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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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18.ウィルバートは頭でっかち!?

「いい加減機嫌なおせよ」

 アーノルドがめんどくさそうな声を出す。


「だいたい腹を立てるのは俺のほうだろ。久しぶりの休みをぶち壊しやがって。俺はまだ街で食いたい物があったんだからなっ!!」


 アリスを街から連れて帰った後、すぐさまアーノルドを部屋へと呼びつけた。

 アーノルドは不機嫌な顔をして文句を言うが、こちらにだって言いたい事は多くある。


 そもそもアーノルドが悪いんじゃないか。わたしに内緒でアリスを王宮の外に連れ出したんだから。わたしだって、まだアリスとまともなデートをしていないのに……


 初めてのデートは気合いを入れ、お気に入りの小説を真似して完璧に用意していた。

 キャンドルでロマンチックな雰囲気の庭園に、アリスもうっとりしていて大成功……と思いきや、まさか両親が覗いているなんて!!


 かくなる上はと、さらに盛り上がるデートプランを練っていたのに。吊橋効果を狙ってアリスを私に夢中にさせようと、恐怖を感じる場所を選考するのに時間がかかってしまった。その間にアーノルドに先を越されてしまうとは。


 アーノルドは、「たかが街に連れて出たくらいで」と言うが、アリスが初めて王宮の外へ出るという記念すべき日を一緒に過ごしたんだから、私が腹を立てるのも当然だろう。


 しかも2人で馬に乗っただと?

 それを許せると思う方がどうかしている。

 

 アーノルドがめんどくさそうな顔でため息をつく。それでもわたしはまだ言い足りない。


「いいかい、アーノルド。馬に二人乗りっていうのは、恋愛初期の二人にとって重要な出来事なんだよ。なぜだか分かるかい?」


 アーノルドは、さぁっと興味のなさそうな声を出した。


「馬に乗るのにまず抱き抱えるだろう? それでまずアリスをドキッとさせる。馬に乗ってからは、アリスを包み込むように手綱を握ることで、またまたドキッとするはずだ。そうやって意識させて、最後にさりげなく耳元で愛を囁けば、アリスはわたしに夢中になるはずだったんだ。それなのに、お前がアリスと馬に乗るなんて……」


 テーブルに肘をつき両手で頭を抱えているアーノルドの前に、ルーカスがグラスを置いた。


「アーノルド様、少々キツめの物をご用意いたしました」


 グラスを見たアーノルドは「助かった」と呟き、ワインをガブガブと一気に飲み干した。空になったグラスを、ルーカスが再びワインで満たしていく。


「だいたいな、そんな風に頭でばっか考えてるから何もできないんじゃないか? ドキッとさせたいだって?」

 アーノルドが、はっと鼻で笑った。


「ドキッとさせたきゃ、抱きしめてキスの一つでもすりゃいいじゃねーか」


「初めてのキスをするために、完璧なシチュエーションを考えているんじゃないか」


 わたしとアーノルドの意見はいつものことながら噛み合わない。


「本当に頭でっかちなやつだな。どうせそんだけ考えたって、結局うまくいってねぇよな。俺を追い返してアリスと二人きりになったくせに、お前らすぐ帰って来たじゃないか」


 ゔっ。

 アーノルドめ、痛いところを突いてきたな……


「あぁ、そうだ。お前はデートしたかったけど、どんな提案しても断られたんだっけな?」


 ゔゔっ。

 ニヤリと笑うアーノルドの顔が悪魔に見える。


「なんだっけか? 俺の邪魔になるなってアリスに注意したんだったか? そしたらお前の邪魔になったらいけないと思ったアリスが早く帰りたがったんだよな?」


 こんな風に自分の失敗を人の口から聞くのは辛いものがある。あまりのダサさに、ため息しか出ない。


「あぁ、他にもあったな。確かお前の広背筋は……」


「分かったよ。分かったからもうやめてくれ」

 たまらずアーノルドの言葉を遮った。


「広背筋に触るか」なんて、どうして言ってしまったのだろうか? 思い出すだけで顔から火がでそうな程に恥ずかしい。


「君の部下達は本当に優秀だな」

「まぁな」

 ため息をついたわたしを見て、アーノルドはおかしそうに笑った。

 

 アーノルドが去った後のアリスとのやりとりが、護衛からアーノルドへと報告されるのは想定内のことだ。けれどここまで細かく情報が共有されているというのは、なんともいたたまれない。


 ルーカスを呼び、わたしにもグラスを持ってくるよう頼んだ。すぐさま運ばれてきたグラスにワインが注がれていく。


 なるほど。ルーカスがキツめだと言っていたが、確かに辛口でガツンとくる。酸味と香味が複雑に絡み合う液体を流しこむと、胃から体に向かって熱が伝わり、気分が高揚してくる。


「だいたいお前、たかがアリスと一緒にいただけでここまで嫉妬するとか異常だろ」


 これくらいの嫉妬で異常と言われるのは心外だ。だいたい恋愛には嫉妬はつきものじゃないか。嫉妬のない恋愛なんて、ライバルの出てこない恋愛小説みたいなものだ。物足りなさすぎて、満足できない。


 とは言っても、嫉妬というのはひどく苦しい。アリスとアーノルドがカフェにいる姿を見た時には言いようのないほどのムカつきを覚えた。


 出会ったばかりのアーノルドに対して、わたし以上に心を開いているアリスを見るとイライラしすぎて爆発してしまいそうだった。


 そして何よりも私が許せなかったのは……


「アーノルド、裸を見せてくれないかい?」


 グラスを口に当てていたアーノルドが、口に含んでいたワインをブッと吹いた。


「おまっ。何言ってんだ?」


 怪訝な顔で私を見るアーノルドに、今すぐシャツを脱いで腹直筋を見せろと言う。


 そう、わたしが何より許せなかったのは、アリスがアーノルドの腹直筋を綺麗だと言った事だ。


 渋々ながらもシャツを脱いだアーノルドの身体をじっくりと観察する。なるほど。こうやって改めて見るとたしかに悪くない。日々の訓練の賜物だと感じさせる筋肉のつき具合は、同性から見ても美しい。


 それに比べてわたしはどうだ?

 ズボンからシャツを引き抜きペラリとめくる。


 決してムキムキではないが、無駄な贅肉もない。美しくもなく、醜くもないと言ったところか。


「別にお前だってスタイル悪くないんだし、気にする必要ないだろ?」


 そう言ってアーノルドはシャツのボタンを首元までとめた。


 いいや気にする。気にしないわけがない。


 今日アリスは初めて男の裸を見たと言っていた。ということは、アリスの中では男の裸の基準がアーノルドの筋肉なのだ。


「いつかアリスと結ばれる時に、わたしの身体を不満に思ったらどうするんだ!!」


 アリスに貧相な身体だと思われたら、わたしはショックで死ぬかもしれない。

 

「んなもん、知るかよ!! 気になるなら部屋を暗くすりゃいいだろ。暗けりゃ腹の肉なんて分からねーよ」


 その手があったか。

 ポンと手をうち一人納得したように頷いた私を見て、アーノルドは左手で顔を覆い首を横に振った。


「マジで親友やめたくなってきた……」


 アーノルドが何か呟いているが、とりあえず無視しよう。そう思ったのだが、「まぁでも、俺はお前があいつと結ばれるのには反対だな」と言われてしまっては到底無視はできなかった。


 アーノルドは常日頃からわたし相手でも遠慮なく意見はするけれど、意味もなくわたしに反対するような男ではない。そのアーノルドが反対するからにはそれなりの理由があるのだろう。


「アリスは素直過ぎるな。考えてることが面白いくらいに顔に出てやがる」


「アーノルドの言う通り、アリスは素直で分かりやすいね。純真無垢と書いてアリスと読んでもいいくらいだ」


「いや、何のんきな事言ってんだよ」と、アーノルドが声を荒げた。


「あんな奴が王太子妃になんかなったら、どう考えてもハイエナ貴族共の餌食になるのがオチだろ」


 まぁそれについては否定はできない。

 貴族社会における騙し合いと足の引っ張り合いは、わたしにとって日常茶飯事だ。上手いこと言って王太子であるわたしに取り入ろうとする者や、あわよくばわたしを利用してやろうと思う者も多い。そんな者達にとったらアリスは恰好の獲物になるだろう。


「お前の護衛責任者であるアーノルド様としてはだな、足を引っ張る可能性がある奴を妃になんてして欲しくはねぇんだよ」


 茶化した言い方をしているが、アーノルドはわたしを心配してくれているのだ。


「確かに素直であるが故に、利用されてしまう事はあるだろうね」


「だったら……」


「でもあれだけ素直なアリスだから、わたしは恋に落ちたんだよ。今までわたしの周りには本音と本性を隠している女性しかいなかったからね」


 前に『ウィルバート様は、私のどこを気に入ってくれたんですか?』っとアリスに聞かれた事がある。


 あの時は内緒だと答えたけれど、わたしがアリスに好意を持ったのは、アリスの怒った顔を見た時だ。息をするのと同じくらい自然に笑ったり、喜んだり、怒ったりするアリスは驚く程に単純で愛おしい。


 無邪気なアリスをわたしだけの世界に閉じ込めてしまいたい。真っ白なアリスをわたしの色に染め、わたしなしでは生きていけないと言わせてみたい。


 だめだ。わたしに愛を囁くアリスの姿を妄想するだけで顔が崩れてしまう。

 コホンと一つ咳払いをして、いつもの王太子スマイルに戻した。


「アーノルドの言う通り、アリスが誰かに利用されてしまう危険性はあると思うよ」


「だろ? だったら……」っと、なおもアリスに否定的なアーノルドを黙らせるのは簡単だ。


「でも大丈夫だよ。なぜならわたしには頼りになる親友と、ひどく優秀な側近がいるからね。二人とも何があってもわたしを助けてくれるだろう?」


 二人がイエスとしか言えないと分かっている上で発言しているわたしは卑怯だろう。二人の微妙そうな顔を見て申し訳なく感じるのも確かだ。


「はいはい、わかったよ。もう好きにしてくれ」


 もうお手上げだとでもいうかのように、アーノルドが手をひらひらさせる横で、ルーカスは困ったような顔で息をついた。

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