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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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28.賭けの結果は?

「えっ!? 買うんですか?」

「お買い上げですか!?」


 私の声とナタリーの声が被った。


「お土産にしようと思ってね。アナベルが喜びそうだと思わないかい?」


「アナベルにですか……」


 ええ、きっと大喜びするでしょうね。

 

 アナベルは喜ぶだろうけど、私的には微妙な気持ちだ。だってアナベルの事だから、本を読んで私とウィルバートの事を妄想するに決まってるのだから。


 この本を手にしたアナベルの姿を想像するだけで、脳内でグフっという音が響く。


 お土産用に包んで欲しいというウィルバートに、ナタリーもカールも何も言わなかった。というより二人とも顔面蒼白で、何かを言えるような感じではなかった。なぜだろう? 二人は怯えているようにも見える。


 それでもウィルから本を差し出された以上受け取らないわけにはいかない。ナタリーは恐る恐る本を受け取った。


「で、殿下……こ、この本は本当にお土産にされるのですか?」

 

「そのつもりだけど……何か問題があったかな?」


 店員二人のただならぬ様子の理由はウィルバートにも分からないようだ。ウィルバートの困惑が私にまで伝わってくる。


 ただでさえ本屋初心者なのだ。店に入るだけで緊張してたのに、店員がいきなり怯え始めたんだからウィルバートが戸惑うのも無理はない。


 それでもさすが王太子!! その圧倒的オーラの前では誰も秘密なんて持てやしない。にっこりと微笑んで尋ねるだけで、二人は簡単に怯えている理由を話してくれた。


「こ、こんな本を扱って……不敬罪になるんじゃありませんか?」


「不敬罪? あぁ、それであんなに怯えていたんだね」

 ウィルが納得したように、二度ほど首を縦に動かした。


 どうやら二人は王族であるウィルバートを想像させるような小説を扱っていることが罪になるのではと心配していたらしい。


 ウィルバートのような高貴な身分の人間が、自分の店で本を買うなんてありえない。しかも選んだのは王太子が決して読むはずのない本だ。これは自分達を捕まえるための証拠品として持ち帰るのでは……二人の脳内ではこんな不安が巡っていたのだろう。


 ウィルバートと話をして不敬罪などにはならないと安心したのか、ナタリーとカールは顔を見合わせて微笑みあっている。


「殿下、その本を買われるのでしたら、こちらも一緒にいかがですか?」

 

 調子の戻ったカールが、早速ウィルに本をすすめ始めた。カールのおすすめを手にとるウィルを見ていると、なんだか自然と顔が緩んでくる。


「私の店にウィルバート殿下がいらっしゃるなんて。しかもあんなに楽しそうなお顔で……」


 私の隣でウィルとカールのやりとりを見ていたナタリーは感激しているのだろう。目にはうっすら涙が浮かんでいる。


「本当。楽しそうですね」

 ウィルが本を選んでいる瞳はキラキラと輝いている。本当にいい笑顔だ。


 一緒にここに来れてよかった。せっかくだから初めての本屋を満喫してほしい。


「アリス様、本日は本当にありがとうございました」


 恋愛小説好きの私のおかげで、ウィルバートが自分の店に来たのだとナタリーは私に頭を下げた。


「アリス様のおかげで一生の思い出ができました」


 一生の思い出なんて大袈裟な。ナタリー達が嫌じゃなければまた遊びに来させて欲しいと言う私に、「お邪魔なわけありません」とナタリーが笑った。


 っと、ナタリーの視線が私の首にとまる。


「これは女同士の話なんですが……」

 そう前置きしたナタリーが少しだけ私の方へ顔を寄せ、小さな声で内緒話のように囁いた。


「もしも殿下との生活にマンネリを感じたらご相談ください。アリス様に喜んでいただける本をご用意しておきますので」


 マンネリ? さっぱり意味が分からない。


「それってどういう……?」


 私の質問が終わらないうちに、ナタリーが「あっ」と小さな声をあげた。


「殿下!! 危ないですからお持ちいたします」

 

 ナタリーがウィルへと駆け寄ったのを見て絶句した。


「ウィル……それは一体?」


「せっかくだから、色々買いたいと思ってね」


 そんな嬉しそうに言われたら何も言えないけど、これはいくらなんでも買いすぎだ。ナタリーとカールが持っている本だけで、すでに30冊は越えているだろうか。


「では、これも2冊お願いしよう。あ、それとこれもお願いできるかな?」


 これってどこかで止めるべきなのかしら?

 ウィルバートの選んだ本の山が高くなるにつれて、私の不安は大きくなっていった。



☆ ☆ ☆



「アリス様、キッスは? キッスはどうなりましたか?」

「殿下、賭けはどうなりましたか?」


 デートから帰った私達を待ち構えていたのはアナベルとルーカスだった。アナベルはともかく、まさかルーカスまで私の部屋で待っているなんて!! 驚く私達に二人が同時に詰めよってくる。


 賭け? 賭けって……

 あっ!!


 そういえば、この二人は私とウィルがデート中にキスするかどうか賭けをしてたんだっけ?


 私が賭けの事を思い出したのと同じタイミングでアナベルがガッツポーズをした。


「ほら見ましたか? あの香水の力は本物なんですよ!!」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべるアナベルと、頭を抱えるような仕草をするルーカスを見て私が困惑してしまう。


「ちょっと二人とも。私達まだ何も答えてないじゃない」

 って聞いちゃいない。


「いいですか? 賭けは私の勝ちですからね」


「仕方ありませんね……」


「あぁ、何をさせようかしら? 楽しみだわ」


「あなたの事ですから、どうせろくでもない事でしょうね」


 どうやら二人とも、アナベルが賭けに勝ったということで納得しているようだ。


「二人とも!! 勝手に話を進めないでよ」


 興奮しているのだろうか、私の声は二人には届かない。


「二人とも楽しそうだねぇ」


 言い合いをしているアナベルとルーカスを見て、ウィルバートがふっと軽く笑った。


 これは楽しそうって言っていいのかしら?


「はぁ……全く……殿下の自制心もまだまだですね」


 ルーカスがわざとらしくため息をつくのを見て、ウィルバートが私の肩を抱いた。


「アリスの魅力の前では、わたしの自制心なんてなくなってしまうよ」

 私の顔を見て、ねっ、と同意を求めるウィルを軽く睨んだ。


 ウィルったら、余計な事言ったら誤魔化せなくなるじゃない。できればキスしてない素振りで誤魔化しちゃおうって思ってたのに。


 あぁこんな事なら、帰りの馬車で賭けはルーカスの勝ちにしてもらうようウィルに頼んでおけばよかったな。


 悪あがきかもしれないけど、やっぱりなんとか誤魔化したい。喜んでいるアナベルには悪いけど、きっとウィルさえ黙ってくれれば大丈夫だ。


「二人とも!! 私もウィルもデートの話はまだしてないんだから、賭けがどうなってるか分からないじゃない」


「いえ。言葉にせずとも見れば分かりますから」


「見れば分かるって、何を見るの?」

 私の言葉にアナベルとルーカスが無言で顔を見合わせた。


「まさかと思いますが、アリス様はお気づきではないのですか?」


 アナベルが状況を確認するかのように尋ねると、「そうみたいだね」とウィルバートはおかしそうに笑った。


 気づいていないって、一体何を?


 アナベルは可愛い子供を愛しむような目で見てくるし、ルーカスはバカにしたような冷めた目で見てくる。

  

 その視線の意味がさっぱり分からない私には不安しかない。


「アリス様、こちらへお座りください」

 アナベルが三面鏡のドレッサーの椅子をひいて私を座らせた。


 鏡を見ろと言われても……特に何か変わった事があるわけじゃない。あえて言うなら、出かける時と比べて多少化粧崩れしてるのが気になるくらいだろうか。


「ちょっと失礼しますね」

 アナベルが三面鏡の一番右の鏡を動かした。

「こうすれば首が見やすくありませんか?」


 確かに首は見やすいけど。首がどうし……ん?

 気づかなかったけど、耳の下の首のあたりが赤くなっている。


「虫にでも刺されちゃったかな?」


 特に痒くも痛くもないからまぁいっか。

 鏡を見ながら首をさする私に、アナベルが「虫さされではないと思いますよ」っと声を投げかけてくる。


「じゃあ何なのかな?」


 私の質問には答えず、鏡の中のアナベルは意味ありげな笑みを浮かべどこかへ行ってしまった。かわりに近づいてくるウィルの姿が鏡にうつる。


「これはね……」

 

 真後ろに来たウィルが前屈みになり私を抱きしめた。


「これはわたしの愛の印だよ」

 

 なんのこっちゃ分からないと思いながらも、今は後ろから抱きしめられている事の方が私にとっては重大だ。


 アナベル達がいる部屋の中で抱きしめられているだけでも恥ずかしいのに、その恥ずかしい姿を鏡で見ているなんて。恥ずかしいのと同時に変な高揚感が湧いてくる。


 私を抱きしめたまま、ウィルが鏡の中で微笑むと首の赤くなった部分に口を寄せた。首にウィルの唇の感触を感じた瞬間、唐突に理解した。


 これってキスマークだったの!?


 こんな目立つ場所にキスマークをつけて歩いていたなんて。アナベル達がすぐに気づいたくらいなんだから、きっと護衛の人達だってすぐに気がついたに違いない。本屋のナタリー達だって……


 ああ、マンネリってそういう意味だったんだ。今更ながらにナタリーの言葉の意味を理解した。キスマークを見たナタリーは、私とウィルは深い関係にあると誤解したようだ。なんだかもう恥ずかしいを通り越して愕然としてしまう。


「もう、ウィル!! こんな皆に見える場所につけるなんて最低です」


 私が本気で怒っている事がウィルには伝わっていないのだろうか? ウィルは悪びれる様子もない。それどころか、この状況を楽しんでいるようにも見える。


「アリスが望むなら、次は見えない場所にキスしてあげるよ」


 私にだけ聞こえるように囁くウィルの声があまりにも甘く、変な妄想が膨らんでくる。もっと怒らなきゃっと思いながらも、もっとキスしてほしいと思う私はいけない女だろうか。

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