ帰った。書庫近くに用意されたグレースの部屋には、深夜のうちに荷物が運び入れられている。


 ウィルからの報告に、いち早く反応したのはアナベルだった。一晩たってやっとおさまった怒りのボルテージが急上昇しはじめる。


「まぁウィルバート様!! あんな性悪女を王宮に住まわせるだなんて御冗談でしょう」


 本当はもっと文句を言いたいのだろう。顔を真っ赤にしているアナベルは、相手がウィルなので一応我慢はしているようだ。

 

「グレース様はカサラング家の御令嬢です。性悪女呼ばわりするのはいかがなものかと思いますよ」


 冷静なルーカスの言葉が、より一層アナベルをいらつかせたようだ。アナベルむっとした顔をしたまま黙ってしまった。ただぐっと堪えているようで鼻息だけは荒い。


「グレース様は、そんなに立派な家の方なんですか?」


 ルーカスの言葉がいまいちピンとこなかった私に、ウィルは頷きこの国の爵位について簡単に説明してくれた。


 グレースは公爵の称号を代々受け継いでいる非常に格式の高い家柄の御令嬢だそうだ。この国に公爵家はカサラング家とデンバー家しかない。

 この二つの公爵家が貴族のトップとして政治や経済など全てにおいて強い発言力を持っているらしい。


 身分だの階級だとかは、私には違う世界のことすぎて、説明されてもやっぱりピンとこない。

 まぁとにかくグレースのカサラング家とキャロラインのデンバー家は、王族以外では一番えらいってことだけは分かった。


「ウィルバート様、グレース様がいらっしゃってますが……」


 話をしていて気づかなかったが、どうやらグレースが部屋を訪ねて来たらしい。グレースを部屋へ招き入れるアナベルの苦虫を潰したような顔を見て思わず苦笑してしまう。


「ウィルバート様、おはようございます。朝食のお邪魔をして申し訳ありません」


 深々と頭を下げるグレースは、モスグリーンのワンピースを着ている。昨日のタイトなスカートとは違い、ふわりとしたスカートのレースがとても豪華だ。 


「昨夜お話されていた本を見つけましたので、少しでも早くお渡ししたくて……」


 そう言ってグレースが取り出したのは、私がロバート様にオススメしようと思っていた本だった。


「もう見つけてくれたのかい? さすが仕事が早いね」


 ウィルに褒められグレースの頬が赤く染まった。こんなに嬉しそうな顔してるんじゃ、誰が見てもグレースがウィルのことを好きなのは丸わかりだろう。


「せっかくだからグレース嬢も座ったらいい。アナベル、お茶をお願いできるかな」


「はい……分かりました」


 こちらもまた分かりやすい。

 ブスっとした表情からはアナベルが不機嫌なことがはっきりと分かった。それでもウィルの指示に従わないわけにはいかない。いつも通りの丁寧な仕草でお茶を運んでくる。


「改めて紹介しておくよ。アリス、こちらはカサラング家のグレース嬢だ」


「アリス様、よろしくお願いいたします」


 まるで初対面かのようなグレースの挨拶に戸惑ってしまう。


「わたくしもアリス様同様、しばらく王宮でお世話になることになりました。これから仲良くしてくださいませ」


 グレースの仲良くしたいという言葉はとても嬉しい。嬉しいんだけど、なんでだろう……グレースからは私と仲良くなりたいという気持ちが全く感じられない。


 もし本当に私と仲良くなりたいんだとしたら、昨日私に低俗だって言った事に対する謝罪があってもいいはずなのに。そう思う私は心が狭いのかしら? 色々考えるとモヤモヤしたものが胸の中をぐるぐるとまわりはじめる。


 それでも私達を優しい眼差しで見守っているウィルの手前、私も笑顔で受け入れるしかなかった。


「二人とも読書が好きだから、きっと話が合うと思うよ」なんて言われたら、「そうですね」としか返せない。


「殿下、そろそろご準備いたしませんと。本日の授業に間に合わなくなってしまいますよ」


「ああ、もうこんな時間か」

 ルーカスに言われ、ウィルバートが時計を確認して立ち上がった。


「グレース嬢、よかったら学園までわたしの馬車に乗って行くかい?」 


「よろしいんですか?」

 喜びからなのか、一オクターブ以上高い声でグレースが返事をした。


「もちろんだよ」


 ウィルバートの優しい微笑みにグレースが頬を赤らめた。こうやって見つめ合う二人を見るのはなんだか居心地が悪い。


「じゃあアリス、また夜に」

「アリス様、ご機嫌よう」


 部屋を出る前に振り返って私を見たグレースが勝ち誇ったような顔をして見えたのは、私の被害妄想だろうか? 


 ドアが閉まるのを見つめたままなんとも言えない苦い気持ちを抱えていると、アナベルがキーっという叫び声をあげた。


「なんなんですか、あのムカつく顔は!!」


「ア、アナベル、ちょっと落ちついてよ」

 ドアは閉まったけど、まだウィル達が側にいるかもしれないのに。


「これが落ちついていられますか!! アリス様もご覧になったでしょう。グレース様が鼻で笑ったあの瞬間、あの女の髪の毛を引っこ抜いてやろうかと思いましたよ」


 興奮しているアナベルの言う事は冗談なのか本気なのか分からない。


「グレース様はウィルバート様の想い人であるアリス様に嫉妬してるんです。だからアリス様を貶めるようなことばかり言うんですよ」


 うーん……

 グレースがウィルのことを好きなのは確かだと思うけど、私のことを貶めるっていうのは言い過ぎな気もする。


 まぁでもしばらく書庫に行くのはやめておいた方が良さそうだ。グレースに会わなければ問題は起こらないだろうし。


 この私の考えは甘かった。そう思うのにさほど時間はかからなかった。なぜならグレースとは書庫以外でも毎日のように顔を合わせる事になってしまったからだ。


 というのも、食事にもお茶にもウィルが私と過ごす時にはいつもグレースを連れて来るのだ。


 ウィルと一緒にいる時のグレースは、とても清楚で真面目な令嬢だ。ウィルのちょっとした言動に頬を染めるのを見ると、可愛らしいとさえ思ってしまう。


 問題は……そう、ウィルがいない時だ。


「アリス様はわたくしとウィルバート様との食事に同席されていて楽しいですか?」

 

 初めてグレースと食事をした日、ウィルが席を外した際にグレースからそう問いかけられた。

 正直ウィルと二人の方が楽しいと言えば楽しいけど……それをグレースに言うと、グレースはお邪魔虫だと言っているようで失礼な気がした。


「はい、楽しいですよ」

 そう言って笑った私に、グレースも笑顔を返す。


「よかったです。アリス様はあまり学がおありじゃない様子なので、わたくし達の話は退屈かと思っていました」


 えーっと……それは暗に私が馬鹿だと言っているのかしら?

 

 確かに食事中のウィルとグレースの会話には全く入れず退屈だったのは事実だ。二人とも勉強熱心なようで、この国の歴史や地理などの話題で盛り上がっていた。


 私にはチンプンカンプンの話だらけだったので、馬鹿にされたのかなっとも思ったが、グレースの表情には悪意のカケラもないので戸惑ってしまう。


 もしかしたらグレースは天然に失礼なお嬢様なだけかもしれない。そう思うとムキになって言い返すのも悪い気がして、黙ることしかできない。


 このグレースの悪意を感じない失礼な物言いに、私は日に日にストレスが溜まっていった。


「ウィルバート様になんとかしてもらいましょう」


 グレースの言動に腹を立てているアナベルはそう言うけれど、何だか言いつけるみたいで気がひける。


「それに、ウィルが私を庇ってくれるとは限らないし……」


 最近のウィルの態度からして、ウィルが私よりグレースと一緒にいたいと思っていることは誰の目に見ても明らかだった。グレースが王宮に来てから、ウィルと私が二人きりになったことはない。今まで寝室で二人きりで読書をしていたのが嘘のように、ウィルは私の元に来なくなってしまった。


 それが分かっているからだろう。アナベルも愚痴は散々言いながらも、ウィルに直接グレースの悪口を言うことはなかった。


 毎朝ウィルとグレースの二人が一緒に私の部屋に来て、二人で私の分からない話をして、二人で学園に出かけていく……


「ウィルバート様、今夜も書庫にいらっしゃいますか?」


 グレースの問いかけに、柔らかな笑顔で「もちろん行くよ」と答えるウィルを見るとひどく心が痛んだ。


 そっか……夜私の部屋で読書をしなくなったのは、グレースと書庫にいるからなのね……


 昨夜読んだ本の事で楽しそうに笑い合う二人を見ると心の痛みが増してくる。


 私のことなんて放っておいて二人で過ごせばいいのに。ウィルが私の所に来るのは、私が一人にならないようにという優しいウィルの配慮なのだろう。そう感じるたびに、私の胸はありがたさよりも、むなしさと申し訳なさでいっぱいになるのだった。

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