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王太子殿下は小説みたいな恋がしたい  作者: 紅花うさぎ


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12.反対しないんですか!?

「私はウィルバート様のこと、とっても素敵だと思ってます」


「本当に?」


 表情は大きく変わらないけれど、ウィルバートの瞳が少しだけ細くなった。


「アリスはわたしのどこが素敵だと思ってるの?」


「全部です」


「全部じゃ分からないよ」


 ウィルバートがくすりと小さく笑った。

「もっと詳しく教えて欲しいな」


 そう言われても困ってしまう。本当にウィルバート様は全てが素敵なんだもの。


 まず彫刻みたいに整った顔でしょ。背も高いしスタイルもいいし……どんな手入れしてるのかって思うくらいお肌も綺麗だし。


 こんな見た目パーフェクトで王太子という高貴な立場でありながらも、物腰は柔らかく私や王宮に仕えている人にもとても優しく丁寧に接してくれる。ウィルバートのマイナス面を考える方が逆に難しいくらいよ。


「本当にウィルバート様の全てが素敵だと思います。私……初めてウィルバート様にお会いした時、この世にこんな美しい人がいるのかと思って思わず息がとまってしまいました。今もこうして隣にいるだけで、ドキドキしっぱなしです」


 口早に答えてふぅっと息を吐いた。

 ウィルバートは完璧すぎて、その素晴らしさを完全に伝えるっていうのは難しすぎる。自分の語彙力のなさを悔しく思いながら、とりあえず素直に自分の思いを伝えてみた。


「美しいか……」

 ウィルバートがポツンとつぶやいた。


 しまったぁぁぁ。

 よく考えたら、男の人に美しいってどうなの? 

 

 ウィルバートが美しいのは本当のことだけど、美しいって言われても嬉しくないわよね。私の素直な気持ちがウィルバートにとって不快だったらどうしよう。なんだか急に不安になってきた。


「あ、あの……その……美しいっていうのは決して悪い意味ではなくて。そ、そう、私の好きな物語に出てくるヒーローみたいっていう意味なんです。ですから気を悪くしないでもらえたら……」


 うまく伝えようと喋れば喋るほど、言い訳がましくなっていく。そんな私を見て、ウィルバートの口元が再び緩んだ。


「大丈夫、分かっているよ」


 ウィルバートの大きな手がポンポンっと優しく私の頭に触れた。


「わたしがアリスのヒーローになれたら嬉しいな」


 キュンという胸の大きな音が聞こえたような気がした。ウィルバートの顔を直視できず、思わず俯いてしまう。顔がかぁっと火照ってくる。


「ウィルバート、お前……」


 ロバート様の声にハッと我にかえる。

 忘れてた。そういえばウィルのご両親の前だったんだ。ワインを置いたロバート様の真面目な表情に嫌な予感がする。


 小説ではこういう時、身分がどうとか、お前にはもっとふさわしい人がいる、っとかっていう流れになると決まっている。


 ウィルバートは容姿端麗な王太子、かたや私はただの女子高生だから、そう言われても仕方ないんだけど……


 さぁ、こい。どんなキツいこと言われたって、小説のヒロインみたいに笑顔でかわしてみせるんだから。

 

 ごくっと唾を飲み込んで、ロバート様が口を開くのを待った。


「ウィルバート……お前、くさいぞ。いやくさいってもんじゃない。くさすぎるぞ」


「そうですよ、ウィルバート。そんな言葉じゃ女の子は夢中にさせられませんよ」


 あれれ? 

 きつい言葉がくるかと覚悟していたのに……なんだか想像していたのと違うみたい。


「ねぇ、アリスちゃんもくさいセリフだって思ったわよね」


「いえ、そんなことは……」


 メイシー様に同意を求められたが即座に否定した。確かにくさいセリフかもしれない。でもそのくささがなんだかとても嬉しくて、キュンとしてしまったのも事実だ。


「アリスちゃんは優しいのねぇ」

 メイシー様が目を細めた。


 やっぱりウィルバートはお母さん似だわ。

 綺麗なぱっちり二重が、にっこりと細まる時の優しい感じがとてもよく似ている。


「ウィルバートの恋人が、こんな可愛らしい子だなんて嬉しいわ」


「えっ!?」

 驚いて思わず声が出てしまった。


「そんなに驚いた顔して、どうかしたの?」

 ワインを口に運び、満足そうに頷いていたメイシー様が不思議そうな顔で私を見た。


「反対とかって……しないんですか?」

「反対?」


 全く意味が分からないという表情を浮かべ、メイシー様が首を傾げた。


 えぇ〜? なんで反対しないの?

 男性の母親っていうのは、その彼女に厳しいんじゃなかったの? 


「反対って何を反対するのかしら?」


「それは……私なんかが、仮とはいえウィルバート様の恋人役をしている事です」

 

 一瞬きょとんとしたロバート様とメイシー様だったが、数秒後には吹き出すように笑い始めた。


「アリスは反対された方がよかったのかな?」


「そういうわけじゃないです。ただ、ウィルバート様は王太子という立場にいらっしゃるし、こんなにも素敵ですから……私なんかが側にいることを反対されても仕方がないと思って……」


「アリスは自分に自信がないみたいだね。でも、私なんかが……なんて言うのは感心しないよ」

 ロバート様が真面目な顔で、まっすぐに私を見つめている。


「わたしは人を見る眼には自信があるんだ。国王という立場上、毎日さまざまな人間に会っているからね。その中には善人もいれば悪人もいる。アリス、君は間違いなく善人だ。だからそんな風に自分を卑下するのは間違いだ」


「もうロバートったら。善人だなんて、女の子を褒める時に使う言葉じゃありませんよ」


「善人のどこがいけないんだい? 全人類にとって最高の褒め言葉じゃないか」

 メイシー様がわざとらしく大きなため息をついた。


「全く……何もしなくても女性が寄ってくるものだからって、女性を喜ばせる言葉を知らなすぎです」


「男前なんだから仕方ないだろう。君だって、あんなにわたしに夢中だったじゃないか」


 ロバート様のニヤリとした笑みに、メイシー様は鼻でふんっと笑い返した。


「昔の話ですわ。若い頃はわたくし面食いでしたから……」

「今だってそうだろ?」


 再びニヤリと笑ったロバート様を完全に無視しながら、メイシー様がウィルバートへ視線を向けた。


「ウィルバート、あなたもですよ」


「えっ? わたしですか?」


「ウィルバートがさっきみたいにくさいセリフしか言えないから、アリスちゃんに仮の恋人だなんて言われるんですよ。この調子じゃすぐアリスちゃんに捨てられてしまいますよ」


 メイシー様は「アリスちゃんもそう思うでしょ?」っと同意を求めてくるけれど、どう考えても捨てられるのは私の方だ。私がウィルバートを捨てる、なんていう発想が出ること自体が驚きだ。


 チラッと隣を見るとウィルバートは困った様な顔をして苦笑いをしている。その顔が何だか可愛くてほっとする。


「あの……私は嬉しかったです」

「えっ?」


 声が小さくて聞こえなかったのか、三人が一斉に私を見た。


「私は嬉しかったです。ウィルバート様にヒーローになりたいって言ってもらえて」

 集中した三人の視線に、恥ずかしくなって俯いてしまう。


「いやぁ、やっぱりアリスは素直でいい子だなぁ……うちの腹黒息子にはもったいない。アリス、逃げるなら早い方がいいぞ」 


「え? 腹黒息子って……」


 ウィルバートのこと? 

 意味が分からず首をひねる私の横でウィルバートがにっこりと微笑んだ。いつもどおりの笑顔に見えるのに、なんだろういつもより凄みがあるというかなんと言うか……


「父上、飲み過ぎでろれつがまわってらっしゃらないみたいですよ」


 ろれつがまわってないようには見えないけど……

 

 でもそうよね、私の聞き間違いよね? ロバート様がウィルバートに腹黒なんて言うはずないもの。


「さぁ、アリス、話してばかりじゃ料理が覚めてしまうよ。早くいただこう」


 私に向かってそう言ったウィルバートの笑顔はいつもの穏やかなものに戻っていた。


 素晴らしい料理をしばし楽しんだ所でロバート様がフォークを置き、「さっきの話だけどね……」っと話を切り出した。


「わたし達はウィルバートの選んだ女性なら、誰であっても反対するつもりはないよ」


「誰でもいいんですか!?」


「まぁ、簡単に言ってしまえばそういうことになるね」


 誰でもいいって、それって国として大丈夫なのかしら? 王太子って王位の第一継承者でしょ? そんな重要な人の恋人が誰でもいいって……

 

 あっ、そうか!!

 俗に言う、恋愛と結婚は違うってやつね。

 結婚相手はきちんとした令嬢じゃなきゃダメだけと、遊びの恋愛なら誰とでもオッケーみたいなやつ。それなら私とのお付き合い(仮)が反対されないのも納得だ。


「父上はわたしの相手を誰でもいいと思っていたんですね」

 なんともいえぬ表情をしたウィルバートを見てロバート様はニヤリと笑った。


「でもまぁ二人に一応忠告しておくが、国を混乱させるような付き合いをするのはやめてくれよ」


「混乱……ですか?」


 意味が分からない私に、今度はメイシー様が口を開いた。


「例えば駆け落ちしたり、結婚前に子供を作ったりしないでねっていうことよ」


 あぁ、やっぱり。これはある種の牽制だわ。

 ウィルバートがいつか他の女性と結婚する時に、駆け落ちとかせずきちんと別れろって言っているのだろう。


 そもそも私なんかがウィルバート様と結婚できるなんて思ってないから大丈夫。時期がきたらウィルバート様にはキャロラインと結婚してもらえばいいんだし。そしたら私は元の世界に戻れるし、ノックは満足だし、ウィルバート様達も幸せだ。


「分かりました。ご心配されているような事はないとお約束します」

 ウィルバート達を前にキッパリとそう宣言した私の胸はなぜだろう、少し痛んだ。


 ウィルバートの両親とはその後も楽しくおしゃべりをして過ごした。そして夕食後……


「今日は悪かったね。アリスと二人きりの夜を楽しみにしていたのだけれど、まさか父上達が覗いているなんてね」


「いえ、とっても楽しかったです。本当に素敵なご両親ですね。お二人ともウィルのことが大好きなんだってよく分かりました」


 部屋まで送り届けてくれたウィルバートが、

「もういい年なんだから、そろそろ子離れしてほしいもんだよ」っと、苦笑いをする。


 確かに子供のデートを覗き見するのはどうかと思うけど、それくらい心配してくれる両親がいるっていうのは羨ましい。


「次のデートはどこか遠出しようか。そうすれば邪魔は入らないだろうし」


 ウィルバートの手がすっと伸びて私の髪の毛に触れた。大きな手で優しく頭を撫でられると、とても気持ちがいい。


「はい、楽しみにしてます」

 私の頭に触れていたウィルバートの手が止まった。その手が私の前髪をかき分けるように動き、あらわになった額にウィルバートの唇が軽く触れた。


「おやすみ」

 軽く手を上げ、くるっと後ろを向き去って行くウィルバートの背中を呆然と見送った。その姿が通路から消えてもなかなかその場を動けない。


 部屋のドアにもたれながら、ふぅっと小さくため息をついた。指先で額に軽く触れる。まだウィルバートの柔らかい唇の感触が残っているみたい。


 どうしよう……ウィルバートがかっこよすぎて、どうしたらいいのか分からなくなっちゃいそう。


 余韻に浸りながらウィルバートの消えた方角をぼんやりと見つめていると、背中からカタンという音が聞こえてきた。


 不審に思いドアから背中を離すと、ドアの向こうで人の動く気配を感じた。そういえばここにも私達のことに興味津々で、覗きかねない人物がいたんだった。ドアの向こうで、アナベルが聞き耳を立てている様子が頭に浮かんで思わず苦笑してしまう。


 仕方ないなぁ……気分もいいしアナベルの尋問に少しだけ付き合ってあげようかな。そう思いながら、ゆっくりと扉をあけた。

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