残された約束 【月夜譚No.120】
約束の指輪を空に掲げると、満月がその中に収まった。すると、彼女の瞳から自然と涙が溢れて、仰向けた頬に伝って落ちた。
夜の海は波の音が騒々しく、強く吹いた潮風が彼女の長い髪を靡かせた。素足を撫でる波は冷たかったが、そこから動く気には到底なれなかった。
約束をしたのは、たった一週間前。その間に様々なことがあった。あり過ぎて、何から思い返せば良いのか、判らないくらいだ。
それなのに、脳裏に浮かんでくるのは、優しい彼の笑顔だけ。楽しそうに、嬉しそうに、愛おしそうに、その眼差しを彼女に向けていた。
彼女は指輪を掌に握り込み、胸に当てて俯いた。
もう一度――あと一度だけで良いから、彼の笑顔を見たい。彼と話がしたい。
けれど、それはもう、叶わぬ願いだ。
滑り落ちた雫が波間に消えて、海と一体になる。彼女をも攫うように引いた波は、ただただ騒々しいだけだった。