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第50話「洗礼」

「てめぇ、二度とこの界隈でデカい顔すんじゃねーーーぞ!!」


 してない、してないよー!


 ──ドス、ドス!!


「げほっ……おえぇぇえ……」

「おあらぁ! これが、この町流の挨拶じゃぁあ!!」


 そんな挨拶聞いたことなぃ、オボロロロロロロ──!


 ──ぼこぉ!!


「っち、この金は迷惑代として貰っていく────おい、ガキ。その兄さんに感謝するんだな」

「ゲホッ……カハッ──」


 ……お、俺なんもしてへんやんけ──。


「ペッ。カスが────二度と、この僻地の町のクラン『筋肉の戦士たち(マッチョファイターズ)』に逆らうんじゃねーぞ!」


 さーせん。

 二度と逆らいません…………。


 っていうか、そもそも逆らってませんけど──。


「お、お前らぁ! く、クラウス?! クラウス大丈夫かよ!」

「いいから、メリムは下がってろ……」


「かっこつけてんじゃねーーーーーー!!」


 ドッスゥゥ!!


「おうぇええ!」

「おい、クラウス! ど、どけよ! 僕が──」


「い、いいから……! 下がってろッ、おえッ」


 背後にメリムを庇うクラウスは一方的に殴られていた。

 そして、勝ち目がないので、この場を穏便に収めるためには大人しく殴られるしかなかった。


 …………でも、ね。

 一個だけ言わせてくれ……。


 そのクラン名、




 『筋肉の戦士たち(マッチョファイターズ)』って──────ダッサ!!!




「……なんだ、その顔はぁっぁああ!」

「ナンデモアリマてーん」


 ボッコォォォォオン!!


「うぐわーーーーー」


 ゴロンゴロンゴロン。ボッコォォォオン!


 ゴロンゴロンと転がされて壁に激突。

 冗談抜きに頭から埋没した……。


「ちーーーーん……」


 ただ巻き込まれただけのクラウスは、理不尽にもボッコボコにされているのだ。

 ちょっと、クラン名をダサいと思うくらいの権利はあるだろう。


「……けッ、雑魚が。行くぞ、おい」


「うっす!」

「へーい」

「ケッ。命拾いしたな、ショタコン野郎」


 筋肉ダルマをはじめ、

 モヒカン、スキンヘッド、辮髪(べんぱつ)頭のチンピラ―スの4人。


 慣れた様子で、衛兵が来る前に撤収する連中。


 さすが、引き際を知っているらしく、

 散々クラウスをぶん殴ったあと、あの筋肉ダルマはクラウスの本日の稼ぎと消耗品を、すべて奪って去って行ってしまった。


 ……そして、クラウスはといえば、ギルド裏の薄汚い路地で顔面をパンパンに晴らして転がっている始末──。


「うぅ……ゴメン。ごめんよ、クラウスぅ」

「いってててぇぇ……。あ、謝るくらいなら巻き込むなよ」


 …………あと、ショタコンじゃねぇよ!!


 「ペッ」と唾を吐くと血の色が混ざっている。

 口のどこかが切れているのだろう。


「ご、ごめんなさい……。まさかあんなに乱暴な連中だと思わなくて──」


 …………いや。

 いやいやいや、


 いやいやいやいやいや!!


 ──どうみても乱暴者じゃんよ……!



 『筋肉の戦士たち(マッチョファイターズ)』だぞ?



 え? そんなクラン名を真面目に考える人たちだよ?!


 ──しかも、舌にタトゥー入れてましたよ、全員。


 見た?

 見たよね?! 「お前の母ちゃんのピーーーー」って書いてましたよ!!


 もう、柄悪いどころじゃねぇっつーーーの……。


「ホントにごめんよ……。まさか、体張ってまで守ってくれるなんて思わなくて……ショタンコン? なのに」

「ち……。可愛い義妹に、女の子は全力で守れって言われてるもんでね」


 あーいてぇ。




「…………って、俺はショタコンじゃねぇ!!」




「お、女の子かー……てへへ」

 てへへ、じゃねーよ。…………ったく、ちょっと可愛いじゃねーか、ド畜生!


「ふん。これが男ってもんよ──」


 なんとか体を起こし、路地の壁にもたれるクラウス。

 ちょっとカッコイイな、俺。


「ううぅ……。その割に最初、知らんぷりしてたけど、ううう、ありがとー、ごめんよー」


 う、うるせー!!

 巻き込まれたくなかったんだっつの!!


 しくしく泣きだしたメリムを見て、なんとなくリズとダブって見えたので、ポンポンと頭を軽く撫でてやる。


「ま、無事でよかったじゃねーか? 事情はよく知らんが、危ない連中とつるむ(・・・)なよ──」


 さすがに、女の子が殴られるのを座して見られるほど人間捨ててはいないつもりだ。

 もし、メリムが女の子だと連中にバレていれば、もっと酷い目にあったかもしれないしな……。


 よっこらせっと、起き上がるクラウス。

 全身バッキボキだけど、ジッとしていてもしょうがない。


「あ、いでででで……!」


 こりゃダメだ。

 高級ポーションも持っていかれちまったしな。


 はぁ、散々な目にあった。

 今日はもう、家に帰ろう。そして、当分ここには来ない────。


 べ、別に『筋肉の戦士たち(マッチョファイターズ)』が怖いんじゃないんだからね?!

 ほ、ほらぁ、ここって、効率悪いじゃーん?!

 そーじゃーーん!


「……ホントゴメン。ぼ、わ、私にできることなら──なんでもするから!」

「ほぅッ……?」


 ふむ…………。


「なんでも────?」

「う、あ、うん! なんでもする!」


 ほほう。

 じーーーーっと、メリムの全身を見るクラウス。



「う……! なんか、やらしーことはだめだぞ!」



 あ゛…………?!


 何言ってんのコイツ?!


 誰が……。

 誰が────……!



 …………………誰がするか!!




「誰がするかッ!!────誰・が・す・る・かぁぁぁ!!」


 誰がするかッつーーーーの!!!


 しねぇよ!!

 しねぇっつーーーの!!



 つーか、死ねぇえぇええ!!



「俺はロリコンじゃねぇぇえ!!」

 もちろん、ショタコンでもねぇぇぇええ!!

「うぅ! そんな力いっぱい否定しなくてもぉぉお。僕だって結構あるんだぞ!」


 知ってる。

 知ってるけどぉぉおお────!


「……ブチ殺すぞクソガキ!!」

「ひぇ! 僕なんかやっちゃいました!!」


 そーいう、セリフはぁっぁあああ!!


「マジで、やったろうかクソガキぃぃいい!」


 むくぞ!! ビリビリにしたろかぃ!!


「ご、ごごご、ごめーん!」


 ったく……。


「なんでもするなら、悪いけどよ。…………家に帰るから、肩かしてくれ。お前チッコイからきついかもしれんが、……ちょっと動けそうにない」


 あと、ハンカチ貸して……。

 ちょっと、鼻血がすごいの。


「ゲホ、ゲホッ」


 マジでボコボコに殴られた……。

 主に、クラウスが、全身まんべんなく。


「う、わかった! ちょっと待ってろ」


 んしょ、んしょ、とメリムがクラウスの肩に腕を回す。

「お、おも……!」

「がんばってくれ……マジで動けん」


 うんうん、唸りながらメリムがクラウスを引き摺っていく。


「……それにしても、なんであんな連中と?」

「え? あ──その、」


 モジモジとするメリム。


「あ、あのさ。あのあと(・・・・)でさ……。け、結構いろんなとこからスカウトが来て……」


 うん? あのあと??


 あ、

 …………あー中級試験のあとか!


「そのぉ、どっかで聞きつけたのか。ユニークスキル持ちってのは伝わっちゃって……そ、その、」


 あー……。

 多分、ミカ・キサラギのしわざだな。


「はは~ん、大手ギルドやクラン、騎士団からスカウトが来たんだろ?」

「う、うん……。中級になってからいっぱいきた。びっくりした……」


 は! スカウトねぇ……。

 なるほど。コイツはユニークスキルの重要性を分かっていなかったんだろう。


「でも、なんでだろ? す、すぐ解雇されちゃって──」


 ボソボソ、もじもじと顔を赤くして俯くメリム。


「…………だろうなー」


 無礼で喧嘩っ早い。

 そして、世間知らずときたもんだ────。


 俺でも、ぶん殴りたくなるもん。


 ………………まぁでも、これで分かった。


「……で、最近はスカウトの声もなくなってきたところに、ガラの悪い連中──さっきみたいな奴らから声を掛けられたってところか」


 そんで、ホイホイついていったと。


「な、なんでそれを!!」


 分からいでかッ。


「──……そんでもって、報酬で折り合いがつかなくなって喧嘩したと」

「く、クラウスお前!! まさか──……!」ポイす。


 ぐぇ……!!


 クラウスを放り捨てると、ガバリと自分の身体を抱きしめるメリム。


 まるで、


 『陰謀に嵌めようとしている……? ハッ、まさか全部クラウスの差し金だったのかー』みたいな顔をされてるけど────。


 ……んなわけあるかッッ!!


「いててて……メリム! てめぇ!!」


「ひっ。近づかないで! わ、わた──僕をどうするつもり!? はっ、まさか、狭いところに連れ込んで、路地裏であんなことやこんなことを────」


 勝手に妄想して、顔を赤らめるメリム。

 こ、コイツ……!


「あーーーーのーーーーなーーーー」


 路地裏に連れ込まれたのは、俺だっつーの!!

 狭いところに連れ込まれて、ボッコボコにされましたーーーー!!



 …………主に、お前のせいでなー!!



「ひぃ、大きな声を出してナニするつもりぃぃい!!」

「何もしねぇ!! ナ・ニ・も・し・ねぇぇえ! つーーーか、死ねぇぇぇえ!!!」


 クラウスさん、とっても激怒してますよ。


「だ、だって、まるで見てきた(・・・・・・・)みたいに僕の状況を当ててるじゃないか!」

「分からいでかッ?!──見んでも、聞かんでも、分かるわ!!」


 ほんとコイツは……。


「だって、さっき、ショタコンだって言われてたし──」

 ショタ……。

「──ぶっ殺すぞ、てめっぇええええ!!」


 つーか、お前一応、女だろうが!!

 ショタコン関係ねぇぇええ!!


「…………あー、叫んだら余計に痛い」


 高級ポーションも金と一緒に奪われてしまってほぼ文無しだ。

 武器だけは冒険者どうしということもあってお目こぼしされたようだけどね……。


「うぅ……。クラウス、ほんとにごめんよ」

「そう思ってんなら、頼むから巻き込まないでくれ……」


 幸い取られた金も、今の稼ぎで言えばそこまでの大金でもない。

 また稼げばいいだけ。


「今日のことは、貸しひとつだぞ。ったく、おーいてぇ」


 命は助かったとはいえ、こんなことにしょっちゅう巻き込まれてたら命がいくつあっても足りない。


 ……もう二度とごめんだ。


「…………な、なぁ、クラウス」


 メリムをほっておいて、さっさと行こうとしたのだが、そこで思いがけずメリムが正面に回り込んでクラウスの袖をつかんだ。


「なんだよ、金ならねーぞ」

 主に、お前のせいで。

「ち、ちが! そ、そうじゃなくて……」


 バツが悪そうにしているメリムだったが、意を決したように顔を上げると言った。




「ぱ、パーティ組んでくれよ!!」






 …………は?

 寝言は寝て言え。


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