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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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45/117

45.準備は大変

 はぁ、疲れたぁ……

 そう思うと同時に、グググーっとお腹が盛大な音を立てた。


「まぁアリス様ったら」

 私の髪をセットしている侍女達がクスクスとおかしそうに笑う。


「お昼を少ししか召し上がってないですから、仕方ありませんね」


 だって緊張であんまり食欲がわかなかったんだもの。


 夜会のことを考えると緊張して、食事をする気なんておきやしない。それなのにどうしてお腹はすくのだろう。


 とうとう迎えた12月31日、年忘れの夜会の朝、私は突如として数人の女性に取り囲まれた。


 この女性達はルーカスの指示で派遣されてきたらしく、アナベルと一緒に私の準備を手伝ってくれるようだ。「見違えるほど美しい令嬢に変身させてみせますので、期待していてくださいね」なんて事を言われたが、期待よりも不安しかない。


 私が美しい令嬢に? そんなの鼻からスパゲティを食べるより難しいんじゃないかしら?


「では時間も限られてますし、早速準備をはじめましょうか」


 まだ朝なのに、もう夜会の準備を始めるの?

 そんな疑問を口にする余裕もなく、アナベルのかけ声と共に、パジャマを剥ぎ取られ浴槽に沈められた。


 手伝いの侍女達は皆よく笑う明るい女性達で、アナベルと同じくよくしゃべった。こんなにしゃべりながら、よく手がとまらないなっと変に感心してしまうほどに皆おしゃべり好きだった。


 私は彼女達に会った覚えはなかったが、なぜか彼女達は私の事をよく知っていた。それは彼女達が毎日噂話に花を咲かせているからに違いない。


 朝から準備を始めたのに、垢擦りやらパックやら、体中磨かれているうちに、いつの間にか日は暮れている。後はドレスとヘアセットで終わりだろうか。


 夜会はまだ始まってもいないというのに、準備だけでこんなに体力を消耗してしまうとは思ってもみなかった。


 そんな私にアナベルが持ってきてくれたのは、一口サイズに切り分けられたサンドイッチだった。


 残念ながらドレスのウエストの都合で沢山は食べられなかったけれど、お腹が満たされたことによって元気を取り戻す事ができた。


「ねぇアナベル、そろそろ鏡見ちゃダメ?」


 そう尋ねたのはこれで何度目だろうか? 朝から姿見も鏡台も全て布がかけられていて、自分では今どうなっているのか全くわからない。


 アナベルが他の侍女達と顔を見合わせ頷いた。

「準備は整いましたので、どうぞこちらへおいでくださいませ」

 姿見の前に立つと、かけられていた布が取り除かれた。


「どうです? とっても可愛らしいでしょう?」


 えっ? これが……私? 

 想像以上の自分の姿に一瞬言葉を失ってしまう。


 自分で言うのもなんだけど、鏡の中で驚いた表情を浮かべる私は、絵本に出てくるプリンセスのように可愛らしい。


 こんなピンクでヒラヒラのドレスなんて絶対に無理だと思ってたのに。私の予想に反して意外にも似合っている。


 それに髪形もいい。普段はストレートのボブヘアーが、今は綺麗なゆるふわウェーブになっている。それを二本のロープ編みとハーフアップで華やかにまとめて可愛い仕上がりだ。


「ありがとう。こんなに可愛くしてもらえるなんて嬉しいわ。なんだか自信を持って夜会に行けそうな気がしてきちゃった」


「そう言ってもらえて私達も嬉しいです」

 アナベルや侍女達が満足そうに微笑んだ。


 数十分後、私を部屋まで迎えに来てくれたウィルバートを前に思わず息が止まった。


 なんて素敵なのかしら。

 ウィルバートのタキシード姿に思わず見惚れてしまう。


 この世にこんなにかっこいい人がいるなんて信じられない……


 ウィルに出会ってから何度もそう思ったけれど、やっぱり今日も思わずにはいられない。それくらいウィルはかっこよくて、かっこよくて、かっこよくてたまらない。


 ぽーっとなってしまった私を、ルーカスの声が現実に引き戻す。


「ほぅ。馬子にも衣装とはこのことですね」


 いつもの軽蔑するような冷ややかな視線とは違い、ルーカスの感心したように私を見つめる視線が気持ちがいい。


「キャロライン様には敵いませんが、これならば何とかなるかもしれませんね」


「あ、ああ……そうだね」

 ルーカスの言葉に、ウィルバートの反応は微妙だ。


「殿下?」


「ああ……」


「殿下、いかがなさいましたか?」


「ああ、ルーカスか? どうしたんだい?」


 ぼーっとしているウィルバートを、ルーカスが心配そうに覗き込む。その声でウィルバートがはっと我にかえったというような表情をした。


「お疲れでしたら夜会までお時間がありますので、横になられますか?」


「いや、大丈夫だよ。アリスがあまりにも可愛らしいものだから、見惚れてしまっていたみたいだ」

 そう言ってウィルバートが私の方へと足を進めた。


「アリス、本当に綺麗だよ」

 私を見つめるウィルの目はとてもまっすぐで、本気で言ってくれているのがよく分かった。


 綺麗だなんて真剣に言われたら、嬉しいけど照れちゃうじゃない。恥ずかしくてウィルを直視なんてできやしない。


 ウィルから視線を外した私の目に、嬉しそうなアナベルと侍女達の姿がうつる。


 ううっ。ウィルと目が合うのも恥ずかしいけど、アナベル達にウィルとのやりとりを見られているのも恥ずかしい。これじゃあ視線のやり場に困ってしまう。


 そんな私の気持ちを察したのか、ウィルバートが侍女達にねぎらいの言葉をかけた。


「皆もよく頑張ってくれたね。素晴らしい仕上がりだよ」

 その言葉が合図だったかのように、侍女達は頭をさげ、部屋を出ていく。


「ねぇアリス、もっとよく顔を見せてほしいな」


 ウィルバートの静かなお願いに、ゆっくりと顔をあげた。恥ずかしいし照れくさいけれど、せっかく皆が綺麗にしてくれたのだ。ウィルにたくさん見て欲しい。


「あぁ、なんて可愛いんだ」 


 ウィルの感嘆のため息が何だか色っぽくてゾクっとする。あぁ、なんて格好いいんだろう。ウィルのカッコよさにクラクラしてしまう。


「やはり、わたしの人選がよかったからでしょうね」


 私達二人の間に流れる甘い雰囲気を切り裂いたのは、やっぱりルーカスだった。私の準備をする侍女を選んだのは自分だから、私がまぁ見れるレベルになったのは自分のおかげだと主張している。


 それも一理あるけど、何だかなぁ。

 そんな言い方しないで、褒めるならきちんと褒めて欲しい。


「まぁルーカスのおかげであることも否定できないけど、ほとんどはアナベルのおかげだよね」


「アリス様?」


「アナベルが可愛らしいドレスを選んでくれていたから、こうしてウィルとルーカスに褒めてもらえたんだし」


 私の言葉にアナベルが嬉しそうな笑顔を見せた。


「わたしは別に褒めてはいませんよ。ただ思っていたよりはマシだと言っただけです」

 相変わらずルーカスの中で私の評価は低いらしい。


「まったくルーカスは素直じゃないなぁ。こんなに可愛らしい人は見たことがないよ」


「そうですわ。アリス様の可愛らしさが分からないなんて……ルーカス様はもっとよいメガネをお使いになったらいかがですか?」


 すかさず反論してくれるウィルとアナベルには感謝だが、二人の私に対する評価が高すぎることには、正直戸惑ってしまう。


「……アリスにわたしのパートナーを頼んだのはやっぱり失敗だったな……」

 愛しそうに私を見つめたままのウィルバートが小さく呟いた。


「えっ?」


 驚いたのは私だけではなかった。ルーカスとアナベルも、ウィルの真意をはかりかねているようだ。


 パートナー失敗って、どうして? 可愛いって褒めてくれたのに……


「私、何か失敗しちゃいましたか?」

 急に不安になり、恐る恐る問いかけた。私を含めた三人の視線がウィルバートに集中する。 


「アリスは何も失敗なんてしていないよ。ただこんなに可愛らしいアリスを他の人に見せるのはもったいないと思ってね」

 ウィルが私に近づき、そっと頬に触れた。


「本当に可愛いね。こんなに可愛いアリスが誰かに奪われたりしたら大変だ。夜会になんて連れて行かず、誰の目にも触れさせないよう、このまま一生ここに閉じ込めておきたいよ」


 ウィルの本気とも冗談とも分からない言葉に、どう反応していいのか分からない。それはアナベルとルーカスも同じだったようで、二人とも目をパチパチするだけで口を開かなかった。


「冗談だよ」

 固まってしまった私を見てウィルバートが笑った。


「そ、そうですよね」


 なんだ、よかった。

 ウィルバートにつられて私も笑顔になる。

 あんまりにも真顔なもんだから、一瞬本気なのかと思ってしまった。


「さぁそろそろ時間だ。準備はいいかい?」


「はい」


 張り切って出発しようとする私に、後ろからルーカスのありがたくない声援が送られてくる。


「夜会の最中に大きな失敗をやらかして、やっぱり部屋に閉じ込めておけばよかったと思われないようにしてくださいね」


 いつもは冷ややかなルーカスの声が、今日は少しだけ優しい。ルーカスも私の事を心配しているんだと思うと、それだけで胸がいっぱいになる。


 そうよね。皆のためにもがんばらなくっちゃね。


 練習に付き合ってくれたキャロラインやアーノルド、準備をしてくれた侍女達、心配してくれるルーカスにアナベル……


 そして何より、私をパートナーにしてくれたウィル、そして自分自身のためにも今日を最高の日にしなくては!!


「じゃあ頑張ってくるからね」


 心配そうな顔で私を見つめるアナベルに笑顔で手を振り、気合い十分で夜会会場へ乗り込んでいった。

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