泡沫に消えた国
そこには一切合切何もなかった。ただ殺風景な草原があるだけだった。
そこに、1台の小さな車がやって来た。その車には少女と猫が乗っていた。車が草原の中で止まると、中から少女が出てきて辺りを見渡している。続くように出てきた猫が声をかけた。
「ほらサクラ、やっぱりデマだったんだよ」
サクラと呼ばれた少女が答える。
「シロ、デマだろうとは思ってたけど、それでも夢は見たいじゃない」
「都合が良すぎるでしょ。旅人問答無用で歓迎して豪華な食事をくれるって」
「実際にそんな国もあったじゃない。ペンダントを貰った国とか」
「それ、貰ったじゃなくて奪ったでしょ?まあ先に手を出したあっちが悪いんだけど」
草原に風が吹いて、サクラの長い髪を揺らした。
「…シロ、行きましょ」
「そうだねー。こんなところに留まっても仕方ないし」
サクラとシロは車に乗ると、直ぐに発進させた。砂煙が上がって、軈て何も見えなくなった。
暫くすると草原の地面が割れたかと思えば、
その下からドーム状の国が現れた。
中では偉い人々が会話している。
「危機一髪でしたな。この間の商人のように、また我が国があることがバレるところでしたよ」
「早めに埋め込ませて正解だったじゃろう。我々は決して他人に見られてはならぬ」
「…大統領、それは何故ですか?」
「お主にも言えぬ。さあ、状況を見に行っておくれ」
若い男が退出すると、大統領は小さく
「誰にも言えぬわ。長年やっていたのがバレて、詐欺の犯人として追われているなど…」
そう独り言を呟いたが、余りに小さかった為誰の耳にも届くことは無かった。そして、隠れるように仕向けた若い男が笑っていることにも気づかなかった。
退出した若い男は大統領に負けず劣らずの小さな声で呟いた。
「こうしていれば俺達の犯罪組織が表沙汰にはならねぇ…へへっ」
若い男は笑っていた。本国の組織がサクラと警察に壊滅させられていることなど知らずに。