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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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32.ウィルバートの雑談

 アーノルドはわたしほどではないが、幼い頃から令嬢達に人気があった。容姿も家柄もよいのだから当然といえば当然だろう。中には積極的な令嬢もいたが、アーノルドが彼女達に興味を示すことはなかった。


 そのかわり自分には全く興味のなさそうな、それでいて本心が読めない女性にばかり惹かれていた。アーノルドが言うには、そういった女性の方が付き合っていておもしろいかららしいが、わたしには理解できない。


 わたしがアーノルドの元恋人達の事を腹黒と表現したのは、彼女達が良くも悪くも上昇志向が強く、権力が好きなタイプの女性だったからだ。


 アーノルドの耳には入らないよう注意してきたが、アーノルドの元恋人の中にはわたしに色目を使ってきた者もいる。それも一人ではない。


 まぁアーノルドが好きになるくらいだから、彼女達にもいいところはあったのだろう。ただわたしにはそれが全くといっていいほどに分からなかった。


「ミステリアスですか……」


 そう呟いたルーカスは何か言いたげな表情をしている。ルーカスもわたしと同じくアーノルドの元恋人達に良い印象を抱いていないのだ。


「どちらにせよ、殿下のおっしゃる通り、アーノルド様が好意を持たれる方はアリス様とは違うタイプですね」


「……まぁな。俺は多分一生アリスに惹かれることはないだろうな」


 窓枠に肘をつき、頬杖をついて笑っていたアーノルドが何かを思い出したように「おっ!!」っと声をあげた。


「そういや、年忘れの夜会はアリスをパートナーにしたんだってな?」


 わたしが頷くと、「キャロラインが喜ぶな」とアーノルドが笑った。つられてわたしも笑ってしまう。


 キャロラインには今まで本当に世話になった。

 嫌がりながらもわたしのパートナーを務めてくれたキャロラインには感謝しかない。

 

 昔から同伴者が必要なパーティーには、必ずキャロラインを伴って出席していた。キャロラインよりわたしのパートナーとしてふさわしい女性はいなかったからだ。


 王太子というわたしの立場上、誰かれ構わずパートナーに選ぶことはできない。公爵令嬢であるキャロラインは家柄もよく、幼い頃から身につけてきた淑女としての教養も申し分ない。


 この条件だけなら他にも当てはまる令嬢はいるが、他の令嬢をパートナーに選ぶと厄介な事になる可能性が高かった。一度パートナーをつとめたからといって、将来王太子妃になれるという勘違いをされてはたまらない。


 その点キャロラインはわたしのパートナーになるのを嫌がるくらいだから、そういった心配はなかった。わたしの妻になるなんて、絶対嫌がるに決まっている。


 キャロラインは本当に都合のいいパートナーだった。ただ一つの問題を除いては……


 ただ一つの問題、それはわたしとキャロラインの気が合わないことだ。いや気が合わないという言葉では軽すぎる。同族嫌悪と言う方が正しいかもしれない。


 いつも嘘くさい微笑みを浮かべながら当たり障りない言葉しか言わないキャロラインのことは、嫌いとは言わないまでも好きにはなれなかった。それはキャロラインも同じなのだろう。わたしへの振る舞い方から、わたしに対する嫌悪感を感じとることができた。


「これからは永遠にアリスだけがわたしのパートナーだから、キャロラインに迷惑をかけることはないはずだよ」


「それはアリス様次第になりますね」

 突如としてルーカスが口を挟んだ。


 今回は仕方なく納得したが、ダンスもできないアリスにわたしのパートナーは務まらないとルーカスは鼻息を荒くする。


 ルーカスのアリスに対する態度は相変わらず厳しい。アリスが夜会に出るための特訓をすると決まった時には、喜んで参考になる書物を準備をしていた。珍しく親切だと思いきや、その書物の数はやたらと多く、部屋へ運び込むのに台車が3台必要なほどだった。


 ルーカスとしては、アリスが本の多さに怯むことを期待していたのだろう。だがさすがはアリスだ。本を読み慣れているだけあって、膨大な量の書物をたったの3日で読み終えてしまった。


 しかもただ読んだだけでない。大量の本から要点だけを抜き出して、ノートまで書き上げていたのだ。


 わたしも確認したのだが、そのノートの出来は素晴らしく、そのまま貴族の令嬢のマナー本として採用してもよいくらいだった。


「へぇ。んじゃ鈍臭く見えて、あれで結構賢いのか」


 褒め方は気に入らないが、アーノルドは一応アリスの事を認めているようだ。ルーカスはと言うと、アリスが自分の思い通りの行動をとらなかったことが悔しいらしく、「知識はあっても、実践できるかどうかは別問題ですから」と苦々しげに言い放った。

 

「あぁ、俺もそろそろ誰か見つけるかな」

 

 わたしのくだらない恋愛相談を聞いていたら、自分も恋人でも作ろうかという気になったらしい。

 わたしの悩みをくだらないと言い切ることは納得いかないが、アーノルドが恋人を作ることに関しては賛成だ。

 

 アーノルドに恋人ができたらすぐアリスに紹介しよう。ダブルデートをしてもいいかもしれない。


 アリスは今まで夜会に参加したことがないと言っていた。初めての夜会では色々不安な事があるだろう。そんな時、一人でも親しい令嬢がいればアリスも心強いに違いない。アーノルドの恋人には、そういった役割をお願いしたい。


 それには年忘れの夜会に出席するレベルの家柄で、アリスと仲良くなれるほどの性格の良さが必要となる。

 

「年忘れの夜会まで時間がありませんので、性格に難のない名家の令嬢を早急にピックアップいたしましょう」


 こういう時ルーカスの存在はありがたい。何も言わずとも私の望みを正確に理解してくれている。


 肝心のアーノルドはというと、「別に夜会までじゃなくていいぞ。どうせ俺は警備で夜会を楽しむわけじゃないからな」と言っているので、私の意図には気づいてないようだ。


 恋人に関してはさほど必要性も感じてないらしく、本気で見つけようと思っているのかは分からない。すでにこの話題に飽きたのか、しきりに首を前後左右に動かしストレッチをしている。


「そういや……」

 とアーノルドが再び話題を変えた。


「ルーカスはアナベルとケンカでもしてんのか? うちの隊の奴が、アナベルがお前に向かって、賭けがどうとか怒鳴ってるのを見たと言ってたんだが」


 何やら面白そうな話だ。普段から意気投合する事などない二人だが、怒鳴り合いのケンカというのも珍しい。


「ケンカではありませんよ」

 先日の賭けの件でアナベルが一方的に怒っているだけだと説明をするルーカスの口調は淡々としている。


 賭けの話を知らないアーノルドが詳しい話を聞きたがると、ルーカスはチラッとわたしを見た。そして賭けが始まったきっかけから、結末に至るまでを簡単に話始めた。


「へぇ……そんな事がねぇ……」

 そう言ってわたしを見たアーノルドの目が冷たいと感じるのは気のせいだろうか。


「それで、どうしてアナベルは怒ってるんだい?」


「わたしがアナベルの要求を断ったからです」


 負けた方は勝った方の言うことを何でもきくという賭けだったが、アナベルがあまりにも馬鹿げた事言うので拒否したのだとルーカスは言う。


 そのアナベルの馬鹿げた要求とは何なのか? 知りたがるわたしとアーノルドに、ルーカスは「わたしの身体ですよ」と相変わらずあっさりとしたら口調で答えた。


「……ルーカス、今何かおかしな事を言わなかったかい?」


「ええ。ですから先程馬鹿げた要求だと言ったじゃありませんか」


 何を今更とでも言うように、ルーカスがふぅっとため息をついた。

 ということは、聞き間違いではなく本当にアナベルはルーカスの身体を要求したということか。


「ええっ!! いつの間にルーカスとアナベルは恋人同士になったんだい?」


 ルーカスもアナベルも母親がわたしの祖母の元で働いている。そのため二人は幼い頃からの知り合いだ。確かにうちとけているなとは感じることはあったが、まさか恋愛関係にあったなんて!!


 驚くわたしに「恋人になどなっていませんよ」っといたって冷静にルーカスが答えた。

「ただ身体を要求されただけです」


 付き合っていないのに、体を要求された……というのは一体……なんだか頭の中にむず痒さを感じて額を軽く掻いた。


「体というのは、何か力仕事とかそういう意味のことだろう?」


「いいえ、違います。体の関係という意味です」


 あぁやっぱりという納得する気持ちと、嘘だろっという気持ちが同時に湧きあがってくる。

 

「アナベルやるなぁ。ウィルバート、お前も少しはアナベルを見習えよ」

 アーノルドは膝を叩きながら笑っている。


「……賭けかぁ……それもいいかもしれないね」


 わたしの呟きにアーノルドが笑うのをやめ、真面目な顔をした。


「えっ!? 冗談だって分かってるよな?」


 もちろんそんな事は分かっている。でも考えてみると、賭けというのはなかなかいい策ではないか。


 絶対にわたしが勝てる事でアリスと賭けをすれば……考えれば考える程、良案に思えてくる。


「おい、マジで冗談だからな。また変な計画とか練るなよな」


 焦った様子のアーノルドには大丈夫だと告げながらも、頭の中ではアリスと何で賭けをしようかと一人考える。


 こうやってアリスの事を考えていたら、無性にアリスが恋しくなってきた。


 アリスは今何をしているだろうか?……

 王宮を出発してまだ1日もたっていないのに、すでにアリスに会いたい。こんなにも恋しい女性がいる。その事がなんだか嬉しくて、わたしの心の中は明るかった。

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