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カプカプの夢

作者: 水鳥ふをゆ

「クラムボン」というのは果たして一体何者なのだろうか。

「やまなし」を読む声が響く卒業間近の二月。

薄く開けられた窓からまだ寒い午後の空気が入り込んでくる。

ストーブの熱気と昼食直後で少し眠気が差し火照った体にはそれも少し心地いい。

皆進路が決まり、ゆっくりと安心した空気が流れている。

そのためかクラスの半分ほどが気持ちよさそうに夢の世界へと旅立っている。

先生もわかっているのだろう。プカプカと浮かぶ彼らを降ろそうとはしない。

ひょっとしたらカプカプ浮かんでいるのかもしれない。まぁ、変わらないか。

夢の世界を見ることができるのは同じく夢の世界へ旅立った者だけなのだ。

あ。なしが流れてきた。人間の三倍はありそうな大きな大きななしだ。

どうやら私も今境目にいるらしい。

水の中にいるようでなんだかとても気持ちいい。

あたりを見渡すといろいろな生き物がいた。

真っ黒い山椒魚に天井でもがく鼠。遠くにはなにか灰のようなものが降ってきているところもある。あれは煙草の吸殻だろうか。

そのどれもが私と同じかそれより大きい。

なんて悪夢だ。私は元来生き物が苦手なのである。

時に虫とか蜥蜴なんかはペットにしている人の気が知れない。

どうにもあのヌメヌメとした質感がいやなのだ。

しばらく何も考えず歩いていると——まぁ意識はほとんどないのだが——三匹の蟹とひとつの大きな何かがいた。

あれは何だろう。生き物にも見えるし、全く生命の理の外にいるかのようにも見える。

しばらく考えても全く何も浮かばないのでそこにいるカニに話しかけることにした。

「ねぇカニさん。これはなに」

「これ?これはクラムボンだよ。カプカプ笑っていたクラムボンだよ。」

どうやらこれがクラムボンらしい。驚いた。蟹がしゃべることにも驚いたがそれ以上にこれがクラムボンであることのほうが驚きだ。

宮沢賢治の見ていたものはこれだったのか。なるほど。名前以外の特徴が一切出てこない訳である。

どうにも形容し難い。言葉で表せない形をしている。上位存在とはこんな形をしているのだろうか。

「クラムボン。そうか。これがクラムボンか。」

「そうだよ。これがクラムボンだよ。」

「そうか。」

あんまり見ていると気が滅入ってしまいそうだったので元来た道を戻ることにした。

ふと気が付くと最初に気づいた場所にくるとパンパンと拍手が鳴り響いた。どうやらお迎えが来たらしい。

私の灯澄はこれでおしまいのようである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 題材が素敵です。 美しい情景が浮かびます。 とにかく私はこの小説が好きです。
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