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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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17.怒ってますか?

「それはなぁ……」

「そんなことより、アーノルド。君に頼みたい事があるんだ」

 

 ニンマリと笑ったアーノルドの言葉を遮るようにウィルバートが口を開いた。


 頼み事がなんなのか一切聞くことなく、アーノルドは「断る」と即答する。


「俺は今日久しぶりの休日なんだ。お前の頼みなんか聞いてられるかよ」

 吐き捨てるように言うと、足を投げ出して姿勢を崩した。

 

「アーノルド……」

 ウィルバートは何を言うわけでもなく、ただじっとアーノルドを見つめている。


 目で会話してるのかしら?


 アーノルドが小さく数度首を振った後で、大きなため息をついた。


「あぁ、くそっ」


 アーノルドは人差し指で私とウィルバートを交互に指差した。

「いいかお前ら、貸し一つだからな!!」

 

 えっ? えっ? えっ? 私もなの!?

 ウィルバートは「分かってるよ」っと笑っているけど、私にはさっぱり分からない。


「陰険王太子殿下がお望みなんで、俺は帰らせてもらいますよ」


 わざとらしく大きな音を立てて立ち上がったアーノルドの、嫌みたらしい言い方にもウィルバートの微笑みは崩れない。


「じゃあなアリス。近いうちにまた俺の部屋に来いよ。次は見るだけじゃなく、俺の身体に触らせてやるから」


「あ、ありがとう。期待してるね」

 ウィルバートに意味深な笑みを向け去っていくアーノルドに、バイバイと軽く手を振り見送った。


「私がいない間に、ずいぶんアーノルドと仲良くなったみたいだね」


 あれ? ウィルバート様ってば怒ってる?

 ウィルバートの表情は明らかにいつもより硬い。


「どうして二人が知り合いになったのか教えてもらえるかな?」


 ウィルバートの口調には、ノーとは言わせない圧力のようなものがあった。


 アーノルドと知り合った経緯を簡単に説明するつもりが、次から次に質問が飛んでくる。結局王宮で迷子になってから今に至るまでの話をかなり詳しく説明する事になってしまった。


 しかもなぜだかウィルバートは、アーノルドが着替えるために服を脱いだ話にやけに食いついてくる。「それでアリスはアーノルドの身体を見てどう思ったの?」なんていう感想まで聞かれるもんだから、困ってしまう。


「えーっと、腹筋がすごかったです。男の人の裸を見たのは初めてなんですけど、あんまり綺麗なんでびっくりしました」


 私的には無難に答えたつもりだったが、ウィルバートの顔は険しい。


「あ、あの……ウィル?」

 恐る恐る声をかけると、ウィルが真剣な顔で私を見た。


「確かに日々鍛錬してるだけあって、アーノルドの腹直筋は見事だね。でもわたしも広背筋の綺麗さでは負けてないと思うよ」


「そ、そうなんですか……」


 『こうはいきん』って何だろう? 話の流れからして筋肉の名前だと思うけど、どこなのか分からない。


 どう反応していいか分からない私に、なおもウィルバートが「どうだい? 触ってみたいかい?」と身を乗り出すようにして聞いてくる。


「えぇっと……」


 困ったな。何か分からないけど、こういう場合って触った方がいいのかしら?


 きっとアナベルがいたら、「どこでもいいから触れるものなら触らなきゃ損です」ってグフグフ言うだろう。でも「触りたいです」ってガッついて答えるのも品がない気がする。


 イエスともノーとも言えず微妙な反応を示した私を見て、ウィルも微妙な表情へと変わる。


 コホンっと一つ咳払いをした後で、「まぁこの話は置いとくとして、アリスに話しておきたい事があるんだ」

 

 いつもは見せないウィルバートの厳しい表情に自然と背筋がのびる。


「アリスも知っているように、アーノルドは王立騎士団の小隊長なんだ。忙しい身だし、今後は執務の妨げになるような事は控えてもらえるかな」


 あっ、そういうこと!!

 さっきまでウィルバートが不機嫌な顔をしていたのは、暇人の私が自分の護衛責任者と呑気にお茶してたからなのね。


 ウィルバートが予定外にここに来たのは、きっとアーノルドを連れ帰るためだろう。


 あーん。私のせいでアーノルドやウィルバートの執務が滞ってたらどうしよう……


「迷惑かけてごめんなさい。私、何も考えてなくて……」

 ショボンとする私を慰めるように、ウィルバートが私の頭を優しく撫でた。


「大丈夫だよ。ただアーノルドから部屋に来るよう誘われても……」


「もちろん行きません」

 はっきり「行くな」と言われなくても分かってます。もう二度とアーノルドの邪魔にならないよう気をつけなくちゃ。


「よかった」

 ウィルバートのほっとしたような笑みを見て、私の方こそよかったと安堵する。やっぱりウィルバートには不機嫌顔より柔らかな微笑みの方が似合う。


「この話はもう終わりにしよう。せっかくだから、このまま劇場にでも行かないかい?」


 ウィルバートによると、街の劇場は学園の令嬢達に人気らしい。


 劇場……響きだけで楽しそうだ。でも……


「ありがとうございます。楽しそうなんですが、やめておきます。今日はもう……」


「そうか……残念だな」

 一瞬残念そうに目を細くしたウィルバートだったが、すぐにまた笑顔を取り戻した。


「ではアイスクリームはどうだい? 種類が豊富な店があるんだ」


「せっかくですが、すでにレモネードを2瓶もいただいたばっかりなので。今日はもう帰……」


「じゃあショッピングならどうかな? 近くに若い女性に人気の店があるらしいんだ」


「素敵ですね。じゃあ次の機会にでも。今日はもう帰……」


「では……」


 ウィルバートが次から次へと提案をしてくるので、「今日はもう帰ります」というたった一言がなかなか言えない。


 きっとウィルは初めて街に出た私のために、色々と提案してくれているのだろう。忙しいのにほんっと、ウィルってばいい人だ。でもだからってその優しさに甘えてはいけない。


 正直言うと、ウィルの提案したもの全てが魅力的だった。でもただでさえ何の役にも立たない私だ。王宮に住ませてもらい、何ひとつ不自由なく過ごさせてくれてもらってるんだから、せめて邪魔だけにはなりたくない。


「あのウィル……私……できれば今日はもう帰りたいです」 


「えっ、あっ、そうだったのかい? じゃあ王宮に戻ろうか」

 

 そう言って立ち上がったウィルと馬車に乗り込む。向かい合わせに座ったウィルと目が合うといつも通りニコッと笑ってくれる。


 よかった。気を悪くしてるってことはないみたいだ。それでもなんとなく罪悪感のような物が胸につかえている。


「ウィル……今日は本当にごめんなさい。私のせいでスケジュールが狂っちゃいましたよね?」


 ウィルは意味が分からないのか、ん? っという顔をしたが、しばらくして何かを悟ったように「大丈夫だよ」と頷いた。


「わたしの方こそ悪かったね。アリスの初めてのお出かけなのにすぐ帰ることになってしまって。今度はもっとアリスの興味がありそうなものを考えておくよ」


 あぁ、なんていい人なの!!

 気を悪くするどころか、私の興味のない提案をした自分が悪いと思っているなんて。


「違うんです。ウィルが誘ってくれた事、全部やりたかったです」


「ありがとう。そんな風に気を遣ってくれるなんて、アリスは優しいね」


 違う違う。優しいのは私じゃなくてウィルの方だから。

 

「本当に全部興味があったんですよ。劇場に行ってみたかったですし、アイスクリームも食べたかったです。令嬢に人気のお店ってどんなのだろって想像するだけでワクワクしちゃいますよ」


「じゃあ……興味がないのは、わたしにかな?」


「えっ?」

 どういう意味なのかと首を捻る私に、

「一緒なのがわたしではなく、アーノルドだったなら、アリスも帰りたいなんて思わなかったんじゃないかと思ってね」

 ウィルバートは少し寂しげな笑顔を見せた。


 ええーっ!!

 なんでそんな勘違いしてるの!?


「わ、私はウィルと一緒に行きたいですよ」


「そうなのかい?」

 まだ納得してない様子のウィルに、ウィルと行きたくなかったのではなく、忙しいウィルの邪魔になりたくないのだと説明する。


「私がアーノルドと街に出たせいで、ウィルの貴重な時間を使わせてしまったじゃないですか。それなのに、これ以上私のために時間を使わせるなんて申し訳なくて……」


「そんな事気にしなくてもいいのに」


「いえ、気になります。ウィルに邪魔だと思われたくないですから」


「あぁ、アリス……君の事を邪魔だなんて思うわけないじゃないか」


 ウィルはそう言うと、向かいの席から私の隣へ音もなく移動した。隣に座るやいなや、ウィルの腕が私を捕らえる。


「そんな可愛い事を言われてしまったら、抱きしめたくなってしまうよ」


 って、言う前にもう抱きしめてるじゃないですか!!


 座ったまま、ウィルの胸に体を預けるような状態で抱きしめられて身動きがとれない。


 ウィルの手が私の髪に触れ、私の耳を露わにするように髪を撫でる。


「アリス……大好きだよ」

 ウィルの吐き出す息が熱いのか、私の耳が燃えているのか……ウィルの息が耳にかかるたびにゾクゾクとした快感が押し寄せてくる。


「じゃあ今度改めてわたしと街に行ってくれるかい?」


 こくこくこく。

 もう声なんか出やしない。もちろんですという意味を込めて夢中で首を縦に振った。

 

 「よかった。約束だよ」

 ウィルの唇がかすかに私の耳に触れた。


 はぁぁぁぁ……

 このままじゃ街に行く前に天国に行っちゃうかも……


 王宮に帰るまでの間、うっとりと興奮の入り混じった気持ちを抱え、ウィルの胸の中で静かに目を閉じていた。

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