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第42話「小さい男」

※ クラン『特別な絆(スペシャルフォース)』──辺境の町臨時支部にて ※



「負けた……?」


 驚いた……。というよりも何を言ってるんだこいつ? と言った顔。


「は、はい……。も、申し訳あ──」

「ありえない」


 ぴしゃりと言い切ったゲインに、ミカ・キサラギはビクリと体を硬直させる。


「ありえない」

 再度同じ言葉。

 そして、執務室の机の奥でゲインが目を酷薄そうに細める。


「君が負ける……? 『特別な絆(スペシャルフォース)』の幹部でもある、君が? あのゴミカススキルのクラウスに?」

「は、はい……あの、もうしわ」


「……ありえない」


 ぴしゃり。


 何度となくそう言い切ると、ゲインは執務室の椅子をくるりと回転させる。


「あり得ないと言ったんだよ? 俺は────」

「え? あ、その……」


 そわそわとしたミカは、誰かに助けを求めるように部屋を見回す。


 そこには、

 同じく幹部の【天候操作(オテンキねえさん)】のチェイル・カーマインと、【原子変換(アトミックチェンジ)】のグレン・ボグホーズの二名がいた。


 その背後には女戦士の『赤い腕』レインと、

 壮齢の傭兵『暴風』の二つ名をもつアベル・カーマイルも控えていた。


 さらに新人が数名────昇級したてのシャーロットもいる。


「けけっ。いーざまだな、ミカさんよー」

「よしなさいよー」


「「…………」」


 だが、助け舟は期待できず、誰もがミカの視線に手を伸ばさない。

 それどころかグレンはせせら笑い、チェイルは(いさ)めるも積極的に助けてくれる気配はない。


 戦士二人については我関せず。


「あり得ない。あり得ない。あり得ない。ありえなーーーーーーい」


 バァン!!


 机を思いっきり叩いて…………冷えわたる笑顔で、ニコリと。

「ひっ! げ、ゲイン。いえ、ゲイン様! も、申し訳ありません! 申し訳ありません!!」


「……あり得ないんだよぉぉお!!」


 シュンッ。


 一瞬、ゲインの身がブレたかと思うと、まるで移動を感じさせないほどの機動でミカの眼前に立つと、彼女を片手で掴み上げる。


 ギリギリギリギリ…………。


「がっ、かっ、ぁ、く……」

「俺が、何があり得ないって言ってるかわかるか? ああん?」


「も、もうしわけ──かッ……ぐ」

「あのさー。誰が謝罪してくれって言った? 俺はね? あり得ないことが起こっているから驚いているんだ」ポイッ


 ドサッ。


「がハッ、はっ、おぇぇえええ……!」


 荒い息をつくミカを見下ろし、そして、部屋のメンバーを流し見る。


「あり得ないよな? あり得なくね?…………失敗? 失敗した? なぁ──────チェイル」

「え?………………あッ!」


 ガッ……!


「な、なにを────!?」


 一瞬で、チェイルの眼前に移動したゲインは、彼女の顔面を掴み、床にねじ伏せ押し付ける。


「がぁ!! い、いた! いたい、いたい!! 止めてッ!」

「あ?!────やめて……だ? あ゛ぁ゛ん?!」


 ギリギリギリギリ……!


「けけ。(なぁに)を自分は関係ないって顔してるんだか──」

 グレンはニヤニヤとチェイルを見下ろす。

「ぐ、グレン、てめぇぇぇえ…………」


「おいおい、俺は関係ないだろ? お前が悪いんだろー?…………半端な仕事をしたお前がよ」


「な、なにぃ?」


 チェイルは地面に押さえつけられて、なお闘志は()せていない様子。

 グレンを床から見上げてもう凄い目つきで睨みつける。


「おっ、お~い。俺を無視してグレンと会話するとかどういう了見だ、あ?!」

「ご、ごめん。あ、す、すみません────ゲインさま!」


「おいおいおい、おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおーーーーーーい。……誰が謝罪を求めた? あ゛?!」

「で、ですが────」


 チェイルはわからない。

 なぜこんなにも無様な目にあわされているのか、わからない……。


「チッ。察しが悪い女どもだ────」

 グレンはふんぞり返って言う。


「────チェイルぅぅ~。そもそも、ミカが小汚い地下に行く羽目になったのは誰のせいだ~?」


 誰のせい?

 誰のせいって──────…………。


 ムクリ……。

「あ、アンタがぁ…………。アンタが山でヘマしたせいでしょ! アンタがぁぁあ!」


 床に転がっていたミカがユラリと起き上がると、

 「がっぁぁああ!」と、火を噴かんばかりに紛糾する。


「アンタが手を抜いて! アンタが天候操作で適当に雪を降らせるだけで手を打たないからぁ! アンタのせいで予備戦力のアタシが出る羽目になったんでしょう!!」


「な! なんですって!!」


 チェイルには寝耳の水の話だ。

「私は! 言われた通りに!! 妨害したでしょ!!!」


 やりたくもない仕事を、渋々やってやってこの仕打ち!


「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさーーーーーーーい! 俺を無視して会話しろなんて俺は言ってなーーーーーーい!」


 バァン!!


「ゲインのほうがうるさいなー」


 思いっきり叩かれる机の派手な音に、部屋の隅で丸くなって寝ていたシャーロットがふわわーとあくびをする。


 そして、

「んー…………? まだ、続くのー?」

 そして、チラリとパーティメンバーの顔色を一巡すると、

「……寝る」


 そういって、

 「カー……カー……」と、またすぐに寝息を立てた。


 その様子に、一瞬毒気を抜かれたようなゲイン達であったが、

「そ、その……。わ、私はクラウスに負けたわけではないのですが……。その、あの……。に、人形をすべてやられ────と、逃走を余儀なくされました」


 ヨロヨロと起き上がったミカが、悔しそうに顔を歪めて言った。


「…………それを負けたというのだよッ!!」


 バァン!!


「ひぃ!」


「あり得ないだろう?! なんであんなカスのクラウスごときに、君が負ける?!……えぇ!! 奴を放逐するに任せた俺の見る目がなかったということか、あああああん!!??」


「──ひ、ひ、ひぃぃぃ!!」


「君にはガッカリしたよ。【生命付与(ライフオブライブ)】がねー。……まさか、まさか、まさか、まさか、自動で家に帰るだけの(・・・・・・・・・・)()に負けるとはね」


「ち、ちが……!」


 ギロッ。


「で────……君だよ、チェイル。……チェル、チェイル、チェイル、チェーーーーーイルぅぅ────……君は、何をしていた? 『東雲の深山』は君に一任したはずだが?」


「そ、それは──……。そんなこと言われても!! わ、私は言われた通りにやったわよ!」

「は…………?」


 言・わ・れ・た・通・り・に・やっ・た──だぁ……?


 ははははははははははは────……。


「……言われたとおりにやっていますというのは────アホぅの言うことだぁああ!!」


 バァン!!!


「きゃあ!!」

 思いっきり叩く机の音に、チェイルが首をすくめる。


「結果が伴わなければ。それは、失敗というんだ!!!」


 バァン!! バァン!!


「くそ!! クソッ、クソッ、クソッ!! どいつもこいつも使えないッッ! 下級のカスユニークスキル保持者一匹に振り回されやがって!!」




 …………『それはお前だろう』と、部屋にいた人間はほぼ全員が思っていたが何も言わない。




「俺たちは最強のはずだ!──そうだろう、グレぇぇぇえン!」

「あぁ、そうだ。俺たち(・・・)は最強だ。俺・た・ち・は──な」


 ……チラリとミカとチェイルを見下すように見ると、グレンは鼻で笑う。


「だが、こいつ等この程度さ。いい機会じゃねーか。使えない女どもはさっさと解雇して、もっと使えるメンバーに入れ替えようぜ」


「ふん……そう簡単にはいかないよ。──自分から辞める(・・・・・・・)のは自由だけどね」


 ……チラリ。


 ビクリ!!!

 ゲインの意味深な視線に、背中を震わせる女二人。


「しかし、困ったね……。実に困った」

 ゲインはゆっくりと執務椅子に戻ると腰掛け、回転いすでクルクルと回り始めた。


 その動きに誰も何も言えず、ジッと立ったまま待っているしかない。


 うーーーーーーん。

 ふーーーーーーむ。

 うーーーーーーん……。


「……………………うん! 決めた」


 ニコッ。


「全員、雑魚(・・)認定だね」



「「「……は?!」」」



 あんまりな言葉に、グレンを含め、ミカたちもポカンと口を開く。


「……だってそうだろ? ミカは全力で戦った。チェイルは精一杯努力した。グレンは仕事はしたけど、直接交戦していない────ということは、だ」


 チッチッチ。

 ゆる~く指を振りつつ、



「──もしかしてー……。クラウスの野郎が成長しているんじゃないかなぁぁぁああ??」




 ニィィィ…………。


「そ、それは……、その」

「う、うん……、その」


 チェイルとミカも歯切れ悪そうに頷く。

 特に直接交戦したミカは認めざるを得ない。


 策を(ろう)して、満を持して最大戦力で挑んだにもかかわらず一蹴されてしまったのだ。


 しかも、その後無様に助けを求めて────……。



   死にたくない


    死にたくない



 あの時の光景を思い出してゾッとする。

 墓所の奥から飛び出してきた超上級のグールに怯えた自分と、それを救おうとしたクラウス。


 その格の差に目をつぶることはできない。


「……うん。異論はないみたいだね。では、全員、クラウス以下のクソ雑魚野郎として、鍛えなおそうか」

「な、なんだと?! き、聞き捨てならねぇ!!」

「そ、そうよ! いくら何でも、それは言い過ぎよ!!」


 次々に抗議するメンバーに対してもゲインは聞く耳を持たない。


「そうと決まれば、強化合宿だねー。ふふふ、パパに連絡して魔石の手配とレベリングを準備しよう。レイン、カーマイン────万事整えてくれ」


「「御意」」


 一礼して去っていく二人と、


「ふわぁぁぁ…………。よく寝た」


 一人マイペースなシャーロット。

 起き上がるとテフテフと部屋を出て行こうとする。


「ちょ、ちょっとシャーロット?! どこいくのよ!」

 ミカの制止の声に一度振り返ると。


「ご飯」


 それだけ言って振り返りもしな────。


「あ、ゲイン」

「ん? どうしたんだい? シャーロット」


 ゲインの目をジッと見つめるシャーロットは、

「──ん~とね。クラウスは強いよ?………………ここにいる誰よりも、」


 な?!


「ほ、ほっほ~ぅ……。しゃ、シャーロットはそう思うんだね?」

「うん。……最強だよ。私、クラウス好きー♪」


 それだけ言うと、ふんふ~ん♪ と鼻歌交じりに部屋を出てクランの食堂に向かったシャーロット。

 それを見送るゲインの背中はプルプルと震えていたが……。


「ふくくくくくく…………」


「げ、ゲイン?」

 訝しむグレンの声にも意にも介さず、


「ふはははははははははははははははは! 笑わせてくれる! あのクソ雑魚が最強だぁ?! 自動で家に帰るだけ(・・・・・・・・・)で最強たぁ、笑わせてくれるじゃないか! ふぁーーーーっはっはっはっはっはっはっは!!」







 バァン!!






「全員出ていけッ!!」



「「「ひぃぃい、は、はいいいいいい!!」」」



 バタバタと走り去っていくメンバーを見つつ、その背中に言葉をぶつけるゲイン。



「────今日から全員、レベリングを開始する! もう、いっさいの妥協は許さない。敗北も、逃走も、ましてやクラウスごときに後れを取るなど許さない!!」


 ドガァッァアア!!


 執務室の扉をけ破ると、クランハウス全体に響き渡る様に大声を上げた。



「本日より、わが『特別な絆(スペシャルフォース)』は、強化期間を設定し、幹部を含め全員のレベリングを開始する、覚悟しておけッッッッッ!!」




 うがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!




 ハウス全体を揺るがすほどの大声を上げると、ゲインは関係部署に連絡を飛ばし、金に糸目をつけずになりふり構わぬレベリングを開始するのだった。


お読み頂きありがとうございます



中級編です





そして、次回……。

────クラウスめっちゃ頑張る




「ぐぉぉぉおお…! ブクマを…」


    _:(´ཀ`」 ∠):


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