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第35話「メリム」

 パチパチ……。

 パチっパチ……パキン。


 焚火の音に目を覚ますクラウス。

 弾ける薪の音が耳に心地よい────。


「う……」


 開いた視界の先にはオレンジに輝く雪の塊があった。

 どうやら、うめき声はその中に吸収されてしまったようだ。


 ……??


「こ、ここは────………………あッ」



 リズ!?



 体を刎ね起こしたクラウスは、思わず何か体に掛かっていたものを跳ね飛ばしてしまった。

 それは随分温かいものだったらしく、途端に寒気に全身が震えだす。


「……寒ッ」


 今のは──も、毛布……?

 いや。それよりも──────……ど、どこだここ?


 よい香りのする毛布を跳ね除け、

 周囲を焚火の明かりの中見わたすと、どこかの閉鎖空間にいることが分かった。


 空気の流れがほとんどない場所──。


「雪の下……?」


 そっと、周辺を探るために気配探知を発動すると……。




   ……わーーーーーお♪



 なぜか隣にきわどい恰好の少女……Aが。


「んん~? あれ? 毛布は……?」

 目をこする少女と目が合うクラウス。


 だが、口はパクパクと動くばかりで────。


「お、お、お、お、お、」


 思いっきり、挙動不審になるクラウス。


「あ?! お前──クラウス、ようやく起きたな!」

 ──ようやく起きたな」、じゃねぇわ!!

「お、お、お、お、おま! おまおまッ──!!」


 クラウスの跳ね飛ばしたもの────厚手の毛布と、…………少女A。

 見覚えのある背丈と、聞き覚えのある口調。

 そして、顔────……。



 メリム



「お前、女だったのかーーーーーーーーー!!」





 しかも、めっちゃ薄着やんけ?!

 ほぼ下着やんけーーーーーーー!!


「ふ、ふふふふ、服着ろ! 上着とか、はやく!!」

「え? 服……きゃああ!!」


 「僕」「僕」と、僕ッ子なので、てっきり男のクソガキかと思っていたのだが、メリムのやつ……!


 だが、ところがどっこい。

 出るとこは出ているし、中々の美少女────ってちゃうちゃう!! みてない見てない!!


「み、みみみみ、見るな! みたなーーー!!」

「見てない! みたくて見たわけじゃない!!」


 あああーーーーー


 あーーーーーー


 あああああああああああ!?!?



 あーーーーーもーーーーーーーーーー!!


 もう、いっぱいいっぱいじゃーーー!


 なんなん?!

 お前なんなん?!


「つーか、なんだよ?! なんで、お前人の寝床に薄着で潜り込んでいるのよ!! 犯罪やで、犯罪!!」

「ばーか! どっちかって言うとクラウスの方が犯罪だ、ばーーーか!!」


 体を抱きしめてクラウスから距離を取ろうとするメリム。


 ……知るか! なんもしとらんわ!!

 全部、色々不可抗力や!!


 つーか、おれは何もしてねぇ!! ゆえに悪くない──キリッ!


「だいたい勝手に入ったわけでも、入りたくて入ったわけでもないやい!!」

「じゃなんで────いづッ!」


 ビシィ! と指さそうとしたクラウスの五指が、ビキピキと悲鳴を上げた。

「いててて! な、なんだ?!」


 見れば、両の手と────両足にも包帯が巻かれて、何か軟膏のようなものが塗られていた。

「なんだこれ? いたたた……!」


 意識が向いた途端、痛痒い鈍痛が手足に奔る。


「ばか! む、無理やり動かすなよ……! ゆっくりと、ほぐせ(・・・)って。じゃないと──もげる(・・・)ぞ」


 もげる?

 もげるって、何がぁぁぁ?!


 何にもしてないのに、もげるの?!

 ナニしても、もげるの?!

 

「指ぃ!! 指だよ指!……落ち着けって! 指が凍傷にかかってるの!!」

「え? 指? と、凍傷…………うわッッ」


 ようやく事態が呑み込めたクラウス。

 包帯をすかして見える指先が、ドス黒く染まっている。


 そして、今自分がいる場所も今になって把握。

 どうやら、雪上に作られたカマクラの中だとようやく気付いた。


「……むぅ。ようやく気付いたか? 察しが悪いよ、もぉー」


 そういって、恥ずかしそうにいそいそと上着とローブを着込んでいくメリム。

 それをボケラー……と眺めていたクラウスだが、不意に顔を赤くしてそっぽを向く。


「ん、んなことより、なんで俺の布団に──」

「俺の──じゃない、僕の布団だよ。クラウス……お前、凍死寸前だったんだぞ」


 へ?


「と、凍死…………?」


 うそ……。

 マジで?


 リアリィ??


ホント(リアリィ)。……ったく、ようやく追いついたと思ったら、山頂に化け物の死体とクラウスが倒れてるんだもんびっくりしたよ」

「ま、まぁ、ビックリするわな……。つーか、よく追いつけたな」


 クラウスでさえ、自動資源採取を使用して、最短距離で来たのだ。それをこんなチッこいガキが……。


「足跡を追っただけだよ」


 そっけなく言うと、いつものローブで顔をすっぽり覆ってしまう。


「はぁ…………すまん。助かった」

「ん。いいよ。……仲間だろ?」


 な、


「────仲間じゃないが……。うーむ、まぁ恩人だな。…………できる限りの恩は返させてくれ」


 なし崩し的に仲間にさせられそうなので、そこは線引きを忘れない。

 だが、恩知らずなつもりもない。


「んだよー。命を助けたら、もう仲間だろぉ?」

「飯をたかったり、言葉遣いがなってないガキはちょっと……」


「むぅ!」


 ぷくぅ、と頬を膨らませるメリム。

 こうしてみると、確かに女の子だ。


 フードをはいだ下には、薄く青い髪をツインテールにまとめ、同じ色の瞳と抜けるように白い肌。

 野暮ったいローブの上からではわかりづらいが、結構女性らしい体形をしているっぽい。オッ…………っと、いかんいかん!!


 ブンブン首を振って妙な幻想を振り払う。


「……で、なんで俺を追いかけるんだ? 俺はただの年季が入っているだけの落ちこぼれ下級冒険者だぞ?」

「そんなの知らない。僕の『勘』がいっているの──クラウスと行けって」



 …………………は?



「か、勘??」

「うん────僕のユニークスキル【直感(インスピレーション)】が、お前……クラウスについて行けって。ニヒッ♪」


 いや、

 どやぁ……って、顔をされてもね。


 なぜか胸を張るメリム。

 あ、結構大きい………………って、ちゃうちゃう!!


「う、う~む……」

 ──しかし、ユニークスキル持ちとはね。


「あー……なんだ、お前もユニークスキルを持ってたんだな?」

「お前もって………………クラウスも?」


 いつの間にか、クラウス呼び。呼び捨てが定着してるし。

 まぁ、「お前」呼ばわりよりはいいけど。


「あぁ、『特別な絆(スペシャルフォース)』にいたって知ってるだろ?──ま、それもこれも、俺のユニークスキル【自動機能(オートモード)】ってやつのせいというか、おかげというか……」


「ほぇー。聞いたことないな」


 こっちのセリフだ。


「まぁ、変わったスキルさ。メリムのも十分変わってそうだけどな」


「まぁなー。このスキル【直感】はさ、なんていうか──ここぞというときに、ビビビ! とくるわけよ。で、それに従えばたいてい間違えることはないのさ」


 ふふん! と自慢げなメリムだが。

 …………すでに色々間違えているような気もする。


 大丈夫か? そのスキル。


「で、直感に従ってお前を追っていったら、山の上で凍死しかけてたってわけ」

「お、おう……。さ、サンキューな。…………で、何で薄着に?」


 ジーと見つめる、クラウスの視線に気づいて、身体を抱きしめてパッと顔を赤くしたメリムは、


「し、仕方ないだろ! お前が死にかけてたから、なるべく人肌で温めてたんだよ!!」


 お、おいおいおい……。


「言い分はわかったが、そりゃ迷信だ────」

「な、」



 なんだってーーーーーーーーーーーー!!



 キーン!! ビリビリビリと、今日一番の金切り声を聞いたクラウスは失神しかねないほど、仰け反る。


「び、びびび、びっくりしたー!!! いきなりでかい声出すなよ!」

「出すよ!! 出しちゃうよぉぉお! 僕も恥ずかしかったんだからね!!」


 いや、知らんがな……。


「わぁった、わぁっ~たよ。町についたら何かで埋め合わせするから」

「ホント?! やったー! 僕、丸一日ご飯食べてないんだ!! だから奢ってねー」


 にひひーと笑うメリムに、苦笑を返すクラウス。

 飯くらい、いくらでも奢ってやるわい──────って、


 しかし、そこでハタと気づく。


「…………丸一日?」

「うん」


「試験残り時間は?」

「ん~……? 多分、あと8時間くらいかな?」


 ……んなッ?!


「ということは、今は次の日の昼過ぎか?!」

「そ、そうだけど……。雪がやむまで動けないぞ?──もう、今回は、」


 いや、それは問題じゃない。

 雪は恐らくもう止んでいるはず。


 なぜなら、この雪は────。



 ドスンッ!!


「ひゃ! か、カマクラが!」

「あぁ、外気で溶けてきたな」


 メリムの、カマクラを作るというアイデアはよかったが、無駄に分厚く作ったため外の様子が分からなかった。


 そのために、気付くのが遅れたのだろう。


「え? え?」


 落下した天上の一部からのぞく空。

 そこから恐る恐る外を確認して目を丸くするメリム。


「うそ……。雪が全然ない」

「そりゃそうだ。昨日の悪天候はどっかの性悪女の仕業さ」


 そう。

 『特別な絆(スペシャルフォース)』のユニークスキル保持者、チェイル……。


「す、スキルで雪を降らせる奴がいるの?!」

「あぁ、すんげぇ根性悪い奴がね」

 

 ほえー。と口を開けるメリム。

 だが、彼女には悪いが少々急がねばならない事情ができてしまった。


「メリム。帰ったらいくらでも恩は返す。だから、先に行かせてもらっていいか?」

「え? そ、そんな……。仲間だろ?」



「違う──────悪いことは言わない。俺なんかに構わないほうがいい」



 下手をすりゃ、死んでいたような奴だ。

 クラウスは他人の命の責任を持てるほど自分が強者などと思っていない。


 ましてや【自動機能(オートモード)】は、他人のことなど気にかけてくれないのだ。


「俺はユニークスキルの都合上、どうしてもソロにならざるを得ないんだ」

「そ、それって──」


 戸惑うメリムを制して、クラウスは装備を整える。

 周囲にはジャイアントフットの屍があったので、手早くドロップ品を回収する。


「世話になったことは本当に感謝している。ありがとう……。だけど、行かなきゃならない」

「お、おい!」


 呼び止めようとするメリムを置いて、クラウスは【自動機能(オートモード)】を発動させる。


 彼女を置いていくことになるが、それも仕方のない事だ。

 【自動機能】に同行者を同行させる機能はない。


「──雪がないから、ここは普通のフィールドに戻っているはずだ。出現する魔物も下級くらいだから安心していい」


 少なくとも、ビッグフットみたいな中級の魔物が蠢く山中を突破してきたのだ、メリムの実力がないとは思えない。


「ほ、ほんとに行くのか? おいていくのか?!」

「ついてくるのはとりあえず保留だ。すきにすればいいさ。ただ、俺の言いたいのは────」


 ブゥン……。


 ──スキル『自動移動』!


 ※ ※


 《移動先:東雲の深山》

  ⇒移動にかかる時間「00:29:28」


 ※ ※



「────ついてこれるか、どうかだ」



 それだけを言うと、クラウスはすぐにスキルを発動。

 フィールド内で自動移動を使うと、入り口付近に戻れるのだ。


 それを使って、一瞬にして下山する。

 すると、気が付いたときには荷車を止めておいた麓に戻ってきていた。





 すまんな……。

 メリム。


 このまま、アイツらにやられっぱなしってわけには行かないんだよ。




 そして、いい度胸じゃねーか、ゲイン。

 おれの【自動機能】が昔のままだと思うなよ──。





 ※ 『東雲の深山(雪山化)』での成果 ※


 ~ドロップ品(討伐証明)~


 ビッグフットの尻尾×8



 ~ドロップ品(素材)~ 


 ビッグフットの毛皮×8



 ~ドロップ品(魔石)~


 魔石(中)×2⇒使用済み

 青の魔石(中)×1



 ~クエストアイテム~


 クルメルの実×5(自動採取)

 幻のナッツ×5(自動採取)



 ※ ※ ※


 中級昇任まで、

 クエストアイテムの残り、あと一種類──。


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