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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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50.ウィルバートの年越し

 行かないでくれと言うならまだしも、夜会に戻れと言うなんて。わたしがこんなにもアリスと二人の時間を渇望しているというのに。


 どうやらアリスは、わたしが夜会を去らねばならなかったのは自分のせいだと心を痛めているようだ。国王主催の夜会に王太子が長時間不在なのはまずいのではと心配している。


「わたしはアリスと二人きりで新しい年を迎えたいと思っているけど、アリスは違うのかな?」


「それは……」


 多少意地の悪い言い方だが、これくらいは許されるだろう。つれないアリスへのささやかな仕返しだ。


「さぁ、アリス、乾杯しよう」


 わたしにはシャンパン、アリスにはノンアルコールスパークリングワインをそれぞれ注ぎ、グラスを満たす。グラスの中では炭酸が景気良くパチパチと音をたてて弾けている。


「アリスがわたしの世界に来てくれた奇跡に……」


 アリスは恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな顔をしながらわたしに合わせて「乾杯」っと呟いた。グラスに口をつけほぅっと息をつく。グラスを置き、ワゴンからエッグタルトを選んだアリスが、大きく口を開いた。


 可愛いな……


 美味しそうにタルトをパクパクと食べていたアリスが、わたしがじっと見つめている事に気づき口を閉じた。そのまま小さな口でチビチビと食べ始めた姿を見て、思わず吹き出してしまう。


 そんなに気取らなくてもいいのに。

 アリスは見られて恥ずかしいと思ったのかもしれないが、アリスが大きな口で美味しそうに食べる姿は、見ているだけで幸せな気持ちにしてくれる。


「もうっ。そんなに見ないでください」


 笑ったわたしを睨むようにアリスが口を尖らせる。それがまた可愛らしくて、くくっと笑いが込み上げる。


「アリスは何をしても可愛いね」


 アリスの尖らせた口にチョンっと人差し指で触れると、アリスがびっくりしたようにパチパチと瞬きをした。


 アリスの手にはまだエッグタルトが握られている。口を寄せ食べかけのエッグタルトを平げると、再びアリスが驚いたように目を見開いてわたしを見た。


 あぁ。可愛い。

 そのままアリスの指についてしまったクリームをペロリとなめると、アリスがパッと手を引っ込めた。


「ウィルのバカ……」

 真っ赤になったアリスが、わたしのなめた指を反対の手で隠しそっぽを向く。


 バカと言われてこんなに顔がにやけてしまうなんて。馬鹿の言い方大会があるのなら、間違いなくアリスは優勝だ。それほどまでに、アリスの「バカ」には人をとろけさせる力がある。


 にやけ顔のまま空になった二人のグラスを再び満たした。そんな私に向かってアリスが再び心配そうな顔を向ける。


「本当にウィルは夜会に戻らなくてもいいんですか?」


「大丈夫だよ。毎年この時間にはキャロラインを送り届ける馬車の中にいたからね。わたしが会場にいないからといって、気にする者もいないだろう」


「そうですか」と呟くアリスを見て、はたと思い出す。


「そう言えばキャロライン嬢はどうしたんだい?」


 わたしが側にいない間アリスの事を任せておいたのに、アリスの側にいなかったではないか。そのせいでアリスがアドリエンヌに絡まれていたのだ。アドリエンヌ達に囲まれているアリスを見た時にわたしがどんなに焦ったか。


「キャロライン様ですか? キャロライン様とはサブリナ様が来られたので、別行動させてもらいました」


「どうしてだい? アリスは公爵夫人と顔見知りだろう」


「キャロライン様に紹介したい男性がいるというお話だったので、お邪魔になりたくなかったんです」


 ほぅ。それはそれはキャロラインも気の毒に。

 アリスの側を離れた事は気に入らないが、キャロライン自身もおそらく仕方なく離れたに違いない。


 公爵令嬢であるキャロラインには幼い頃から縁談の話はたくさんあった。彼女が嫌々ながらもわたしのパートナーを務め続けたのは、そのような縁談から逃げたかったからだ。わたしという邪魔者がいなくなった今、求婚者が押し寄せても不思議ではない。


「わたしがアリスに出会えたように、キャロライン嬢も素敵な人に出会えるといいんだが」


 わたしの言葉にうっすらと頬を赤らめたアリスが、「キャロライン様が紹介されていた方は、背が高くてかっこよい人でしたよ」と笑った。


「へぇ……それはよかった……」


 いや、良くない。良いわけがない。

 微笑み返そうとして、笑顔がひきつってしまう。


 アリスがかっこいいと思ったのは、一体どこのどいつだ!!


 キャロラインに求婚するくらいの家柄で、今夜の夜会に参加している独身者は……決して多くはないが、絞り切れるほど少なくもない。


 アリスがわたし以外の男を褒めるのは全くもっておもしろくない。


「アリスは、その人物のどこがかっこいいと思ったんだい?」


 わたしの質問に、アリスは記憶を辿るように首を傾け一瞬目をつぶった。


「遠目だったのではっきりとは思い出せないんですが……雰囲気というか、ただなんとなく素敵な人だなって思いました」


 へぇ、素敵な人ねぇ。再びカチンとする。


「その男性とわたしでは、どちらがかっこいいかな?」


 そんな質問をされるとは思っていなかったのだろう。アリスが困惑の表情を浮かべている。


「ねぇアリス、教えてくれるよね?」

 アリスの頬に手をあてると、慌てた様子でアリスが顔をそむけた。


 ふっ、わたしが逃すわけがないだろう。

 アリスの顔を優しくこちらへ向けると、頬がみるみる赤く染まっていく。 


「聞かせてほしいな」


「……ウィ、ウィルの方がかっこいいです」


「本当に?」

 コクンと無言でうなずいたアリスが恥ずかしそうに身を縮めた。


 アリスの返答を聞いていくらか気が晴れた。

 アリスのことになると、どうやらわたしは今までの自分からは考えられないくらいダサい人間になってしまうようだ。


「ありがとう。嬉しいよ」


 そう言ってアリスを優しく引きよせた。

 嫌がることなくわたしの腕の中におさまったアリスがアフっと小さな欠伸をした。


「……ウィルは私が今までに出会った人の中で一番かっこよくて素敵な人です」


 腕の中のアリスが小さく呟く。


 アリスー!!

 心臓が掴まれたようにぎゅっとなる。

 もう我慢ができない。


 たまらずアリスの唇に口付けようとするが、アリスの可愛らしい欠伸に阻まれてしまった。

「ウィル、ごめんなさい……私なんだか急に眠気が……」


「アリス?」


 ふっと口元に笑みが浮かぶ。

 腕の中のアリスはすぅすぅと寝息を立てている。きっと初めての夜会で相当疲れていたのだろう。気持ち良さそうに眠るアリスの頬にそっと触れた。


「今日は頑張ってくれて本当にありがとう」


 かすかにアリスが笑ったように見えた。

 起こさぬよう注意しながらそっと抱き上げ寝室へと運ぶ。


 本当に可愛らしい自由な人だ。

 来年こそはきっと、アリスの愛を手に入れてみせる。


「覚悟しておくんだね」

 小さく呟き、アリスの綺麗な黒髪にそっと触れた。

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