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第28話「スペシャルフォース」

「奇遇だね、クラウス──────まさか、まだ(・・)ここにいたのかい?」


 そうやって芝居がかって声をかけてきた若い男をクラウスは冷めた目で見る。


「あぁ……。まだ(・・)、ここにいるぞ?」




 チリリ……!



 空気が微妙に張り詰めたことを周囲の人間も理解したのだろう。

 スゥ──と、空気が僅かに冷えたような気配を感じる。



 そうか……。

 数年ぶり────か。



 …………あれは、

 そう、あれは3年前のスキルを発現した日のことだった──。


 ※ ※


 当時、15歳になり無事にスキルを発現した少年少女たちは喜びあっていた。

 そして、なんらかのスキルを発現したものは一同に集められ、それぞれに合った職業を選んだ。


 なかには、すぐにスカウトから声を掛けられるものもいた。

 もちろん、そこには変わったスキルを得ていたクラウスも混ざっていた。


 コモンスキル

 ユニークスキル

 レアスキル

 タブースキル


 いくつかあるスキルのうち、

 クラウスに発現したスキルは、世にも珍しいユニークスキル【自動機能(オートモード)】だった。


 それは、記録にもない不思議なスキルで、発現当初は大騒ぎになったものだ。

 いわゆる、ユニークスキルというやつで、発現率は1000人に一人でも多いほど。しかも、二つとないスキルとあって大いにもて(はや)され有頂天になったクラウス。。


 注目され、チヤホヤされるのは慣れなかったが、……悪い気分ではなかった。

 まるで、自分が世界で唯一の至高の存在にでもなった気分だ──。


 ……すると、それほどに希少なものであれば各国や各機関が獲得に動くというのも道理だろう。


 実際に多数のスカウトや研究機関からお声がかかり、クラウス一人では対処しきれないほどだった。

 当時は、まだまだ子供でありながらしっかりもののリズのおかげで、悪意ある大人の甘言からは逃れることができていたのだが、


 たった一人────クラウスが心を許してしまったものがいた。


 ……それが同期の、ゲイン・カッシュだった。


 彼も同じくユニークスキル持ちで、なにより同じく冒険者を目指す人物であった。

 クラウスも、当時から親の影響もあり、ユニークスキルの活かせる道は冒険者しかないと考えていたので、大いに意気投合したものだ。


 そして、ゲインは夢を語った。



 最強のクランとパーティを作り、ゆくゆくは一国一城の主になって見せるという────。



 たかだか15歳の子供の言う夢だ。

 普通なら一顧だにしないだろうし、鼻で笑ってもよかった。


 だが、ゲインにはそれを裏付けるだけの実力があり、何より────彼の家は男爵という低いものではあるが貴族という特権階級に属していたのだ。


 そんなゲインの理想に、クラウスは一も二もなく飛びついた。

 まだまだ15歳という夢にあこがれる年ごろであったのも大きいだろう。


 財力で爵位を買ったと言われるゲインの家は、文字通りの財閥で、

 その、ゲインの持つ力と財力────そして、国を手に入れるという壮大な夢におぼれてしまったのだ。


 今思えばっ恥ずかしいことこの上ない。

 黒歴史と言ってもいいだろう。


 しかし、ゲインは本気だった。


 自身がユニークスキルを持っていることを知るや否や、かねてより準備していた高Lvの冒険者や、情報網を活用して次々にユニークスキル持ちやら、レアスキル、そして、数多(あまた)の実力者を取り込み始めたのだ。


 それが新進気鋭の冒険者クラン『特別な絆(スペシャルフォース)』だ。


 そして、クラウスは────。

 チヤホヤのされ過ぎで有頂天になっていたこともあり、クラウスもユニークスキルをうまく活用してくれるのはゲインだけだと妄信し、結局様々な誘いの声を断り、ゲインのパーティの『特別な絆』に加入することになった。



 それが、…………………そう。3年前のこと。



 そして、自分の実力と、残酷なまでの現実をまざまざとみることになったのだ────。



 ※ ※


 ゴッゴッゴ……。

 わざとブーツの音を立てながらクラウスに近づくゲイン。

 当然、当時よりもはるかに実力をつけているのだろう。纏うオーラも、身に着ける装備も段違いだった。


「うーん、懐かしいねー。もう、2年は顔をみせてくれなかったんじゃないかな?」

「そうだな……。あれから随分経ったよ」


 懐かしそうに目を細めるゲインに対して、クラウスは無表情のまま。



 ……当時は、10人を超えるユニークスキル持ちと、同数の高Lv冒険者がいた『特別な絆(スペシャルフォース)』。

 彼らは、クラウスとは違い、本当に優れたユニークスキルを発現し、使いこなしていたのだ。



 ゲインのユニークスキルは【時空操作(タイマー)

 スキル名が示す通り「時空(時間)」を操る能力で、……一言(ひとこと)でいえば最強のスキルだ。


 ランクが上がるにつれ、どんどん強力になっていくのだが、ランク1の時点でこのユニークスキルの性能がぶっ飛んでいた。


 【時空操作(タイマー)】Lv1は、『時間停止(タイム)』の能力。

 極めて短時間ではあるが、対象または世界の時間を止めるという……。


 その間、対象の時間は止まり──……一方でゲインは自由自在に動くことができる。


 世界の時間を止めている間など、ゲイン以外のものは全て止まっているというのだから、その能力がいかに破格のものであるかは分かるというものだろう。


 そのほかにも当時の『特別な絆』には多数のユニークスキル所持者や高Lv冒険者がいた。

 『暴風』と二つ名を持つ傭兵や、

 『赤い腕』の異名を持つ歴戦の女戦士を始め、


 ユニークスキル所持者でいえば、今日この場にいる残る3人が代表格だろう。


 チェイル・カーマイン:【天候操作(オテンキねえさん)】のユニークスキル。

 グレン・ボグホーズ:【原子変換(アトミックチェンジ)】のユニークスキル。

 ミカ・キサラギ:【生命付与(ライフオブライブ)】のユニークスキル。


 といった、この3メンバーも、上記のように規格外のユニークスキルを所持していた。

 能力の詳細は割愛するが、まぁ名前を見れば何となく想像がつくというもの……。


 他にも『特別な絆』には、

 多数の「ユニークスキル所持者」や、「高Lv冒険者」やサポート要員もいたが、今ここにはゲイン以下4名しかいなかった。おそらく、別行動をしているのだろう。


(だが、中心メンバーがわざわざここに何の用だ?)


 ──かつてはそこにクラウスもいたのだ……。

 あの人外クラスの化け物ユニークスキル所持者たちの中に──。


 そうさ。連中に比べれば、今も昔も……彼らの中にあって、クラウスは確かに浮いていた。

 いや、「浮いていた」などというその言葉ですら生易しい……。



 はっきり言えば、「雑魚」だ。



 他のメンバーが天候を操作したり、時間を停める能力を持つ中、クラウスはただ一人、【自動機能(オートモード)】を有していたにすぎなかったのだから……。



 ランク1で『自動帰還』──。



 全員が戦闘面で絶大な力を誇るスキルを繰り出す中で…………クラウスは一人、自動で家に帰るスキルを発現していたのだから──。


 笑っちゃうよな……。

 ……はは。

 (わら)われたよ……。


 ま、その後のことは聞くまでもないだろう?

 『特別な絆(スペシャルフォース)』に加入して、ひと月もしないうちにクラウスの居場所はなくなった。



 無能(・・)能力者

 ごく潰し

 自動寄生マシーン(オートパラサイト)

 勝手に家に帰るだけの男



 様々な二つ名に、悪意ある嫌味や噂が尾ひれをつけてパーティ内に流れ、そして、冒険者ギルドでも誰もがクラウスを(さげす)んだ。

 ユニークスキルを持ちながら、仲間に食わせて貰っている情けない男だとして……。


 もっとも、クラウス自身は親の影響もあって、冒険のイロハだけはずぶの素人(・・・・・)よりはマシだったはず。

 ただそれだけ……。


 だから、やめた。

 こっちから願い下げた──。


 しかし、言い訳も何もしたくなかった。


 あまりにも格差のある能力に打ちのめされていたし、

 なによりも、仲間たちの視線がすでにあまりにも痛く厳しいものだったのだ。


 ゲインだけは、クラウスの能力にも発展性があるとして、ランクを上げさえすれば何かの役に立つと言ってくれた。


 そして、わざわざ大金を使ってまでして魔石の魔素をクラウスに吸収させくれた。

 そのうえで、パーティ内に示すように【自動機能(オートモード)】のランクアップの便宜(べんぎ)を図ってくれた。


 …………今思えば、ランク2にあげるだけなので、それほどの大金ではなかったのだが……。

 当時のクラウスからすれば、数Lv上げるだけの魔石を惜しみなく使ってくれるゲインに恩義まで感じてしまった。


 そして、あとは知っての通り【自動機能オートモード】Lv2は『自動移動』……。

 一度行ったことのある目的地に、自動で移動するだけ(・・・・・・・・・)のスキル──。



 『自動帰還』とさほど変わらない外れスキルそのものであった。



 あとはもう、ただただ情けなくて……。恥ずかしくて────。

 ゲインと袂を分かつべく、彼のもとに向かっていた。



 その時、クラウスは決定的にゲインたちと相容(あいい)れないと知らしめられることになった。


 そう。

 パーティで借りている屋敷──クランハウスの一室にて、ゲインとその側近たちの会話を偶然にも耳にしてしまったのだ。


 ※ ※


 あれは、雨の降りしきる夕方のこと。

 当時、クラウスは日々積み重なるパーティ内での圧力に耐え切れず、ゲインのもとにパーティ脱退の意思を告げるべく戸を叩こうとしていた。


 クランハウスの最上階。

 ゲインの自室の前に立ち、ドアをノッ……。


   「ゲィ──……」


「おい、ゲイン! いつまであのごく潰しをパーティに置いとくんだ? 俺はいい加減我慢の限界だぜ」

「そうよッ。アイツのおかげで私たちの評判も落ちるじゃない。何よ【自動機能(オートモード)】って、バッカバカしい!」


 そういって口汚くクラウスを罵るグレンとチェイルの声。


「……実際どうするんですか? さすがにこれ以上は、足手まといどころではありませんよ? ゲインが言いにくいのでしたらワタクシが──」


「ミカ……」


 引導を渡そうとするミカの声を遮るゲイン。

 その声には苦渋が(にじ)んでいるようにすら思えた。


「それはできない。……彼に声をかけたのは俺だよ。数多のスカウトをかき分け、多数の勧誘の甘言をねじ伏せ、俺が声をかけた。そして、俺が彼のスキルに目をかけたんだ────その意味が分かるかい?」


「い、意味って……その、」


 ミカがしどろもどろになり口を噤む。

 険しい顔のゲインに、グレンとチェイルも押し黙る。


「君らが言うのは、ね。俺に『人を見る目がない』と、言っているのと同じなんだよ? そうなのかい、ミカ──」

「え? あ……。ううん!! ううううんん! そ、そそそそ、そんなことない!!」



「そうだろ?」



 ニコリと、微笑むゲイン。その目はちっとも笑っていなかったが……。


「だ、だけど、じゃ。じゃあ、どうすんだ? さすがに、他のメンバーだけじゃなく、傭兵や雇いの冒険者の目もあるぜ?」

 グレンはムッツリと押し黙りつつも、絞る様に声を出す。

「──だから切り捨てるというのかい?」

「そ、それは……」

「いいかい? 人の目ってのは、面倒なものだよ?……役にたたないメンバーを切り捨てる『特別な絆(スペシャルフォース)』を、ギルドや国や騎士団。そしてほかのクランやパーティはどう見る?…………きっとこう思うだろう。──アイツらは金にものを言わせて優秀なメンバーをそろえているだけ(・・)のパーティだ、って」


「そ、それは……!」

 グレンは衝撃を受けたように押し黙ると、

「そんなこと──!」


 かわりに、ミカが何とか言いつのろうとするが、


「いや、なるほどな。……ゲインの言う通りだ。だが、これで合点がいった……。どーりで回りくどくても、奴に冷たく当たるよう俺らを(けしか)けたわけだ」


「なぁるほどー。さすがリーダー。そこまで考えてアイツをハブにしてたんですね! いやーそんなことまで考えなきゃだめなんですねーパーティのリーダーって」


「おいおい……人聞きが悪いな。実際、おまえらも嫌っているんだろ? くくくくく」


 なん、だと……?


「いや……。実際、参ったよ……。まさか、あんなに使えないユニークスキルがあるなんてさ。俺たちはランク1の能力でさえ、ベテランの中級冒険者を凌駕できるんだよ」

「たしかに……。まさか、ウププププ! じ、自動で家に帰る能力だなんて!」


 うぷぷぷぷ。


 そこまで聞いたとき、クラウスはそっと扉から離れた。

 あとのことは想像に難くない。


 うぷぷぷぷ

 くっくっく

 くけけけけ



「「「「ぎゃーーはっはっはっは! 無能にもほどがある!!」」」」



 ぎゃはははははははははははははははは!!


「くくく。わ、笑わせるなよ、皆──。と、とにかく、ここまでうまくいっているんだ。あとはきっかけがあればいい、そうすりゃ向こうから辞めたいって言ってくるさ──」


「了解、了解────でも、それでもしつこく居座るならどーするの?」


 ミカのずけずけとした物言い。


「あぁ、その時はしょうがない……。レイン、」

「ハッ」


 部屋の中にはもう一人。

 古代遺跡で見つけたという義手をつけた凄腕の女戦士──上級冒険者『赤い腕』のレインだ。


「……きっと彼は不幸な事故にあうだろうさ、不幸な不幸な事故にね──そうだろ?」

「──仰せのままに」



 ………………あぁ、そうかよ。ゲイン。

 そんなに抜けてほしいなら、面倒な手順を踏むなよ……。



 皆に聞かせたくないならコッソリ教えてくれればいいものを────。

 最近の冷たい態度や、ギルドで流れる無能なクラウスという噂は、こー言うことだったのだ。


(悪かったなゲイン。……もう、面倒はかけないからさ──……)


 彼らに実力行使に移られるよりも先に、まだ関係がかろうじて良好なうちにクラウスは決心した。

 わずかな給金は、全て魔石代金の足しにしてくれと返還し、受け取っていた装備もすべて差し出した。


 もちろん、ゲインはいつものリーダー然とした態度でクラウスを引き留めてくれたが、それが演技であることは既に知っていたので、聞き入れることなくクラウスは『特別な絆』のもとを去った。


 その背後で、ゲインが薄く笑っていたことも見えていたが、あえて言及もしない。


 そうだ。

 もう、この関係は終わったのだ────。


 こうして、クラウスは世にも珍しいユニークスキル持ちでありながら、たった一人で冒険者をしていくことになる。

 数年で役立たずだの、無能スキルだのと言う噂は、今となっては随分風化してしまったが……。

 その間、誰一人としてクラウスとパーティを組んでくれる仲間はおらず、結局今の今までソロで通すはめになってしまった。


 とはいえ、ユニークスキル持ちが貴重であることには変わりなく、この町のギルドでは研究を引き続き打診してきたし、

 小さな国の騎士団からは、たまにスカウトも来ていたりした。


 まぁ、すぐにクラウスのユニークスキルが本当に使い物にならない外れスキルだと知った時、彼らも周りから姿を消してしまったけどね……。


 結局、3年近く時間をかけてようやくランク3にまで上がった【自動機能】が真価を発揮しだすのは──本当に最近の話だ。

 そして、ゲインはクラウスがソロで一人黙々と下級冒険者で甘んじている羽目になる原因を作った男なわけで……。


 ※ ※



「そうか、二年か…………。長いようで短かったね」

「あぁ、そうだな────」


 再びこうして会うことになるなんてな──。

 できれば二年後も三年後も…………二度と顔を見たくなかった相手だ。



 ゲイン・カッシュ。 



 ユニークスキルと高Lv冒険者だけで構成されたクラン『特別な絆(スペシャルフォース)』のナンバーワンで……。





 カリスマリーダーの皮を被った偽善者────。




 そして、

(……いつか、顔面にパンチをお見舞いしてやりたい相手だ!!)




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