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第54話「空を切り裂く」

 ──ドラ……ゴン?


 クラウスの呟きに、そのドラゴン?(アークワイバーン)は咆哮をもって答える。


『ギィェエェェエエエエエエエン!!』


 そして、奴はひとしきり叫ぶと周囲を睥睨し低く唸りはじめた。

 『フシュー……。フシュー……』と、火炎交じりの吐息を吐き、まるで獲物を探す様に──。


『グルルルルルルルルル………………グル?』

「う……」


 一瞬、クラウスと目が合ったように感じたものの、すぐにそれは逸らされた。

 ……奴はクラウスなど、毛ほども歯牙にもかけていないのだ。


「お、おにいちゃん……」

「ちょ、リズ────動くなって!」


 クラウスの背後ではリズが起き上がり、

 彼の背中に縋りつこうとするも、メリムがそれを必死で止めている。


(いいぞ、メリム……! そのまま、リズを抑えてろ)


 リズはどこか危なっかしいところがある。

 普段はしっかりしているのに、時々無鉄砲になるのだ。……特に家族のこととなればなおさら。


 こっちに来るな──と、目で訴えかけると、メリムがコクリと頷く。

 ……いい子だ。


 ドラゴンは今のところ──こちらに注意を払っていないが、何がきっかけでパクリとやられるかわかったものじゃない。


 やられるにしても、クラウスだけでいい。

 何も全員が食われる必要などない。


『フシュー、フシュー………………』


 しばらくは、家屋が類焼する音と、ドラゴン?の鼻息が場を支配していた。

 クラウスも構えてはいるが、

 ドラゴンと対峙して勝てる見込みなどまったくない。



 そうして、しばらくはジットリと嫌な空気が流れる────……。

 ……まさに、その時!!




 カンカンカンカンカンカンカンカン!!!


  カンカンカンカンカンカンカンカン!!!




 ──びっくぅッ!!

『──グルッッ?!』




 クラウスも、ドラゴンも驚いて背中を跳ねさせる。

 なんとも、まぁ!! こ・の・タ・イ・ミ・ン・グで────町中に警報が鳴り響いたのだ!!


 よりにもよって──!





『ギィィエィエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!』




(あぁ、クソ!!)

 そりゃ、驚くわな!!!


 当然、いち早く反応したのはドラゴン?(アークワイバーン)であった。

 奴は鐘の音に驚いて、二つもある首を左右に振りその発生源を探そうとする。



(ば、ッか野郎!!)


「──今頃、警報かよ!」


 おせぇええ!!


 つーか! 遅ぇくせに、

 余計な事すんなぁッッ!!


「お、おい……! クラウス、あれ──見ろッ」


 メリムがクラウスにかけより、肩を掴む。

 その視線の先では、言われるまでもなく──町中に響き渡る警報を嫌ってか、例のドラゴンが鎌首をもたげて、その警鐘が鳴り響く「火の見櫓」を睨みつける。


『グルルルルルルル!!』


 幸いにも目標はクラウス達から外れたようだが、それで安全というのもおこがましいというもの。


 いや、むしろ────。


「や、やばいぞ……!」

「こ、これって────」


 リズを背後に庇いつつ、メリムがクラウスの隣に立ちドラゴンが睨む先を指さす。


「間違いない!! あのドラゴン! あそこの櫓を焼く気だぞ?!──……噂に聞くブレスが来るッ!」

「あ、あぁ──だろうな!! ここまで熱が来やがった……!」


 ドラゴンの口から洩れるブレスの兆候だけでこの熱量だ。

 ジリジリと肌を刺す高温に顔をしかめるクラウス。


 ……ただの熱を伴うブレスだけなら、まだいい。

 だが、このドラゴン────普通のそれとは全く違う。


 それどころか、奴からは櫓ごと周囲を更地にしても有り余る威力が放たれそうな気配だ。


『ゴァァァァアアアアアア…………』

「「ひぇ!?」」


 鐘の音に苛立ちを隠さないドラゴン?は、ガパァ! と両の口を開けると、そこに真っ赤な炎を湛える。


 それが、なんと二本の首と口で──二つ……!

 …………あ、あのブレスはヤバいッッ!!


 絶対にヤバい!!!


「め、メリム……!」

「やばいって! あれはヤバいって!! 僕の【直感(インスピレーション)】が、さっきからビンビン言ってるよぉぉおお!」


 ……だろうな!!

 あれで直感が働かないなら、一度死んだほうがいいわぃ!!


「お、おにいちゃぁっぁああん!!」


 ぐ…………。ボケッとしてる場合じゃないか!


 く、クソッッ────リズだけでも!

 せめて、リズだけでも逃がさないと────!!


「リズ、よく聞いてくれ──。俺が合図したら……」



 クラウスが決死の判断をしたとき、



 突如、周囲がシンと静まり返る。

 まるで嵐の前の静けさ……。

 思わずクラウスも、メリム、リズも動きを止めてしまう。



 そして、次の瞬間──────…………!!



『ゴルァァァァ───ァァ───…………』


 ビリビリビリビリビリ!!

 竜光が煌めき空気が振動するッ!



 来るぞ!



「……た、ダメだ! ブレスが来るッッ!!」



 メリムに言われるまでもなかった。

 この段階では【直感】も、クソも、なにもない……。


 だって、見ればわかるもの。

 ……あのドラゴン?(アークワイバーン)の口腔に集まる光の奔流を──。



 キィィィィイイイン……────!



 初めて見るのに、それが分かった。

 なぜなら……クラウスは一度見たことがあるからだ──……。


 初めてであり、

 初めてではない。


 それは、かの有名に過ぎる──勇者のドラゴン退治のお話。

 悪い悪いドラゴンが、王都を焼き尽くし人々を困らせていたという……子供向けのおとぎ話のこと。


 そう。

 あの日──……あの子供の頃、ベッドの中で親にねだったドラゴン退治の勇者の絵本のお話で、


 そこに描かれていたドラゴンが、コミカルに「炎を吐くシーン」がまさにそれで──これだ……。


 今、この場で顕現するドラゴンのブレスは、あれそっくりで──。

 ──やっぱり……ちっとも似ていなかった。


 だって、絵本の挿絵からは熱も感じられなかったし、

 こんなに、凶悪な気配は漂っていなかったし、

 そもそも、絵本には絶望の色が全く見えなかった。



 だけど、これは違う────……。



「り、リズ……!」

「お兄ちゃん……!」



 大事な義妹の手をギュッと握りしめる。

 最後のときは家族と──……。



『ギィィエィエィエエエエエエエエエエンン!!』




 カッッ──────!!!




 双頭のドラゴンが吐くそのブレスは、赤と青の異なる熱の(ほとばし)りで、眼前で合わさり──白く黄色い熱線となって街を焼き焦がす。


「うわぁぁああああああ!!」

「きゃああああああああ!!」


 耳障りな櫓を吹っ飛ばし、ついでに目の前の虫けらと町を焼き尽くしてやると言わんばかりの、ありあまる暴力の熱!!


 それが……。

 ブレスとなり、今まさに放たれんとする。



 そして、(たわ)みに(たわ)んだブレスが……。

 次の瞬間───。




 ────キュン!!




 と、一筋の光が放たれ、、


 発射地点と、

 射線上のすべてが、



 つまり、クラウス達の立つ町の一角が──全て……。



 全て────…………!



  全てが──…………………!



『ギィィェェェエエエエエエエンン!!』


 一切の容赦なく、

 一切の差別もなく、

 一切の例外もなく、




 薙ぎ払われて、消え──────……。





「…………えーい、『空間断裂』ぅぅッ」





 ……────消えたはずの世界の一角で。

 一人の少女が舞い降りる。


「え?」

「なに?」

「だ、だれ?」


 絶望の中の三人に、どこかのんびりと間延びした──場にそぐわない声が聞こえてきた。



「えい、えいえーい!」


 ゴンッッ!

  ゴンッッ!!

   ゴンッッ!!


 そして、それはあまりにも非現実な光景。


「あ、アイツ────……!」


 突如、

 ドラゴンと、クラウス達の間に舞い降りた一人の少女が、腕を滅茶苦茶に振ったかと思うと、三本の亀裂が…………空に奔るッ!



 直後──。



 パキィィイイン!!

  パキィィイイン!!

   パキィィイイン!! と、空間が音を立てる!


 すると、街とブレスを繋ぐ空間が……──まさに、音を立てて三角に割れていく!!


「なん、だ──あれ?!」


 その刹那ッ……!

 エネルギー溢れるままに最高出力で放たれたブレスが──キュゴォォォォオオオオン! と、あの凶悪な熱量とともに──────……音を立てて、深淵に消えていった!



   「え?」

   「は?」



 ぶ、ブレス……は?


 後には、チリチリと空気を溶かす余熱が残るのみで、

 そこに──ズデン! と腰を強打しながら少女が舞い降りた。



 ドテーンッ……!



「痛たた……。失敗。お尻打っちゃった──」

「しゃ……シャーロット?」


 クラウスの驚愕の声に答えたのは、


 猫のような雰囲気。

 小さい線の細い印象の────……。


 ニコッ────。


「うん。シャーロットだよ」


 ドンッ!!


「ぐぇ!」

 まるでタックルでもするかのようにクラウスの腰にしがみついたシャーロットは、いつぞやのように、グリグリと頭を押し付ける。


「クラウス、クラウスー♪ 褒めて、褒めてー! 好きー」



 グリグリグリグリグリ♪♪



「おっふ、おっふ……。はみ出るから、おっふ!」

 絶妙に腹をグリグリとやられて、クラウスの口から妙な吐息が漏れる。

 好き好きーと言って猫の様に絡んでくる少女。


 な、なんなの?


 と、疑問に思ったのもつかの間、至近距離からドラゴンを超えるッほどの殺気を感じてビクリと震えるクラウス。


「な、なんだ──?!」


 恐る恐る振り向くとそこには───……。


「お、お兄ちゃ〜ん……」

 ジト目のリズ。

 ……ひぃ?!

「ち、違う! 誤解だ……」


 誤解も何も、全くないのだが──。とりあえず弁明。

 もう、これは反射行動でしかない。


 い、いや、それよりも!!


 ジト……っと、した空気を間近で感じて、

 慌ててシャーロットを引きはがしたクラウスだったが、その直後に気づいた。


(彼女がいるってことは──)

「ま……。まさか──」


 ……いやな予感。


 しかし、予感的中とはこのことだろう。

 顔をしかめたクラウスがそっと上空を仰げば黒い影。


 シャーロットが舞い降りた直後に、上空を航過していった者たちがいた。


「あれは──」


 そう、言わずと知れた──。



 バサッ、バサッ!!



 巨大な鳥の影……!

 怪鳥(ガルダ)の姿!

 金持ちの象徴──…………。



 ってことは────!!



 ……やっぱり、そうか!

「……シャーロットがここにいるってことは、もしかして!!」

「うん!」




 バサッ!! バサッ!!




「あーっはっはっはっはっはっは!」


 クラウスの癇に障るキザな声!


 やっぱりだ。

 やっぱり来やがった────……!


 こんな時には、絶対しゃしゃり出てくるお笑い軍団───……。



「また会ったじゃないか、クラウスぅ! 元気にしてたかぁ!!」



 あああああ!

 ────クソッッッ!!



 ……やっぱり、いやがった!




 やっぱり来やがった──────!





「こんなところで、何やってやがる!! ゲぃぃぃイイイイイン!」



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