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第4話「自動資源採取」

 ギルドを出たクラウスは、乗合馬車に揺られて狩場に向かっていた。

 その途上で、別々に点在する他の狩場に向かう冒険者、その他パーティが次々に降りていき、馬車の密度が一気に少なくなる。


「ついたぞ、坊主。気を付けてな──」


 御者の爺さんが言葉数少なく送り出し、ギルドの乗合馬車が呆気なく去っていくと、クラウスは一人ポツンと街道に残された。


 もう少し行けば、目的の狩場につくだろう。

 各地にある狩場の最寄りまで送ってくれる乗合馬車は遠征する際に重宝する。


「さて……」

 馬車が遠くに消えるまで見送ると、クラウスはスキルを使用する。

 久しぶりの使用だが、今日試す『自動資源採取』のウォーミングアップにはうってつけだ。


 ──スキル『自動移動』!



 ブゥン……。



 ※ ※


 《移動先を指定してください》


 ●街

 ●フィールド・ダンジョン

 ●その他


 ※ ※


 もちろん、フィールドを指定する。

 すると、ステータス画面に、ズラズラズラーと、これまでに行ったことのあるダンジョンやフィールドが表示されるのだ。


「えっと、……あっと、『毒の沼地』」


 3年も冒険者をしていれば色々なダンジョンやフィールドにトライしている。

 もっとも、下級の狩場限定だけどね。


 それでも、それなりに行ったことのある狩場は多く、その数あるダンジョン群のなかから、『毒の沼地』を指定すると、


 ※ ※


 《移動先:毒の沼地》

  ⇒移動にかかる時間「00:03:22」


 ※ ※


「近ッ!──そりゃそうか」


 それだけ、ギルドの乗合馬車が気を使って近くまで送ってくれたということなのだろう。

 感謝感謝。


 じゃ、さっそく──。


「──発動ッ」


 フッと、意識が飛び────…………気付いたときには目的地に立っていた。


「おぉ……相変わらず、酷い匂いだ」


 意識の戻ったクラウスの目の前には、うっすらと靄の立ち込める寂しい沼地。

 ここは、街から少し離れたフィールドで、名を『毒の沼地』という。


 人気はなく、どこからともなく爬虫類の不気味な鳴き声が聞こえてくる寂しい場所だ。


「あいかわらず、だーれもいないな。まぁ、毒の魔物や、瘴気が酷い場所だし、回復士(ヒーラー)不在のパーティが挑むところじゃないもんな。アンチポイズン(毒消し薬)だって、タダじゃないし」


 しかも、毒消しは万能ではない。

 一度毒を消しても、時間をおいて毒を食らえばまた「毒症状」に陥るのだ。

 つまりここにいる限り、際限なくアンチポイズンが必要になる。


「ま、だけど、その分スキルの実験には向いているよな」


 クラウスがここを選んだ理由はただ一つ。

 人がいないからだ。


「──せっかく【自動機能(オートモード)】がランク3に進化して『自動資源採取』を習得したんだし、ハズれとはわかっていても一回くらい試さないとね」


 まずは、スキル使用後のクールタイムを確認。

 スキルというものは無制限・無制約に使えるわけではなく、発動直後はしばらくクールタイムが発生する。


 体調や、スキルの難易度にもよるが、『自動移動』後のクールタイムはおおよそ一分。


(……そろそろかな? よし、じゃあ新スキルの実験だ)


 体感的に一分くらい経ったろうと感じると、新スキルを試すクラウス。

 まぁ、新スキルとはいえ、『自動資源採取』。

 その名の通り、せいぜい無意識のうちに資源を集めてくれるスキルだとわかっている。だが、やらないよりは一度くらい試しておいた方がいい。


 そのためには無人の場所に限る。

 そっと、『毒の沼地』を見渡すと人っ子一人いやしない。


 なんで無人の場所を選んだのかって?

 ……だって、無意識で動くんだぜ?


 ──白目をむいてセカセカ動き回っている自分を想像すると、さすがに人に見られたくない。って思うだろ?!


 もちろん、自動機能中の自分を見たことがないからよくわからないんだけどね!

 だけど、嫌なの!!


「っと、そろそろやってみるか」


 まず、毒で死んではたまらないのでしっかりとアンチポイズンを準備する。

 予防のために一本のみ、残りはポーション入れに格納。


 ちょっともったいないけど、今回限りと思って、思い切って奮発したのだ。

 昨日の稼ぎが大きかったのもクラウスの行動を後押しした。


「さて……」



 ──スキル『自動資源採取』!



 ブゥン……。



 ※ ※


 《採取資源を指定してください》


 ●草木類

 ●鉱石類

 ●生物類

 ●液体類

 ●その他


 ※ ※


「へぇ……。こうなってるんだ。ちょっと『自動移動』に似てるな」


 つまり、項目分けされていて、それを開くとさらに細部に分かれているのだろう。


「じゃ、このクエストアイテムを取ってきてね──俺」


 そっと、懐のクエストを確認するクラウス。

 『毒消し草の採取』


 そう、この毒の沼地ではアンチポイズンを作成するための必須アイテムである毒消し草が取れるのだ。

 しかも群生しているので沢山……。


「さて、こうやって選べばいいのかな──────って、え??」



※ ※


《採取資源を指定してください》


 ●草木類

  ⇒キリモリ草、毒消し草、石化草、マヒ消し草、目薬の木、力の種、マッチョ草、フォートレスフルーツ、魔力草、敏捷ナッツ、アンチマジックの根、マンドラゴラ、ドラゴン草、浮力草、etc


  ⇒杉、松、楢、樫、黒檀、檜、胡桃、栂、梅、竹、etc


  ⇒リンゴ、キウイ、梨、柿、ライム、レモン、ブドウ、大根、リーキ、キャベツ、レタス、アザミ、ニンジン、ブロッコリー、ニンニク、セロリ、芋、大豆、インゲン豆、ひよこ豆、etc





「………………………………………は?」




 ────え?


 な、何これ?



「え、うそ。ま、マジか……?」


 クラウスは呆気に取られて目を見開く。

 そして、茫然とステータス画面にズラーーーーー……と、並ぶ草木類の名称を見て口まで開ける。


 だってそうだろ?


 雑草はスギナから、弟切草まで。

 樹木は松の木から黒檀まで。


 さらには、

 見たこともない植物まで、採取可能になっているんだぜ?


「…………ま、マンドラゴラって、マジかよ?」


 ──マンドラゴラ。


 錬金術に欠かせない魔法植物で、採取には多大な犠牲を払うことで有名である。

 特殊訓練された犬を使い切る非情な方法でしか採取できないとされていて、非常に高値で取引される。


 そもそも、生息域が不明で、採れるといわれる地域ですら発見は困難であった。


 っていうか……。

「──お、俺、マンドラゴラなんて触ったことも見たこともないぞ?!」

 自動機能の特性として、クラウスの経験に基づいていることがこれまでの使用検証でわかっている。

 移動先は、最低でも一回は訪れた場所でなければ行くことはできず、同様に触れたことのあるものしか採取できないはず────。


 ならばどうして……?


「あ! まさか!!」


 ある!!

 そういえば一度だけある!


 冒険者ギルドに登録した時に受けた研修で、危険植物やら、希少植物の授業を受けた覚えがある。

 その時にサンプルとして、手に取ったような気がする……。


「ど、どーりで……」


 ドラゴン草やら、浮力草なんていう希少植物まで採取可能になっているわけだ。

 まぁ、指定しても採取できるとは思えないけど────。


 それでも、採取可能資源に入っているとは、それだけでも驚きだ。

 ……逆に言えば、触るだけでいいということだろうか?


 それなら、どんな高価なものでも一度触れてしまえば────……。


「────いや。今はど、毒消し草だけでいいのよ、毒消し草だけで……」


 ひとり、無人のフィールドで首を振るクラウス。

 いくら高価な資源でも採取に困難が伴いそうなものはおいそれと指定できない。


 だからまずは……。


「検証から、ね」



 ※ ※


 《採取資源:毒消し草────「数量指定を指定してください」》

  ⇒採取にかかる時間「??:??:??」


 ※ ※



「おっふ……一個でいいのよ、一個で」



 ※ ※


 《採取資源:毒消し草×1》

  ⇒採取にかかる時間「00:00:10」


 ※ ※



「………………は、早ッ?!」


 え?

 10秒?!


 え?


「早ッッッ!!」


 いくら群生地だからって早すぎない?!


 いや、でもまずは試しに……。



「──発動ッ」



 フッと、いつもの【自動機能】を使ったとき同様に意識が飛ぶ────…………そして、気付いたときには、


「す、すげぇ…………本当に採取できてる」


 クラウスの手には新鮮な状態の毒消し草が、握りしめられていた。

 しかも、採取状態は最良で……。


「ほ、本物だよな? っていうか、移動距離僅かに数歩分?……目視距離にあったものを自動で探し出して、採取したのか──近くにあったのに全然気付かなかった」


 いつの間にかクラウスは数歩分移動しており、毒消し草が小さく群生している場所に立っていた。


 ……ちょっと待てよ。

 もしかして、

「数を多めに指定したらどうなるんだ?」


 ドクン、と心臓が跳ねる。

 普段なら探すだけでも時間のかかる薬草採取が一瞬にして終わりそうな気配に、静かに興奮する。


「よ、よし、試してみよう」


 クールタイムを確認しつつ、

 目の前に30本の毒消し草があるのを確認しつつも、クラウスはスキルを発動する。



 ※ ※


 《採取資源:毒消し草×30》

  ⇒採取にかかる時間「00:04:10」


 ※ ※


 確認!

「30本抜いても、4分弱か……すげぇ効率的だな。よし、30本以上ならどうなる?」



 ※ ※


 《採取資源:毒消し草×31》

  ⇒採取にかかる時間「00:12:23」


 ※ ※



「お、近くにある資源の量を超えて、大幅に増やしたら採取時間が跳ね上がった?」


 ……ということは、


「目の前の資源を採取して、さらに近くにある資源を採取する時間が加算されたっていうことか?……だとしても、すげぇ効率的だぞ!?」


 今回引き受けた『毒消し草の採取』クエストはノルマが10本だ。

 そして、それだけで報酬は銀貨10枚。一本あたり銀貨一枚換算である。


 ──それほどに、『毒の沼地』での採取は危険を伴う上、非効率的でもあった。


 なにせ、アンチポイズンの値段が一本当たり銀貨3枚と比較的高価なのだから。

 銀貨一枚のために、銀貨三枚を費やす馬鹿はいない。(もちろん、群生地をうまく発見できれば、その限りではない)


「やべぇな、自動資源採取────! 俺、【自動機能】のことを誤解していたかもしれない」


 先日は外れスキル極まれりとすら思ったものだ。

 『自動帰還』に、『自動移動』。そして、『自動資源採取』……。


 先の二つはともかく、ランクが3に上がってからの自動資源採取は極めて有効であることがわかった。

 これで、レベル上げはともかく、採取クエストの効率が格段に跳ね上がるだろう。


 『霧の森』で採取できる「キリモリ草」だって、報酬は安いが大量に採取すれば、街との距離が近いだけに大金を稼げるかもしれない。


「は、はは…………。す、すげぇぞ【自動機能(オートモード)】はッ!」


 今回はたまたま毒の沼地の奥に入ることなく、群生地を見つけることができた。

 もっとも、普通は沼地の際に生えていることはまれなので運が良かっただけだろう。


 よし、

 よし、よし!!


「──せっかく来たんだし、乗合馬車の巡回が来るまで採取して採取しまくるぞー!」

 クエストのノルマは10本。

 それ以上採取した場合は、ノルマ報酬よりは下がるが、買い取ってくれるのだ。

 採取しない手はないだろう。


 半日に一回狩場を回る馬車が来るまでにまだまだ時間はある。

 そうしてクラウスは思う存分「毒消し草」を採取するのだった。



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