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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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35/117

35.稀代のモテ男!?

 攫われるようにしてメイシー様の家出につきあわされた私の元に、強力な味方が来たのは翌朝のことだった。


「アナベル!!」

 部屋に入って来たアナベルを見た途端、喜びで思わずかけよった。


 この屋敷にしばらくいると聞かされてすぐ、アナベルをここに呼んでもらえるよう頼んでおいたのだ。この屋敷の侍女達も仕事はできるだろうけど、やっぱり私にとってアナベルがいてくれるのが一番心強い。


「さぁアリス様、ご準備いたしましょう」


 感動の再会を喜ぶことなく、やって来たばかりのアナベルに半ば強引に服を脱がされた。抵抗する間もなく王宮から持って来たヒラヒラのドレスに着替えさせられる。


「アナベル、これはちょっと可愛すぎじゃない?」


 胸元には大きなリボン、スカートにはふりふりのついたドレスは可愛いらしいけれど、いかにも女の子という感じでなんだか恥ずかしい。残念だけど、私はこんなぶりぶりな服を着ていい顔じゃない。


「何をおっしゃってるんですか!! 今日からキャロライン様とお過ごしになられるんですよね? このくらい気合いの入ったお姿でないと負けてしまいますよ!!」


「負けるって……私はキャロライン様から夜会での振る舞い方を教わるだけで、別に勝負するわけじゃないのよ」


 それにいくら着飾ったところで、私がキャロラインに勝てる要素なんかあるはずもない。


「アリス様は自己評価が低すぎです。こんなに可愛らしいんですから、もっと自信を持って堂々としていればいいんですよ」

 

 そう言われてもねぇ。あれだけ素晴らしい女性を見てしまったら、自信なんて持てるはずがない。


「もしキャロライン様がアリス様に何か危害を加えるようなことがあれば私がお守りいたしますから」


 そう言って、アナベルは力拳をしてみせた。

 体つきからは想像できないような筋肉の盛り上がりを見せつけられて思わず拍手してしまった。そんな私の反応にアナベルは満足そうにしながらも、瞳にギラギラと闘志を燃やしている。


 アナベルはなんでこんなに闘志満々なんだろう。そもそもキャロラインが私に危害を加えるなんて事ありえそうもない。


「何があるかなんて分かりませんよ。キャロライン様自身ではなく、この屋敷の者が逆恨みをしている可能性もありますから」


 うーん。やっぱりアナベルの言うことはピンとこない。キャロラインの名前はノックから聞いて知っていたけれど、会ったのは昨日が初めてだ。もちろんこの屋敷に来たのも昨日が初めてで、逆恨みされるほどの事をしでかした覚えなんてない。


「なんだってキャロライン様達が私に危害を加えるっていう発想になるの?」


「アリス様がウィルバート様のパートナーになられたからですわ」


 今までウィルが夜会など公の場に出る場合は、必ずキャロラインがパートナーとして付き従っていた。だからこそ多くの人はキャロラインが最有力の王太子妃候補だと思っているらしい。


「今回ウィルバート様はアリス様を選ばれました。キャロライン様達からしてみれば、アリス様にウィルバート様を奪われたようなものです」


 だからこそ何か嫌がらせをしてこないか心配なのだとアナベルは言う。


「キャロライン様はあの通り、容姿端麗でらっしゃいます。自分の仕える主が、格下の者に負けるのを喜ぶ侍女はいません」


 だからキャロラインだけでなく、侍女達にも注意しろということらしい。


 格下って……

 アナベルはナチュラルに私のこと否定してることに気づいてないらしい。


 でもアナベルの言うことも真実味がある。私みたいな突然現れたわけの分からない女、しかもだいぶ冴えない女がウィルバートを奪ったとなれば、ムカつかれても仕方がない。


 変な緊張感を持ったまま数日間過ごしたのだが、キャロラインや侍女達が私に嫌がらせをすることなど全くなかった。それどころか、違う世界から来て慣れない貴族社会は大変だろうと親身になってお世話をしてくれた。


「そうやって油断させておいて、後で突き落とすんですよ」っとアナベルは未だに警戒を緩めないようだが、私にはキャロラインが悪人だとはどうしても思えない。


 私の目に映るキャロラインは、生まれてから一度も悪いことなど考えたことがありませんというような清らかな微笑みを浮かべている。


 そんなキャロラインから兄を紹介したいと言われたのは、屋敷に来てから5日ほどたった時だった。


「キャロライン様のお兄様って、あのエドワード様がいらっしゃるんですか!?」


「ええ。お昼すぎに到着するんですって」


 キャロラインの兄とお茶を飲むことになったと伝えた時のアナベルの驚きっぷりは半端なかった。あまりの声の大きさに耳が痛くなったほどだ。


「エドワード様といえば、顔よしスタイルよし地位よし家柄よしの、稀代のモテ男ですよ」


 まぁキャロラインのお兄さんならかっこいいのは当然だろう。あのアーノルドだって口は悪いけれど、黙っていればカッコいいんだし。


 なんて思っていたけれど、キャロラインに紹介されたエドワードは私の想像とは全く違っていた。というより、私の想像をはるかにこえる男前だった。


「こちらでの生活にはもう慣れましたか?」


 エドワードの問いかけに無言でコクコクと首を縦にふる。さすがキャロラインの兄だけあって、顔だけでなく声もいい。落ちつきのあるゆったりとした甘い声は聞いているだけで心地がいい。


「もうお兄様ったら。そんな怖い顔ではアリス様が怯えてしまいますよ」

 声も出さず固まってしまった私を見てキャロラインがエドワードを非難した。


 別に怯えてるわけじゃないんだけどな。ただあまりに素敵な人が目の前に現れて声を出すことも忘れてしまっただけなのだ。


 本当にかっこいい人だなぁ。じろじろと見るのは失礼だと分かっているが、エドワードから目が離せない。


 少し長めの前髪からのぞく切れ長の瞳は、鋭いけれどミステリアスで色気を感じる。少し冷たさを感じさせる表情はたまらなく美しい。それになんだろう、このできる男のオーラっていうの? 何かが色気と共に溢れ出している。


 この世界に来てから、ウィルやアーノルドといったイケメンを見慣れてるはずなのに。こんなにドキドキしちゃうなんて……アナベルが興奮するのもよく分かる。


 っていうかアナベルってば、化粧濃くない?

 側に控えているアナベルを見て思わず苦笑してしまう。なんだか忙しそうにしてたのは、いつもより念入りに化粧をしていたからのようだ。


 よく見るとアナベル以外の侍女達も、いつもより化粧に気合いが入っている気がする。エドワード目当てなのか、普段キャロラインと過ごすときよりも数段侍女の数が多い。アナベルが希代のモテ男だと言うだけのことはある。


「お兄様がお帰りになるなんて珍しいですわね」


「陛下の命なんだ。メイシー様が王宮にお戻りになるまでこちらにいるよう言われているんだよ」


「まぁ。それは大変ですわね。長く王宮を離れて大丈夫ですの?」


「わたしの部下達は優秀だからね。わたしが少しくらい王宮を離れても問題はないよ」


 エドワードは王宮騎士団のトップだ。この若さで、団長の地位を得るのは素晴らしいことだとアナベルが絶賛していた。家柄もさることながら、エドワードには実力もあるのだろう。


「そうそうお兄様、年忘れの夜会にはわたくしと一緒に行ってくださいませんか? エドワード兄様がいれば、くだらない男性もあまり寄って来ませんから」


「キャロライン、くだらない男性という言い方はよくないよ」


「だって皆さん本当にくだらないお話しかされないんですもの」

 キャロラインはふうっとため息をついた。


「……アリス様は殿下のパートナーとして夜会に出られるんですよね? その振る舞い方をキャロラインと共に練習されているとお聞きしましたが」


 私へと視線をうつしたエドワードの表情が、思いの外冷たいもので背筋がぞくっとする。

 

「今アリス様は夜会での振る舞い方について、実践練習中なんですよ。基本的な作法はもうマスターされましたから、あとはダンスだけですね」


 ダンス……はぁっと心の中で大きなため息をついた。踊らなくていいはずだったんだけどなぁ……


 私が夜会に行くと決まった時、ウィルは踊れなくてもなんとかなると言ってくれた。もちろんその事はキャロラインには伝えてある。けれどキャロラインは納得しなかった。


「何をおっしゃってるんですか。夜会にはウィルバート様の妻の座を狙う令嬢が大勢来るんですよ。そんな場で踊れないことが分かればアリス様が笑い者にされるに決まっています」


 そう言って私にダンスの練習をするよう勧めてくるのだ。マナーだけでも精一杯なのに、あと一月で踊れるようになる自信はない。でも私が笑い者にされたら、ウィルに悪いし。はぁ……考えるだけで頭が痛い。


「ダンスですか。それならちょうどいい。こちらにいる間わたしが練習のお相手をつとめましょう」


「まぁ、それはいい考えですわ」

 エドワードの言葉にキャロラインが嬉しそうな声をあげた。


 私は遠慮したいと何度も言ったのだが無駄だった。乗り気になってしまった二人、プラス、エドワードのダンスを見たいアナベル達侍女に押し切られるようにダンスレッスンが始まってしまった。いつもの事だが、ここでも私の意見は通らないらしい。半ば諦めのような気持ちで小さなため息をついた。

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