第18話「すっごいレベルアップ!」
夕闇鉱山のクエスト。
『魔光石の採掘』依頼書1枚あたり、魔光石20個──それを10枚分も達成だ。
冒険者認識票に蓄積される実績は下級クエストでも、(比較的簡単なものではあるが)一日で達成する量としては破格のもの。
しかも、ドロップ品や魔光石(特大)と(極大)の追加報酬は、きちんと銀貨で支払われた。
「ありあとあした~!」
「ほーい。じゃ、あとはよろしくお願いしま~す」
テリーヌがギルドマスターの部屋から出てこないので、
他のやる気のなさそうなギルド職員からドロップ品の換金を受け取ると、ホクホク顔のクラウス。
ジャリーン……♪
〆て金貨で43枚と銀貨で63枚と銅貨45枚だ!
(内訳は、スケルトンジェネラルの素材が金貨30枚で、
ケーブスパイダー素材が銅貨45枚、
青の魔石が金貨3枚で、
クエスト成功報酬が魔光石(大)200個分の銀貨1000枚=金貨で10枚。
それと、追加のデカい魔光石が銀貨63枚)以上なり!
「す、すげぇな……。マジかよ」
今日も今日とて、すさまじい稼ぎだ……。
「これだけありゃ、いい剣の一本や二本買えるな──……いや、でも、この前買ったばっかしだしな~」
うむむと、頭を悩ませながらパンパンに膨らんだ財布を抱えるクラウス。
「…………ま、そのうち、もっとレベルが上がったら考えようかな」
とりあえず、貯金の方向で──と、いったん保留し、その足でギルドのレンタルコーナーに顔を出していた。
なぜレンタルコーナーか?
そう。ここに顔を出したのは、とある理由から。
それを思いついたのはダンジョンの最中のことだったが──。
「……いらっしゃい」
愛想の悪そうなギルド店員に迎えられ中に入るクラウス。
そのまま、カウンターを素通りし、ブラブラと店の中に足を踏み入れると、目をキラキラと輝かせながら飾られている武器防具を眺める。
──男の子なら誰だってわかるでしょ?
ほらほら、見てみてー!
武器ですよ! 武器!! 武ぅ器!!
「うわ、高そー」
『アダマント』のメイスに、
『オリハルコン』のクレイモア。
『白金』のブレスレットに、
ベヒモス皮の小手。
それらの触れたこともない物を手に取るクラウス。
「ほ~……。こりゃ、精霊石の魔法杖か……」
精霊魔法の媒体に適した精霊石を使った魔法杖。
装飾はシンプルだが、
キラキラと輝く精霊石が美しい──……。
今までは、万年下級冒険者ということもあり、遠慮してレンタル品には手を出していなかったが、今は事情が違う。
年嵩のギルド職員が「冷やかしはごめんだよ!」とばかりに、
ジッー……とクラウスを見る厳しい視線に気づかないふりをして、手当たり次第に試着に、試し切り。
ベタベタと触りまくる。
「おー……。これが──ミスリル製か~」
最後に手に取ったのは、軽くて丈夫な『ミスリル』製のダガー。
店内の照明を受けて、ヒィィイン! と刃先まで光が滑る。
「こーゆのが欲しいなー……」
でもお高い……。
すっごくお高い。
レンタルで金貨500枚の保証金に、一日のレンタル料が金貨1枚。
──はい、無理ー。
「ま、コイツを手に入れるのは、おいおいとして……」
──よし、そろそろいいかな?
下級冒険者のクラウスがベタベタと装備品を触るのを、ジッと見張るギルド職員。
(と、盗りゃしね~から……)
だけど、
こっそり……。
「(ステータスオープン)──ボソッ」
ブゥン……。
※ ※
《採取資源を指定してください》
●草木類
●鉱石類←ピコン
●生物類
●液体類
●その他
※ ※
《採取資源を指定してください》
●鉱石類
⇒魔光石(小)(中)(大)(特大)(極大)、
浮力石、魔鉄、霊光石、叫声石、猫啼石、
オリハルコン(NEW!)、
アダマント(NEW!)、
精霊石(NEW!)、
ミスリル(NEW!)、
石炭、水晶、琥珀、鉛、錫、ニッケル、鉄、鋼、銅、銀、金、白金etc
⇒砂岩、泥岩、礫岩、凝灰岩、玄武岩、花崗岩、閃緑岩、角閃岩、緑色岩、岩塩etc
⇒魔石、人骨、獣骨、魔物の骨(下級)(中級)、ドラゴンボーンetc
※ ※
イェス!!
き、
きた!!
きたきたきたーーーーーー!!
「来たーーーーーーーーーーーーーー!!」
「……あ゛?!」
突然奇声を上げるクラウスを訝しく見るギルド職員。
おっと、
「ごほん、ごほんッ。ナンデモナイデスヨー」
(危ない危ない。別に万引きしたってわけじゃないんだけどさ……)
こっそり、資源採取のために高価な素材にタダで触れるというのも中々心苦しくもある。
ちょっぴりズル臭いし……。
(って今さらだよな。……いやいや、そんなことより──)
よっしゃーーー! ミスリルとオリハルコンが採掘できるぞ!)
早速検証──……!!
『自動資源採取』、起動ッ!
ブゥン……!
※ ※
《採取資源:ミスリル》
⇒採取にかかる時間「125:23:12」
※ ※
※ ※
《採取資源:オリハルコン》
⇒採取にかかる時間「182:44:31」
※ ※
はい、遠い~!
「うん……うん、まぁわかってた──」
オリハルコンやミスリルがそんなにホイホイ採れるわけないってことくらい。
ま、
「採掘できるようになっただけマシかな」
少なくとも、一度触れさえすれば資源が採取できるようになったので良しとしよう。
それを確認したクラウスはレンタル装備を棚に戻し、「へへへ……」と愛想笑いをしてレンタルコーナーを抜けていった。
まさか、初素材をインストールするために触れていたとは言えず──。
「今度はご用命を~」
「あ、はい」
やけに「今度」を強調するギルド職員。
クラウスはその目から逃げるようにギルドを退散した。
「さって、飯食って今日は休もうかな。スケルトンジェネラルとの激戦で、なんか体の節々が痛いし……」
実感は全くないものの、『自動戦闘』では、相当無茶をしていたらしい。
ティエラに高級ポーションを貰っていたからいいようなものの、下手をしたら筋肉痛だとかで動けなくなっていたかもしれない。
「はぁ、今日は魔石を使ったら早く寝よ。リズー、お兄ちゃんが帰ったぞー」
ガチャ……!
「遅いッッ!!」
「ふぉぉあ?!」
家に帰ってそうそう、可愛い義理の妹にズビシ! とオタマを突き付けられる。
「私言ったよね? 夕飯までに帰ってきてッて!」
「さーせん」
「口の利き方~~~~!! 誠意がなぁぁぁいーーー!!」
「おっふ。ごめんよ、可愛いMYシスター」
なでなで
「か、可愛いだなんて……えへへ」
チョロ~い……──。
「も、もうー。ご飯温めなおすから、先にお風呂済ましてきてね!」
「ほーい」
怒った顔がなんとやら。
クラウスにタオルを渡すと、パタパタと足音を立ててキッチンに戻るリズ。
家中にいいにおいが充満しているところをみるに、食事をせずに待っていてくれたようだ。
ごめんよ、リズ。
だけど、お兄ちゃんは冒険者なんだ!
夕飯にまにあわないこともある────許せッ!!
……というわけで、風呂に入りながらのーーーーーーー。
レベルアーーーーーーーーップ!!
ざばぁ! とお湯を頭からかぶりつつ、クラウスはギルドで購入した魔石と、スケルトンジェネラルから入手した魔石を一気に使用する。
パキリと音を立て魔石が割れ、あふれ出た魔素がクラウスに染み込んでいく。
「お、おぉ……」
※ ※ ※
クラウス・ノルドールのレベルが上昇しました
クラウス・ノルドールのレベルが上昇しました
クラウス・ノルドールのレベルが上昇しました
クラウス・ノルドールのレベルが上昇しました
クラウス・ノルドールのレベルが上昇しました
クラウス・ノルドールのレベルが上昇しました
※ ※ ※
「ろ、6レベルアップかよ……。魔石(特大)すげぇ……」
レベルが上昇してきたためだろうか。
魔石(大)から得られる魔素が物足りなくなり始めている。
今のも、肌感覚的には4個使ってようやく2~3レベルアップ。一個ではもはや足りないらしい。
だが、スケルトンジェネラルから得た魔石(特大)は、一気に3レベル以上の上昇だ。
「おおー。こ、これからは積極的に上級モンスターを狩ってもいいかなー」
なんて、皮算用しつつも、スケルトンジェネラルの魔石(特大)を使って魔素を吸収したことで、不意に鉱山奥の戦闘を思い出し身震いする。
(……無理無理)
『コカカカカカカカカカカカカカッ!』
高笑いする骸骨面を思い出し、ブルリと身震いする。
……あれは運がよかっただけだ。
ティエラがいなけりゃ、通路の奥で狩られていたのはクラウスだろう。
「そ、それよりも────……」
※ ※ ※
レベル:38(UP!)
名 前:クラウス・ノルドール
スキル:【自動機能】Lv4
Lv1⇒自動帰還
Lv2⇒自動移動
Lv3⇒自動資源採取
Lv4⇒自動戦闘
Lv5⇒????
● クラウスの能力値
体 力: 285(UP!)
筋 力: 180(UP!)
防御力: 154(UP!)
魔 力: 93(UP!)
敏 捷: 178(UP!)
抵抗力: 64(UP!)
残ステータスポイント「+40」(UP!)
スロット1:剣技Lv4
スロット2:気配探知Lv3
スロット3:下級魔法Lv1
スロット4:自動帰還
スロット5:自動移動
スロット6:自動資源採取
スロット7:自動戦闘
● 称号「なし」
※ ※ ※
「うーむ……スキルポイント40かー」
パンツ一丁でウンウンと唸るクラウス。
髪からはポタポタとお湯が滴る。
「──次の【自動機能】の習得は恐らくスキルポイントが「+80」必要になるだろうな……。それまでどうしようか……」
【自動機能】一筋で貯めておくか。
それとも、コモンスキルを習得するか……。
下級のコモンスキルなら習得ポイントは少ないし、なにか取ってもいいかもしれない。
あるいは、そろそろスロットが手狭になってきたし、スキルポイントを使用してスロットを拡張してもいいかもしれない。
うーむ……。
それとも、ステータスに振るか。
筋力なんかはともかく、抵抗値が低いので、魔法攻撃や状態異常には脆弱だということ──。
だから、『毒の沼地』なんかだと苦戦するわけで……。
「うーーーーむ……………………」
だんだん、下級の狩場だとレベルアップが厳しくなりつつあるのも事実。
そろそろ中級と言われてもいいくらいのレベル帯だ。
幸い、お金で魔石を買っているが、それも限界があるだろう。
何より、
…………「破裂するわよ」
「ひぃ!!」
不意にサラザール女史の言葉が脳裏に蘇り、飛び上がるクラウス。
「おっかねー……。破裂したくないし、魔石も控えめにした方がいいよな」
とはいえ、魔物を倒してのレベルアップだと、ソロのクラウスでは下級以上の狩場にトライするには少々心もとない──。
このままゆっくりレベルアップしていけば【自動機能】のランクアップはまだまだ遠い……。
「よし、決めた!!」
ざばぁ……!
パンイチで、湯から上がると、桶に片足をかけてクラウスは裏庭にて叫ぶッッ!!
「リズぅぅぅぅう! 俺は無駄使いをやめるぞぉぉぉおおお!!」
そういって、スキルポイントを貯めることにした。
……先送りとも言う。(──棚上げ)
「うるさーーーーい!! 近所迷惑だって言ってるでしょ!」
パコーーーーーーン!
キッチンの窓が開き、しゃもじが飛んでくる。
「ぐっはぁぁっ!!」
見事な投擲……。
リズ。
お前なら冒険者やれるよ……。
グフッ。……バッシャ~~~~ン。
その日、クラウスはぐっすり眠れたとか眠れなかったとか。




